第2回は、岩本さんのこれまでのご活動を時系列順に伺ってきました。
今回はその続きで、2010年の訪問看護ステーション立ち上げ以降のご体験について伺います。
そして、今回は本インタビューシリーズのクライマックスです。
これまでの岩本さんの幅広いご経験のなかで感じた幅広いご経験の「棚卸」とも言える内容です。
第3回の本記事は、今まで以上に示唆深いお話が盛りだくさん。
意思決定支援、訪問看護、そして人の生きざま、、、
いろいろ感じ、学び取って頂ければ幸いです。
訪問看護を実践する中で得たもの
――訪問看護ステーション立ち上げから現在6年。これまでの経験のなかで、やってよかったと思うこと、教訓などありましたら、是非お教え頂ければと思います。
医療コーディネーターとして意思決定支援をしてきたのですが、訪問看護も、すごく意思決定支援に携わることが出来る場だと思います。
なかなか病院の中では意思決定支援がしづらいものです。
自分の立場があったり、時間に制約があったり、セカンドオピニオンを勧めづらいですし、ましてや「主治医を変えることも出来ますよ?」なんて言えないですよね。笑
それに対し、訪問看護の場合は意思決定がしやすい。
それは弊社が株式会社だというのもあるのですが、意思決定支援をする「方法」の面から言うことが出来ます。
どういうことかと言えば、私たちは意思決定支援のプロセスを整理して、研修・教育を行っているのですが、そこでは意思決定支援のプロセスを4つに分けて考えていきましょうということを言っています。
4つのプロセスというのは、「知識」「価値観」「手段」「感情」のことです。(※下図参照)
そして、4つのプロセスのうちのどこかに課題があると意思決定が出来ないので、どこに課題があるのかを見ていきましょうと話しています。
これらのうち、特に「価値観」の部分は、在宅にいると非常に近い立場で伺うことが出来ます。
継続的に何度も何度もその人に会うことでその人自身が見えてきますし、信頼感も生まれるからです。
そこに看護師が関われるのはすごく大きいので、意思決定支援の場としても在宅は非常に面白いと思っています。
――なるほど。たとえば、大勢の方に対して声掛けするのと、1対1でじっくりお話するのとでは全然違いますよね。
医療コーディネーターの場合だと、相談にいらっしゃった方と1~2時間お話して結果まで導いていくのですが、訪問看護の場合は普段から何度も何度も話している方とプロセスを辿っていくことが出来ますので、非常にやりやすいですね。
――一般的に言われている訪問看護のプラス面を具体化してくださった印象です。
意思決定支援は今流行のようですし、意思決定支援をやりたい人は訪問看護がピッタリだと思います。
意思決定支援に関わるということ
――これまでの数多くの経験の中で、特に、意思決定支援に想いを巡らせるきっかけとなったエピソードなどありましたら、是非お話頂きたいです。
婦人科に移ってすぐに出会った患者さんは、意思決定について考えるきっかけになったと思います。
当時の私と年齢が1つか2つしか変わらないがん患者さん。その方は、家に帰りたいとおっしゃっていました。
しかし、モルヒネをたくさん投与している状況で、主治医の先生は「こんなにたくさんのモルヒネを使える在宅の先生はいないから帰せない」との判断をしました。
でも、私は「帰りたいとご本人が仰っているし、本当にそうした在宅の先生がいないかどうかは分からないんじゃないか」と思いましたので、退院調整の看護師に「本当にいないのか調べてもらいたい」と言いました。
そのころは、医師の指示がないと退院調整の看護師につなぐことも出来なかったんです。
それで結局、主治医に「つないでほしい」と言うと、「チームの輪を乱す」ということを言われ仰いました。
「チームの中心って誰なんだろう?」
「本人が帰りたいと言っているのに、やれる手段を尽くさないのは、患者さんの思いが入っていないチームなのではないか?」
私はこう思いました。
同時に、「まだまだピラミッドで、医師が指示をして・・・」という世界の中で、看護師として何が出来るんだろうというのはすごく考えました。
その患者さんは抗がん剤の副作用がひどくて、ご飯を食べることも全然出来ないような状況でしたが、「気分転換のために外にご飯を食べに行きたい」と言いました。
私がある時、別の医師とその話をしていると、「行けばいいじゃん」と背中を押されて。
「いや、でも一人じゃ心配だし」と私が言うと、「じゃあ、看護師と一緒に行けばいいんじゃない?」と言うわけです。
「え? そんなのやっていいんですか?」と聞き返すと、「そんなのみんなやってるよ。」と。
