マギーズ東京プロジェクトの今後の展開について
――その点、マギーズ東京はまさにそうした場所を目指しているかと思いますが、これからどのように展開していくのでしょうか?
今英国内に19か所、英国外に1か所あり、国外第2号にあたりますが、日本では初めてなので、まずは日本の「パイロットスタディ」(※調査の初期段階として、対象を絞って始めること)としてやってみることになります。
チャリティで運営するので、これからも維持経費が掛かるわけですから、資金調達の活動をしつつ、まずいろんな悩みを抱えている人たちの相談に乗りながら運営していきます。
ただし、相談にいらした方が自分の力を取り戻すのが大原則です。
それはよく「エンパワーメント」と言われていますが、どうしても病院の場合は、リスクを回避するために患者を指導し看病することになりがちです。
マギーズ東京の場合はそうではなくて、患者さんの目線、当事者目線が第一です。
――病院の外でしかできないことがやれる、という認識でしょうか。
はい。
ただし、決して対立するものではありません。
病院の医療はとてもスピードアップしているため、取り残されていく患者さんがいます。
中には、取り残しているのを気にしている病院もあります。
しかし、そこの流れを全部止めて、すべての患者さんの相談を受けられるかと言われると難しい。
もちろん病院の中の相談支援センターの充実はしていただきたいのですが、やはり足りない。
その点マギーズの取り組みは、病院の外にある非常にリラックスできる空間で相談支援を行うことです。
つまり、自分自身の力を取り戻し、次の診察の時には自分の口で「こういうことに困っている」「こういうことを教えてほしい」と自分から言える人をつくっていく取り組みなので、本人だけではなく、病院も助かります。
ですので、対立するものではないのです。
「自立支援」が出来る人とは?
――本インタビューを通して、秋山さんは自分の力で言葉にして言うということをすごく意識していらっしゃる印象を持ちました。
患者さんに「そう思ってほしい」と秋山さんが思うようになったのには何かきっかけはあるのでしょうか? それとも業務をする中で自然に思われたのでしょうか?
介護保険でもよく「自立支援」という言葉が使われます。
あと、看護でも自己決定を支援するということは言われますよね。
それは、簡単に言えば「自立した人を育てる」ということです。
ただし、自立支援や自己決定支援を行うことができるのは自立した考えができる人でないと本当はできないと思っています。
その点、(病院勤務の)看護師は病院に守られている面があり、何かあったら「お医者さんに聞いてください」「薬剤師に聞いてください」と言って、「自立した考えを持つ」ための機会を逃しているケースが多々あります。
そうではなく、自分をちゃんと持ちながら、患者さん一人ひとりに何をするのが最善なのかを考え、そのうえで対話をしていける力が必要だと思っています。
――自分自身がそういう風に生きてきたからこそ分かること、だからこそ充実しているというのもあるのでしょうか?
ただしそうはいっても、自分の思うとおりになることなんて本当にわずかです。
たくさん妥協したり、挫折したり。
そういう時には、何を一番大事にしなくていけないのかということが重要になります。
それは、目の前にいる患者さんです。
その人が一体何に一番苦労しているか、その人自身が一番望んでいる生き方は何なのか、そこを支えていく。そして、その一つの支え方として「医療」という専門性を持ちながら接していく。
そこにいつも立ち返れるといいですよね。
――肉体的苦痛を取り除く医行為は、患者さんが自己決定するためのツールの一つなんですね。
私自身の体験の中では、「子育て」が参考になります。
子育てをする中では、子どもって自分の思ったようにならないことが山のようにあります。
自分の意志を持った人間ですから。
子育てをしていると、自分の思いを抑えてでもしなきゃいけないことに出くわします。
これは子育てだけでなくて家族の介護の時にもあるかもしれません。
こうした「一番大事にしないといけないことは、その時の自分の思いを抑えてでも」という体験は、実際の看護ケアにも活きてくるんです。
特に在宅の現場ではこうした生(なま)の体験が活きることがすごく多いです。
病院にいる方もぜひ在宅へ。
一旦病院勤務から家庭に入った方でも、不安はあるかもしれませんが、現場へ戻ってきてほしいなと思いますね。
秋山さんから病棟勤務の看護師さんたちへのメッセージ
――今仰っていたことに少し重なる部分はあるかと思いますが、主に病院で働かれている看護師さんに向けて、在宅の現場でご活躍されている秋山さんからメッセージを頂ければ幸いです。
今の病院の現場、特に急性期はすごく時間の流れが速く、診断・治療の現場には次々といろいろな機械や薬が投入されています。
それと同時に、「リスクを回避するための安全」がしきりに叫ばれます。
つまり、患者さんを管理するという側面が強くなってきています。
そうすると、病院の中にいる患者さんは管理の対象となってしまうので、本来のその人の暮らしている姿から遠ざかってしまいます。
そうした現場では、仮に患者さんのことを理解してお話を伺いたいと思ったとしても、時間の流れが早いため、省略していかざるを得ない。
これに対して、「これでいいのか?」などさまざま感じている看護師さんは多いと思うんですね。あるいは、とても忙しく、疲れ果ててしまっている方もいると思います。
患者さんは実は一人のヒトとしてその人の人生を生きているので、(病院を出たら終わりというわけではなく)その人が家に帰った後、普通に暮らす中で病気と付き合っていくことになります。
そこにも看護の現場はあります。
そして、病院とは違った発見が必ずあります。
疲れた看護師の方は、どうぞ在宅へ一歩踏み出してみてください。
※在宅にご興味がある看護師さんへお知らせ
現在東京都では訪問看護ステーションの教育研修を受ける場を補助しています。
白十字訪問看護ステーションは、東京都訪問看護教育ステーションとして訪問看護ステーション体験・研修を実施しています。
→詳細はこちらからどうぞ!
なお、この制度に関しても、秋山さんの言葉を頂きましたので、最後に掲載いたします。
まだまだ医療現場としては病院のほうが比率が大きいですが、これからは在宅のニーズが増えていくので、関心を示していただけるようであれば、是非。
学生の時にも訪問看護ステーションなどの在宅実習はありますが、社会人になってからだと感じ方が違うので、ぜひうまく利用していただければと思います。
在宅で過ごす患者さんの姿を見ると病院の中での患者さんの見方も変わると思うので。
ぜひ利用してみてください。
(第3回:完)
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