2018年までの構築が急がれている「地域包括ケアシステム」。
端的にいえば、「暮らしの中で医療・介護・福祉サービスを受けられる体制・仕組み作りの構想」のことです。
そうした「医療から介護」「施設から在宅」という流れの中で重要になるものの一つが、「訪問介護」。
実際、2000年から介護保険が始まって以降、介護職員は順増しています。(下図参照)
画像出典:社会保障審議会福祉部会資料
では、実際に介護現場にはどのような物語があるのでしょうか。
今回お話を伺ったのは、訪問介護事業所「まごころ介護」を運営されている榎本吉宏さん。
なんと、「まごころ介護」は来年で10周年を迎えるそう。
そんなまごころ介護を支えてきた榎本さんは、どのような想いで訪問介護事業を展開されているのでしょうか。そして、今後の医療・介護には何が必要なのでしょうか。
現在・過去・未来とお聞きしたインタビューで、そのあたりの示唆を得られればと思います。
まずは「現在」のお話からスタートです!
現在の業務内容について
――「まごころ介護」の事業内容はどのようなものでしょうか?
訪問介護事業を本業としておりまして、その事業領域としては、障がい、高齢、そして完全有料の個人負担のサービスの3つになります。
弊社ではそのうち、身体障害の方が全体の半数ほどを占めており、あと若干名ずつ精神障害、知的障害、そして難病の方がいらっしゃいます。
特に何をやっていこうという訳ではなく、いただいたご依頼をこなしていくとそのような構成になりました。
また、本業以外のところとしましては、重度訪問介護従業者養成研修を行っています。
そちらの研修は、2日間の研修と12時間の通学・通信講座を受けるだけで「重度訪問介護従業者」の資格が得られるものです。
しかも、13,000円と比較的低価格で受けられる研修なので、かなりお手軽に介護の仕事を始めて頂けます。
そちらを一昨年前から始めまして、そろそろ軌道に乗るかな、というところです。
――介護を始めるに際して、やはり最初の障壁というのは大きいものですか?
そうですね。
今までは、高齢者の介護を始めようと思うと、130時間の講習が必要だったり、10万円ほどの費用が必要でした。
ですので、そこで尻込みされる方にとって、重度訪問介護従業者の制度は、是非活用して頂きたいと思います。
(※)参照:重度訪問介護従業者養成研修について(まごころ介護HP)
―—榎本さん個人としては具体的にどのような業務をしていらっしゃいますか?
形式的に言うと、会社の運営の部分、それから管理者としての仕事、サービス提供責任者としての業務、それからいちヘルパーとして働いています。
日常の業務として一番多いのは、シフトの連絡・調整や利用者さんからの具体的な要望を各ヘルパーへ伝達することです。
その他、各ヘルパーが休みを取る場合には、自分自身もヘルパーとして対応に出ますし、研修の講師を務めていたりもします。
小さな事務所なので、かなり多岐にわたります。
簡単に言えば、「現場監督」のような立ち位置です。
まごころ介護事業所の特色
――榎本さんが現場を管理するうえで気を付けていること、まごころ介護の特徴などはありますか?
私自身が面と向かって口酸っぱく言うことはあまりないのですが、利用者さん一人ひとりを見て対応してもらいたいという想いがあります。
ただ、そこは皆がかなり会社の文化として根付かせてくれていると思います。
私自身も、飲み会の時などにそうした話をよくしています。(笑)
また、シフトの運営に関して一人ひとりが責任を持ってやってくれています。
日常的にもシフトに穴を空けることが少ないですし、東日本大震災のときにも、うちのメンバーがかなり献身的に動いてくれていました。
たとえば、弊社の管轄地域以外のところまで自主的に活動範囲を広げたり、家が遠いメンバーが事務所に泊りがけで動いてくれたり。
私が聞いた話では、その当時は他所の会社ではかなり厳しい状況だった所が多かったということです。
――まごころ介護は、従業員の方の平均年齢が20代であり、かなり若いことが特色の一つだと思いますが、何か理由はありますか?
おそらく、ホームページなどで若い人が写っている写真を見て、「自分にも出来るかもしれない」と思って応募に来てくださっているのが大きいと思います。
――若い方が多い中でも責任感が強い組織が作れているということでしたが、何がその要因だとお考えですか?
