第1回のインタビューでは、主に、まごころ介護事業所の運営方針や榎本さんご自身のご活動内容についてお伺いしました。
そこでは、主に下記の3つが印象に残りました。
- ・「利用者さん一人ひとりを見て対応してもらいたい」という想い
- ・そのために、介護の作業マニュアルを一人ひとり丁寧に個別に作成するなどしている
- ・また、従業員の責任感を失わせないために、運営側が、一人ひとりが無理なく働ける環境を作ることを重要視している
さて、第1回の冒頭でも述べた通り、まごころ介護は来年10周年を迎えられます。
そうして長期に渡って事業所を運営されてきた榎本さんは、どのようなご経験を経て、現在へと至ったのでしょうか。
以下、過去の経験を踏まえ、今後の展望までお聞きしましたので、一挙にご覧ください!
訪問介護への興味のきっかけ
――最初に訪問介護に関わられたのはどういった経緯ですか?
一つは、叔母に知的障害があったことです。
私の家系的に、叔母より年下の者が私しかいなかったこともあり、大学生時代に「必ず自分に関わってくる問題だから、このこと(※介護)について良く分かっておいたほうがいい」と考えました。
もう一つは、国際協力の仕事がしたくて、海外に渡航したかったことです。
海外に渡航するためにはお金を貯める必要があったのですが、当時、訪問介護のアルバイトは学生にとってお給料が良いことは知っていたので、始めることにしました。
――訪問介護のアルバイトを始められてからはいかがでしたか?
つらくて厳しい仕事と思って始めたのですが、始めてみると楽しかったことが印象に残っています。
アルバイトだったからかもしれませんが、色んな形で利用者さんと交流することが出来ました。
利用者さんに喜んでもらうために様々な取り組みをしていて、実際に喜んで頂けるとすごく楽しいと思えました。
――国際協力に関心を持っていたのはどうしてですか?
大学在学中に、パレスチナのヨルダン川西岸やガザ地区にイスラエルの侵攻があったことがきっかけです。
それ以前に関心がなかったわけではないのですが、そのことがきっかけで「見て見ぬふりはしたくない」と思うようになり、実体験として何か話ができるようになりたいと考えました。
そのため、アルバイトを始めた頃は、2日に1回夜勤をするなど積極的に取り組んでいて、将来はJICAの職員になりたいと思っていました。
しかし、「こんなに頼ってくれる人がいる上に、介護だって大事な仕事なのに、それを捨てて遠くへと行くのはどうなんだろうか・・・」と思うようになっていって。
あと、素直に介護の仕事が楽しく思えたというのもあり、この仕事を選びました。
事業所開設の経緯
――事業所立ち上げに至ったのはどのような経緯でしょうか。
私が大学を卒業する時に、ちょうど利用者さんが介護の事業所を立ち上げることになり、協力してほしいとの打診を頂いたので、そちらに参加することになりました。
50代の身体障害の方と介護のアルバイトをしていた大学4年生3人で立ち上げました。
それがそのまま現在の会社です。
――卒業までの間のアルバイトの期間はどのくらいでしたか?
2年ほどです。
ただ、当時はそれこそフルタイムの方よりも働いていました。(笑)
――アルバイト時代はどういった生活でしたか?
結構無茶苦茶な生活でした。(笑)
2日に1回のペースで夜勤に入っていたので、もう家が要らないんじゃないかと思うほど。
事業所と研究室と実家を転々としていたのですが、そのぐらい介護の仕事に没頭していました。
印象深い利用者さんについて
――アルバイト時代も含めて、印象に残っている利用者さんはいらっしゃいますか?
