『ALSとホスピスの基礎知識』第2回:ALSの発症原因

 

前回は「ALSとは」・「日本におけるALS」の2点についてご説明しました。

そこでは、

  • ・ALSは運動ニューロンを侵す病気であり、(随意筋部分に)運動障害があらわれること
  • ・日本においてALS患者は年々増加傾向であること

という点が特徴的でした。

今回はそんなALSの発症原因についてご紹介します。

 

2回目アイキャッチ

 

『ALSの基礎知識』シリーズの目次

 

第1回:ALSとは

第2回:ALSの発症原因

第3回:ALSの治療法

 

ALSの発症原因

 

まず大前提としてALSは感染する病気ではありません。

何らかの原因で、筋肉の動きを支配する脊髄の運動ニューロンが侵される神経の病気です。

そしてALSの原因は残念ながら現時点で明らかになっていません

しかし、これまでの研究からいくつかの仮説が考えられています。

 

今回は主たる仮説の

  • ・グルタミン酸過剰説
  • ・環境説
  • ・家族性/遺伝性説
  • ・酸化ストレス説

の4説についてご紹介します。

 

グルタミン酸過剰説

 

からだを動かしなさいという命令は、脳から発信され、運動ニューロンを介して筋肉に伝えられます。

このニューロンを更に細かく見てみると、

  • ・神経細胞体
  • ・樹状突起(じゅじょうとっき)
  • ・軸索(1つの神経細胞体に1つだけ存在)

と3つに分けられます。

 

グルタミン酸か常設

出典:als.gr.jp

 

この軸索の端と神経細胞体の間には、わずかな隙間があり、この部分はシナプスと呼ばれています。

先ほどの身体を動かす命令は、このシナプスを介して神経細胞体が受け取り、それを電気信号として軸索に伝えていきます。

軸索の端まで伝わった電気信号は、またシナプスを介して次の神経細胞体に伝わっていきます。

この時軸索の末端から、神経伝達物質という化学物質が出ます。

これを次の神経細胞体が受け取り、それが電気信号に変わって軸索に伝わります。

 

グルタミン酸(チーズ、昆布、緑茶等に大量に含まれる)は摂取すると、興奮性の神経伝達物質として働き、筋肉の収縮運動を起こします。

グルタミン酸が過剰になると、受容体から神経細胞体内に過剰流入をおこし、神経細胞体を傷つけ細胞死を引き起こします。

このような、過剰興奮に起因する神経細胞死のことを興奮性細胞死と呼びます。

よく知られている脳梗塞等の急性脳障害と同じメカニズムです。

 

現在ALS治療に認可されている薬剤リルゾールは、この仮説に基づいて開発されました。(第3回で説明)

 

環境説

 

日本においてALSは三重県・和歌山県の南部(紀伊半島南部)に多く発症する事が報告されており、近代以前は風土病として恐れられていました。

この紀伊半島南部と同じく、グアム島と西ニューギニアは筋萎縮性側索硬化症(ALS)の多発地区であることが、古くから知られています。

その頻度は、多い地区では全国平均の50~100倍にもなります。

また、グアム島と紀伊半島には、ALSの他にパーキンソン認知症複合 (PDC)という、これもこの二つの地域にしか存在しない特異な神経疾患が多発しています。

この2地区に限定的に大量に上記2疾患が現れた理由は、今のところ解明されていません。

 

しかし紀伊半島とグアム島の疾患には、いくつか共通する特徴があります。

その一つは、脳内に神経原線維変化という、特徴的な物質がたくさん蓄積することです。

神経原線維変化は、アルツハイマー病などその他の神経疾患でも出現し主成分はタウと呼ばれるタンパク質です。

タウの蓄積する疾患は、タウオパチーと呼ばれており、紀伊半島のALSとPDCもタウオパチーに含まれます。

また、2006年に発見された神経変性疾患の新しい原因物質として注目されているTDP-43という蛋白質もALS/PDCの脳内に蓄積していることがわかりました。

これらの物質により、ALS・PDCという疾患単位というよりも、症状の現れ方が異なってくるという研究報告があります。

 

また同研究報告では発病には、タウ蛋白・TDP-43蓄積メカニズムの様な環境による何らかのもの(環境要因)と、病気にかかりやすい体質(遺伝素因)が重なることが必要と説かれています。

次にこの遺伝素因によるALS発症について説明します。

 

家族性/遺伝説

 

ALSは、約90~95%が遺伝と関係なく発生するといわれています。

しかし 家族性ALS (親族が皆ALS患者)の一部に、活性酸素を解毒する酵素(SOD1)をつくる遺伝子の突然変異が共通で起こっていることが発見されました。

これが運動ニューロンを死滅させる原因の一つではないかと考えられています。

 

酸化ストレス説

 

しかし、SOD1遺伝子の変異は、家族性ALS患者の約20%にしか見つかっていない為、それ以外のALS患者の運動ニューロンも、活性酸素が原因で死滅しているのではないかという仮説もあります。

それが酸化ストレス説です。

酸化ストレスとは、体内で発生した活性酸素によって組織が傷害を受けやすくなる状態のことです。

酸化ストレスの蓄積が影響し、運動ニューロンが傷害されてしまいALSを発症・進行させるというものです。

 

酸化ストレス原因説

 

この酸化ストレス説をALS発症の影響と捉え使用される薬剤がエダラボンです。

 

まとめ

 

いかがでしたか?今回は主にALS発症の原因は未解明であり、主たる仮説を説明しました。

また、現在ALS治療にはグルタミン酸過剰説を基にしたリルゾール、酸化ストレス説を基にしたエダラボンという薬剤が認可されていることもご紹介しました。

次回はこれらの薬剤をはじめとするALSの治療法についてご説明します。

 

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現在ALS治療にはグルタミン酸過剰説を基にしたリルゾール、酸化ストレス説を基にしたエダラボンという薬剤が認可されています これらを含めたALSの治療法についてご説明します。

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