そんなわけで、一緒に車に乗って外に出かけて、ビュッフェに行くことになりました。
ビュッフェだと好きなものをちょっとずつ食べられるかなと思って。
ただ、その患者さんは普段すごく吐いていらしたので、「車にも乗れないんじゃ・・・?」と心配していました。
でも、いざ出かけたときには、車にルンルンで乗って、ビュッフェでもすごく食べて。
私は「帰りの車で吐いちゃうんじゃ・・・」なんて思って見ていたのですが、そんなことも全然なくて。
「こんなに場所とか時間を変えるだけで食べられるんだ、変わるんだ」と思いましたね。
だから、病院の中だけで出来ることって本当に限られていると思いましたし、「ここにこのままいていいのかな」と思って看護師を辞めようかなと思ったりもしました。
でも、その患者さんが「絶対辞めないで」って。
「仕事で看護師をやっている人はたくさんいるけど、そうやって真剣に考えてくれる人はなかなかいないから、絶対に辞めないで」
こう言って下さいました。
その時には、「自分に何ができるのか」ということをすごく考えました。
その方は、20代後半で若くして亡くなられました。
※岩本さんが涙を流しながらこのエピソードを語ってくださっているとき、本当に心が打たれました。
――このときは国立の大学病院に勤められていたのも関係しているんですかね・・・?
他の病院はあまり知らないのですが、医師がヒエラルキーの一番上というのは、国立だったということもあるかもしれないですね。
でも、良い先生も本当にたくさんいらっしゃいました。
看護師以上に患者さんに近づいていって、ずっと背中をさすりながら話を聞いている医師もいたり。
本当に人によって全然違いますが、たまたまその時の主治医がそうだった。
私は、医師の指示をその通りに行うだけなら、それは看護師じゃないと思いました。
「看護」にしか出来ないことがあるはずだ、と。
「〇〇さんらしさ、〇〇さんが大事にしていること」を医師に伝えたり、患者さんご本人がご自身の悩みを分かっていない場合にその手助けをしたり、そういうことが看護師に出来ることなのかなと思います。
――病院内でもどかしさを感じている看護師さんはたくさんいらっしゃるように思います。
病院は本当に短時間で患者さんが移り変わっていくので、「話を聞いてあげたいし、親身になって意思決定支援をしたい。でも出来ない。」という看護師がたくさんいる。
だから、意思決定支援をしたい方が現にいっぱいいらっしゃるんだと思います。
――現在病院に勤めている方で、将来的に在宅において意思決定支援をしたいと思っている方を念頭に置いたとき、病院で勤務しているときに出来ることは何かありますか?
実は意思決定支援というのは、自分が関わろうとしなければ、たとえ在宅にいたとしても関わらないで済んでしまう領域です。
それはどの場所にいたとしても同じです。
それを前提として、「患者さんが何に悩んでいて、何が充足出来れば『決める』ことが出来るのか」という視点で関わっていくという訓練をするのはどこにいても出来ることだと思います。
病院の中ですと、なかなか時間的な制約があって難しいことだとは思いますが、そうした視点を持つだけで全然変わってくると思います。
これまでの幅広い体験を通して見る、訪問看護
――ここまで来歴をお伺いしてきて、やはり非常に幅広い経験を積まれてきたことが理解できました。そんな岩本さんから見て、看護師が訪問看護に従事するのはどのくらいの時期からが適当だと思われますか?
出来なくはないのですが、訪問看護“だけ”をやるのは難しいとは思います。
採血などの技術的な面を学ぶ場がすごく少ないので。
ただ、短期集中で技術を学ぶ場が増えてくれば話は変わってくるかもしれないですが。
あとは、ステーションのカラーにもよるんですけれども、たとえば私たちの場合は病院 ― 特に大きい病院とのやり取りがすごく多いです。
とりわけ意思決定支援をやりたいと思っている私たちは、末期だけではなく治療中から関わる必要が出てきます。
そうした時に、その病院で行われていることを全く知らないと、「病院ではこうだった」という話や「病院の人はこういう想いでやっている」といった情報伝達が出来ないということがあり得ます。
ですので、ある程度病院の業務内容を知ってから在宅へ進むということは、スキルとしては望ましいのではないかと思います。
両方知っていると、何より幅が広がりますね。
岩本さんの死生観の変化と今後の生き方
――最後にお伺いします。看護師になったきっかけとなった「生死への興味」という点、色んな方の死に触れてきたことで、自分の死生観に変化はありましたか?