はい。
脳性麻痺の障がいを抱えている方で、今は退職されていると思いますが、施設で暮らしているけれども地域で暮らしていきたい方のサポートをされていらっしゃいました。
その方からは、介護をする側も、「障がい者自身が主体となって生活をすることの尊さ」を理解する必要があるのではないか、ということを教えて頂きました。
その方は、障がいの方が一人暮らしをすることの意義について造詣が深い方で、施設ではなく在宅を選ばれる方というのは、自分らしく生活をすることを非常に大事にされている方が多いということを仰っていて。
特に50年代60年代の方は今みたいな訪問のサービスを受けられない方も多かったので、施設に入らざるを得ないところもあったんです。
中でも特に印象に残っているのは、利用者には「危険を冒す権利もあるんだよ」と仰っていたことです。
たとえば、自分がどうしてもやりたいことがある場合、健常の方だったら危険を省みずに行動することが出来ますが、障がいがあると、周りの人の判断で「やめなよ」と制止される場合が少なくない。
また、介助者の人権のようなものが守れなかったりすると、ヘルパーさんにも危険が及んじゃうから許可することができないということもしばしばあります。
今で言うと、飲酒がその好例として挙げられます。利用者さんの転倒のリスクが上がってしまうため、一律禁止としている事業者さんが結構多かったりするんです。
そうした、判断が難しい事柄を色々と教えて頂きました。
――施設であると、やはり多くの制限がかかってしまいますか?
その傾向はかなり強いかと思います。
(施設の場合だと、)やはり大勢の方に集約的にケアを行うことが主旨になるかと思うので。
――これからの時代、健康寿命の伸長が推進されていることから、たとえば「70歳だとさすがに・・・」という固定観念のようなものが覆されていくかもしれないですね。
そうですね。それが良いことか悪いことかは一概には言えませんが。
ただ、大事にしたいのは、健康もそうですが、「自分らしく生活できるかどうか」ではないかと思います。障がいのある人にも自分の選択を出来るようにしてほしいと考えています。
そのあたりの話で、医療あるいは行政の方と何度か議論をしたこともあります。
――何かエピソードがあれば、是非お聞きしたいです!
飲酒をされていたある利用者さんの話です。
ある時、利用者さんが意識を失われたことがありました。
その直前に、利用者さんは飲酒をされていたんです――実は、結果としては、薬の飲み合わせが悪かったことが原因だったのですが。
それに対し、行政のケースワーカーの方は、そうした利用者さんを容認していると受け入れてくれる介護事業者がいなくなってしまうということで、おおよそ頭ごなしに飲酒を禁止しようと動かれていました。
しかし、私が主治医に意見を伺ったところ、「おそらく関係ない。飲酒が原因ではない可能性が高い。」とのこと。また、利用者さんも主治医の見解を聞いていたので、(飲酒が禁止されることに)納得していませんでした。
ところが、飲酒を禁止したいケースワーカーの方は、飲酒を控えてもらうために本人に同意書を書かせようとしていました。
それを知った私は、「本人が納得いくまで説明してくれないと、私は首を縦に振ることは出来ません」という主張をしたため、ケースワーカーさんも「なんだこの人は」という様子の表情を浮かべられて、、、
結局このケースでは、利用者さん本人が本人の意思で「自分の健康のためにも・・・」ということで納得し、飲酒しないという結論に至ったのですが、やはり、本人が納得していない状態でお酒が飲めないとなると、もやもやしたまま生活をすることになったと思います。
そうなると、ご本人の生活が面白くなくなってしまうのはもちろんですが、仕事をしている私たちも満足のいく仕事がしづらくなってしまいます。
看護師さんとの関わりについて
――看護師など医療職の方と意見交換する機会はありますか?
たとえば、痰の吸引の機器の管理方法などについては、看護師と意見交換することはあります。
また、コミュニケーションの障害がある方の場合だと、眼球しか動かないケースもありまして、医師もそうした方と初対面の場合には意思疎通が難しいので、私たちが通訳することが必要になります。
ただ、基本的には医療面においては医師・看護師の言うことは絶対として、日常面では利用者本人の意思が絶対ということはあります。
――介護者から見て、看護師さんがより良いケアをするために必要なことは何かありますか?