運営側が、一人ひとりが無理なく働ける環境を作ることが出来るかどうかが重要だと考えています。
入る段階でモチベーションが低い人はいないと思っていて、入った後に劣悪な環境を作ったりすると、その人のやる気を削いでしまうことがあると思います。
今、介護業界が人材不足と言われている中でそうした無理なく働ける環境を作っていくことは非常に大変ではありますが、そこが今後の分かれ道ではないかと思います。
――なるほど。先ほどのお話に戻るのですが、「利用者さん一人ひとりを見て対応してもらいたい」という点に関する御社独自の取り組みなどあれば是非お聞かせください。
訪問介護業務においては、利用者さんごとのマニュアルが用意されているのですが、弊社の場合は一人ひとり丁寧に個別に作成するようにしています。
「そこまで書くか」というくらいにこだわっていますので、従業員はそのマニュアルから、一人ひとり丁寧に接したいという考えを感じとってくれているとは思います。
訪問介護事業所の外部とのかかわりについて
――外部との組織的な繋がりとしては、どういう例がありますか?
訪問看護、訪問診療、行政のケースワーカー、国保連(※東京都国民健康保険団体連合会)、そして求人の業者さんなどが挙げられます。
――現在積極的にかかわりを持っているのは、外部ではどういったところですか?
管理者としての業務に際して言えば、求人業者の方とは密に連絡を取っています。
地域の介護を必要としている方に応えるため、そして先ほど申しました従業員が無理なく働くことが出来る環境作りという意味で、一つ一つの求人がどれだけの費用対効果をあげているのかを見極めつつより効果を上げていくことは非常に重要な業務と考え、取り組んでいます。
一方、利用者さん一人の方との対応の中では、健康状態が不安定な場合ですと、利用者さんの状況を訪問看護の看護師さんや主治医の先生にお伝えする必要が出てきます。
その場合には、たとえば「心拍がずっと上がってますが、この状態で大丈夫ですか?」など、直接ご連絡を差し上げることもあります。
――訪問看護師さんとの情報共有はどのくらいの頻度でされていますか?
もちろん、利用者さんの健康状態にもよるのですが、、、
たとえば、退院されたその日の利用者さんですと、ある異変が起きたときに、それが非日常的な異変なのかどうかの判断がつきかねることが多くなりますので、1回の訪問で2回かけることもあります。
一方、安定している方の場合ですと、1週間に1回かけるかかけないかぐらいの頻度です。
急いで伝える必要が無い場合には、連絡ノートに記入して共有する形をとっていますね。
――連絡ノートというものがあるのですね。
そうですね。情報の共有が必要な利用者さんのお宅には、その日の体温、血圧、心拍等を測って書いておくものがあります。
大体は利用者さんも主体的に関わって管理しているもので、利用者さんのお宅にどんどん保管されていく形をとっています。
人によっては、何を食べたか、尿の量はどうだったかなど、生活に関するあらゆることを残しており、万が一その方が救急車で運ばれるような事態になったときにそのメモを持っていけば、その方の数日間の生活の記録が書かれていますので、お医者様の判断材料として非常に役立ったりもします。
なお、中にはインターネットに詳しい利用者さんもいらっしゃいまして、オンラインで管理しているという例もあります。
――え? そんなことも出来るんですね!
ある利用者さんの場合、全然手は動かない方なのですが首だけはしっかり動く方で、おでこにタッチペンをつけて自分の目の前にiPadを置いておく。そして、それで全部操作しちゃいます。
最近は、照明なども遠隔で操作できるものがあったりしますので、本当にほとんど全ての動作をiPadで行ってらっしゃいます。
一人暮らしの高齢者の方への対応について
――まごころ介護のアルバイトをされている小山さんのインタビューとも絡みますが、一人暮らしの高齢者の方の利用は多くみられるものですか?
対応の事例としてはそこまで多い方ではないのですが、世田谷区全体では一人暮らしの高齢者の方は多いです。
私自身も世田谷区に住んでいた際に、あまり良くない話ですが、孤独死が同じマンション内で起きていたりという話は聞きました。
――そのあたりは訪問介護を広く認知させることで防げる部分はあると思いますか?
そうですね。
ただ、やはり地域全体で取り組むことが大事だと思います。
――地域全体の取り組みという点、何よりもまず「発見」することが大事だという話は聞いたことがあります。
私が昔住んでいたところでは、毎日洗濯をする際に、旗の色を入れ替えるという取り組みをしていたことがあります。
私自身、そのころは既に訪問介護の仕事に携わっていたため、なにか出来ることはないでしょうか、とお声がけすると、「これから皆で気をつけていくから大丈夫だよ」という形に落ち着きましたが、そうした取り組みは重要だと思います。
※以上が、榎本さんの現在のご活動に関する内容になります。
「そのころは既に訪問介護の仕事に携わっていた」というお話が出たところで、以後、第2回にて榎本さんの「過去」のお話へと移っていきたいと思います。
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