「ただ怖い」という感覚からは変化したと思います。
もともと「死が怖い」と思っていたのは、それが「知らないこと」だったからで、「たくさん知れば怖くなくなるかな」と思って看護師になりました。
でも、実際に間近で見ていて「怖い怖い」と言いながら亡くなる方はそんなにいなかったので、「なんでだろう」という風に思っていました。一般的にもそういう話は聞かないですよね。
そうしてみていると、死に際した時に「『死にたくない』と強く思う人」と「穏やかな人」の2パターンがあることが分かりました。
おおよそ「死にたくない」と強く思っている人というのは、後悔がたくさんある方です。
その点、よく覚えている患者さんがいまして、「私の人生ってなんだったの!」と毎晩毎晩泣いて叫んで、という方がいました。
その方は、姑に仕えることになったり、子育てが上手くいかなかったりしてて。
一方、先ほどお話した20代後半の方の場合だと、すごく穏やかに亡くなられました。
「この違いは年齢ではないのでは・・・」と思いつつ、患者さんと触れ合ってきましたが、結局は「自分がこれで良かったんだ」という時間を積み重ねていくことが、最期の時間に穏やかな死につながるのではないかと思いますね。
もちろん、全く後悔が無いというのは難しいとは思いますけれども。
その点、意思決定支援は「自分で納得して医療を受けるため」のもので、少なくとも私たちが関係する「医療」のシーンに関しては、「これでよかった」と思えるような支援がしたいと思っています。
結論としては、ありきたりですが「毎日大切に生きましょう」ということです。
それは、スティーヴ・ジョブズも言ってましたよね。毎日鏡を見て、「もし今日が最後の日だとしたら?」と自問自答するという。
本当にそうだと思います。
でも、彼は最期に「僕はこんな人生を送るつもりじゃなかった。自分は金の亡者だった。成功者だと思われているけど全くの失敗者だ」というようなことを言ってましたね。笑
まぁ、そんなものなのでしょうけども、「他にやれることはないのか」とは考えるようにはしています。
――とすると、後悔しない選択のための手助けをする「仕事」、というよりも「活動」を今後もしていきたいと。
そうですね。
好きなことをやっているので「仕事」ではないですね。笑
よく「夢は?将来の目標は?」ということを聞かれますが、私の場合はあまりそういうことはないです。刹那的というのかもしれませんが。笑
「今日良かった」と思える、そういう生き方ができればと思っています。
そして、あとは目の前で困りごとがあった時に、それに応えられれば後悔はありません。
岩本さんへのインタビュー、いかがでしたでしょうか?
もっと岩本さんのお考えに触れたい方は、ご著書(※共著)をご参考にして、実践に活かしてみてくださいね♪
・『患者中心の意思決定支援―納得して決めるためのケア』
→治療等の選択肢や様々な医療情報を前に困惑する患者・家族。彼らがよりよい意思決定をするには支援が不可欠である。そこで本書はシェアードディシジョンメイキングの考え方から具体的な支援の在り方、社会資源の活用法等を取り上げる、医療関係者必携の一冊。
・『在宅医療 多職種連携ハンドブック』
→地域の最前線で活躍中の現場のエキスパート多数執筆! すぐに実践できるノウハウ満載! 認知症患者は将来的には800万人、65歳以上の25%、80歳以上で50%の時代がやってきます。従来型の医療システムでは、この状況には対応できません。今こそ多職種が連携し、「最期まで住み慣れた地域で生活すること」を支えるための仕組みづくりが必要です。本書は、そのために必要とされる知識と実践方法を網羅し、日々ハンドブックとして活用されることを目的として編集されています。
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☆関連お役立ち情報☆ |
・【岩本ゆりさんインタビュー第1回】「死」への怖れから看護師へ。意思決定支援スペシャリストの素顔とは。 |
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