よく本人の話を聞いて欲しいということはしばしば思います。
確かに訪問の時間が少なくて満足に時間を割くことが出来ないのは重々承知していますが、そうした意識を持っておくだけで利用者さんとの信頼関係を築きやすくなるのではないか、また、実際に信頼関係を築けている方は、そのあたりを上手く行っている印象を持っています。
たとえばですが、医療の知識を上から振りかざしてしまうと、やはり双方向のコミュニケーションが取れなくなってしまいます。
今後の展望について
――今後はどういうご活動をしていきたいですか?
さきほど少し触れたように(→※第1回インタビュー参照)、業界全体が深刻な求人難・人材難に陥っていまして、今後を考えるともっと厳しい状況になることが予想されます。長期的に、このまま安心して利用してもらえる環境を作っていけるのかというと、確証はありません。
ですので、今まで人材として対象外だった人も対象にしていける事業をやっていきたいです。
現在、小さいお子さんがいても仕事を続けられる環境づくりを始めています。
たとえば、会社内で子供を預かりあえる仕組みを作っていて、先月には、子育てをしながら会社のバックヤードを担当してくれている私の妻が、チャイルドマインダーという資格を取りました。
今後ビジネス展開するには、社外からもお子さんを預かったり、社外の子供を預かる専門の方に任せてみたりする必要が出てきますが、その点、実は世田谷区は待機児童が一番多いんです。
つまり、働きたくても働きたい方がたくさんいらっしゃるかと思いますので、そうした方が働ける環境を作ることで社会貢献を行うと同時に、介護の人材確保も両立して行っていければと思います。
また、もともと私自身が国際協力をやりたいと思っていたのもありますが、やはり人口ピラミッド的にも日本人だけではどうしようもないと思いますので、外国人の方を積極的に受け入れていきたいと考えています。
全体としては、外国の方の受け入れを「やむを得ず」としている雰囲気がありますが、せっかく日本で介護をやりたいと思っている方がいるんだったら、日本の介護が必要な方の未来を考える上でも、積極的に受け入れていきたいです。
実際に弊社において、中国の方や台湾の方を雇用するなど取り組みを進めています。
こちらは、事業者もそうですが、介護を受けてる方も考えていかなきゃいけない問題ですので、賛同してくださる方と一緒に動きをつくっていければと考えています。
―—今後、「まごころ介護」をどういった組織にしていきたいですか?
多様性を受け入れられる組織にしていきたいです。
もちろん、現在の組織が多様性を“拒む”風土ではないのですが、より積極的に受け入れていけるような組織にしていければと考えています。
また、事業所の所長として、本来は介護が必要にも関わらず、受けられずに困っている方たちにサービスを提供できる体制を作っていきたいです。
――最後に、改めて訪問介護の魅力について教えて下さい。
一人ひとりの自己実現に寄り添えることです。
日常の1回1回の訪問だけを見ていると、もしかすると淡泊に見えるかもしれませんが、本当にやりたいと思っていたことが実現する瞬間であったり、悲しいことを乗り越えるのを横で支えたりと、ご本人と喜怒哀楽をともに出来るのは非常に魅力的だと思います。
たとえば、利用者さんが親しい友人の結婚式に行くのに同席させてもらう、長く入院生活を送っていた方を海に連れて行って、海を眺めて涙を流している姿を見るだとか、利用者さんが自分の手の中で亡くなった際に感謝の言葉を頂いたり、人生初の彼女が出来たと喜んでいらっしゃるのを横で見ていたり。
そうした、ご本人がやりたいことのため、本人が自由に使える時間を作るために、私たちは朝ごはんを作ったり、お着替えを素早く出来るようにお手伝いしたりする。
ちょっとしたことだったりするのですが、そうした1つ1つのシーンに寄り添って、本人が「やったよ!」と言っているのを聞くと、こう思えるんです。
あぁ、頑張ってよかったな。
こうして次からもまた頑張っていけるのが、介護のお仕事だと思っています。
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