第1回では、「患者さんにとって本当に必要なことは何か?」という、秋山さんが大事にしている自身への「問いかけ」を伺うことが出来ました。
第2回では、そんな秋山さんの過去に迫り、秋山さんの「人を巻き込む魅力」のルーツを探り、「必要性に迫られるからこその“本気の”取り組み」についてのお話を伺いました。
そしてこの第3回。
現在進行形のマギーズ東京プロジェクト(がん患者と、支える人たちの居場所をつくる取り組み)のお話を通して、秋山さんが目指す「新しい相談支援の形」について伺います。
マギーズ東京プロジェクトについて
――秋山さんは、マギーズ東京の共同代表でもあられますが、現在どのような関わり方をされていますか?
共同代表として、様々な意思決定や広報活動をしています。
NPO法人として法人格を持っていますので、理事会や総会決議などが意思決定の最高機関ですけれども、現段階においてはさまざまな意思決定事項があります。
様々なグループで準備をしているのですが、例えば身近なものだと、「〇〇を支払うのかどうか」といった意思決定をしていく必要があります。
――マギーズ東京は、たしか10月にオープン予定ですよね?
そうです。
建物に関しては、竣工に向けて着々と進んでおりまして、建物周辺のお庭ができてきて、みんなで一緒に草むしりをしたりというのもあります。
ただ、もちろん外の箱だけが問題というわけではなく、中身としてやることが一番大事です。
相談を受けるナースたち、いわゆる「ヒューマンサポートチーム」と呼ばれる人たちを育てる研修を組んで、土曜日や日曜日を使って行ってきました。
――現在のマギーズ東京の活動において秋山さんは、「大小さまざまな決裁」と「広報活動」、それから「ヒューマンサポート」を主眼に置いている、と。
そうですね。
マギーズ東京プロジェクト開始のきっかけについて
――それでは、ここからはマギーズ東京の着想時点のお話を伺いたいと思います。イギリスのマギーズセンターに行かれた経緯はどのようなものでしょうか?
2008年11月にイギリスからセンター長が日本にスピーカーとして来られることがありました。
そこで、同じくスピーカーとして私も呼ばれて、「在宅でのがん患者の家族ケア」というテーマで日本での経験についてお話しました。
その場が発端になります。
その時に聞いた「病院以外の場所で、患者のみならず家族に対しても相談支援をする」というのはとても画期的なことだと思い、2009年の2月末にイギリスに実際に見に行きました。
やっぱりこれは本物だと実感し、1年後の2010年にはイギリスのマギーズセンターのCEOを呼んだりもしました。
というのも、素晴らしいものがあるというだけでなく、もう少し本物の声といいますか、それを創って来られた方に語ってもらいたいと思ったからです。
それから「実際に日本にも作れたらな」と考えて活動していく中で、自分の力を取り戻す相談支援のあり方をベースとして、2011年の7月に「暮らしの保健室」を作りました。
「暮らしの保健室」は、マギーズセンターの考え方を基にして、マギーズセンターの環境をいれて、同じように予約なしで話をじっくり聞くところから始めました。
――マギーズセンターに関して、最も画期的だと思ったのはどういった点でしょうか?
当たり前のことのようですが、「患者さんの言葉を本当にさえぎらずによく聞くこと」です。
日本の外来では、医療者側は患者の話を聞くことが大事であるともちろん分かっていながらも、患者側としては話が聞かれていないと感じている現状があります。
というのも、(患者さんが病院から)在宅に移行したときに、訪問看護では、病院では聞かれなかった病気体験をずっと伺うことから始まるパターンが本当に毎回なんです。
ということは、「聞かれていない」ということであり、いろんな心配事を抱えながら家に帰ってきているんですね。
相談できる場所が身近にあって、その方たちがもっといろんな情報に出会っていたら、最後の最後のぎりぎりで在宅に、ということにはならないと思っていました。
それで、このマギーズの話を聞いたときに、癌のどの時期でも相談できる、そしてあえて病院の外でよく話を聞くことが出来る空間というのが必要だと思いました。
(患者さんの)話を聞くのは、その人自身が自分の時間や自分自身の考え方を取り戻すためであり、そのためにマギーズセンターでは癒される空間を作っているというわけです。
日本の病院の問題点
―今の日本の病院の問題点は訪問看護の経験を通してずっと抱いてらしたのでしょうか?
そうですね。
約10年経って2000年あたりから、加速がつくようにがんの治療方法が変わりはじめました。
外来中心で、良く言えば「体力を落とさずにできる治療」の選択肢が広がってきました。
逆に言えば、選択肢が広がるだけではなく、情報が入ってこない人はそうした治療にたどり着けず、病院に勧められるがままにそれのみを選択している状況があります。
――自己選択できていない現実がある、と。
そうです。
がんの治療中は、身近な暮らしの中での困りごとがたくさんあるのですが、医師には相談できないと思っている人が多いです。
「これはお医者さんには言えることではないけど、実際は困っている」といったものです。
そうした場合には看護師が相談に乗ってもいいのだけど、(患者さんからは)看護師が相談に乗ってくれるとは思われていないですよね。
だから、在宅で訪問看護に行くときには相手の土俵に私たちも入っていって、「今までのことを聞かせてください」「どんなことでお困りですか?」という形で当事者目線で話を聞くんですけれども、当事者の生活の場に入った上でやるのはやはり病院という環境の中より話しやすいんですよね。
こちらも聞きやすい形でいろいろ伺うことが出来ます。
――患者さんの中には、こんなことを話したら迷惑かなと思ってしまう方も多い気がしています。
そうですね。
「いい患者さん」になってしまっていることはあります。
医者や看護師に対しての言葉を濁してくれていたり。
もちろん、はっきりと言う人と言わない人の両方がいるとは思うんですけど、意思には都合の悪いところは言わないということは往々にしてあります。
たとえば、「痛い」ということも言わない方がすごく多いです。
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