2016年現在から2年後(2018年)に迫った、「診療報酬と介護報酬の同時改定」ならびに「医療法の改正」。
こうした「大きな変化」の考察においてよく言及されるのが、「病院と在宅」、さらには「医療と介護・福祉」の連携の必要性について。
しかし、現場サイドからすると、「具体的にどうすればいいの?」という悩みがいよいよ逼迫してきているように思います。
ですが、本インタビューは、そんな悩みを解決してくれるかもしれません。
今回お話を伺うことが出来たのは、「在宅×介護・福祉」の分野でご活躍されている山上智史さん。
山上さんは、株式会社K-WORKERにおける福祉用具貸与事業所の所長で、新宿区福祉用具貸与事業所連絡会の会長も務められている方。
最近では、「MED」(※医療関係者によるプレゼンテーションのイベント)にも登壇されています。
そんな山上さんが所長として運営する福祉用具貸与事業所では、なんと、「従業員全員が車いすを用いて業務をこなす」というユニークな取り組みを行っています。
全3回に渡る本インタビューでは、なぜそのような取り組みを行っているのか、山上さんが持つ仕事哲学とは何かといった点はもちろんのこと、上述した「病院と在宅の連携」についても非常に示唆深い貴重なお話が伺えました。
特に医療従事者・介護従事者の方は必見のインタビューです!
本記事の目次
山上智史所長 プロフィール
K-WORKER福祉用具部所長 山上 智史
新宿区福祉用具貸与事業所連絡会 会長
福祉用具専門相談員・住環境コーディネーター2級 ・ヘルパー2級・介護福祉士の資格保有
※株式会社K-WORKERのホームページ:http://k-worker.co.jp/
K-WORKER福祉用具貸与事業所の業務とは
——K-WORKER 福祉用具部の事業内容について教えてください。
高齢者の方や障がい者の方に、最適な福祉用具をお貸しするのが、私たちの仕事です。
ただし、「用具」だけの観点ではなく、それを通して利用者さんの「環境作り」をしているという面を非常に重視しています。
——お客様は個人の方になりますか?
依頼元はケアマネージャーで、エンドユーザーは個人になります。
——ケアマネさんに営業をすることで仕事を頂く形になりますか?
私たちがケアマネさんのもとに伺うこともありますし、依頼をもらうこともあります。
私たちの「存在を知っていただく」という意味での「営業」はありますね。
——具体的には、どういう形で依頼をもらって、それをどういう風な形で利用者さんにお届けしていますか?
まず利用者さんのケアマネ―ジャーさんから、弊社に電話が来ます。ご依頼として多いのは、「一緒に来てほしい」というものです。
利用者さんのお宅にご一緒して、「こういう身体状況で、こういう環境の場合どうしたらいいだろうか」と具体的に困りごとの相談を頂きます。
それに対し、ベッドや歩行器など、私たちが持っている選択肢の中からご提案させて頂きます。
そのご提案が決定した場合、取引先に商品を運んでもらい、私たちは自転車で訪問します。
そこで、実際に商品を見て触ってもらい、上手くいくかどうかを確認して、契約するという流れになります。
ただ、それで終わりというわけではなく、その後も、「モニタリング」という確認作業をしたり、「再アセスメント」で「最近どうですか?」と聞き取りをして、“イマ”のお体の状況に合わせた用具をご提案することも業務内容に含まれています。
——再アセスメントは、期間は決まっているのですか?
いえ、特に具体的な期間は決まっていません。目安の期間はありますが。
3日後には「ちょっと違うんだけど」と仰られることがあったり、長い期間ご利用いただいてる方もいたりと人それぞれです。
アセスメントには2つのパターンがあります。
1つは「環境の変化」でアセスメントが必要になるケースです。
もう1つ大きいのは、「お体が変わる」ことによるものです。
用具って、カラダに合わせて選ばなきゃいけないんです。
というのも、用具は1日後、あるいは1週間後にみてもそんなに変化はないのですが、「お体」は1日1日変化するものです。
ですので、アセスメントのタイミングは、1年経っても大丈夫ということもあり得ますが、一日後にはもう一度確認しなくてはならない時もあるんです。
※イメージ画像になります
山上さんが持つサービス提供のこだわり:「自分で使ってみる」
——カラダって、結構変わるものですか?
変わりますね。
私たちでも、気候によって変わったり、夕方はむくんでいて靴が窮屈に感じたりしますよね。
利用者さんの日常に密接に関わる私たちはその意識を強く持っておかないといけないと思っています。
——用具については、どういった用具の貸し出しが多いですか?
ベッド、車いす、歩行器です。
あとは、それに付随して、車いすのクッションも多いです。
——その中で、特にカラダの変化に合わせないといけない用具はどれでしょうか?全体的にですか?
そうですね、全体的にそうなのですが。。。
特に歩行器や車いすというのは、カラダに合わせる必要があるのはもちろん、「利用シーン」にも合わせないといけません。
たとえば車いすの場合も、外で使うのか、食事の時に使うのか、くつろぐために使うのかによって、調整の仕方が変わってきます。
それを理解・体感するために、弊社のスタッフは車いすで普段の業務をこなすという取り組みをやっています。
※事業所の風景
——すごいですね。そうした取り組みで、見方は変わりましたか?
すごく変わりました。
たとえば、ジェルで出来た車いすのクッションを使ってみたときには、「座り心地いいな~」と思っていたんです。でも、寒い季節に差し掛かってきたときに、「このクッション、冷たいぞ?」ということが、自分たちで使ってみて初めて分かったことがありました。
車いすに関しても、「能動座位」や「安楽座位」という異なる態勢があるのですが、調整によってはゆったりと座れないケースもあったりします。
実際に使うことで、そうした気づきを得られていると思います。
「福祉用具を自分で使う」というこだわりを持つ理由
——「自分たちで使ってみよう」と思われたのは何故ですか?
「環境によって悪い状況が作られていることがある」と思ったことが一番の理由ですね。
たとえば、空気圧で調整が可能なクッションは調整が合えばすごくいいものなんです。でも、調整を間違えると、不安定になってカラダが緊張状態になり悪化するということもあり得ます。逆に、正しく改善をすると頸部の緊張が和らぎ食事がスムーズにできるようになったりすることもあります。
そうした例を見ていると、やっぱり自分たちで実際に体感することが大切だと感じました。
また、案内する以上は、自分が良いと思うモノでないといけないと思いますし、商品を充分に理解しなければならないと思います。そうした意味でも自分たちがまずは体感するようにしています。
ちなみに、私の営業で履いている靴も「あゆみの靴」という高齢者用の靴を履いています。(笑)
また自ら体験しているのにはもう一つ理由があります。それは利用者さんに対して「デメリットも話さないといけない」ということを感じているからです。
メリットは、ホームページやカタログで知ることが出来ますが、デメリットは自分で使ってみて理解するしかないんです。カタログには、「この靴はどのくらいの期間利用したらすり減ります」なんて書かれていないですよね。
正しい判断や選択をしてもらうためには、「デメリットも知っていただく必要がある」と思っています。
具体的に車いすの例で言えば、「下肢の負担が軽減されます」というメリットと同時に、「下肢筋力が減退するという面もあります」というデメリットを伝える様にしています。そうすることで「じゃあもう少し歩行器で頑張ってみようかな」と利用者さんが自ら考えて判断をすることが出来るんじゃないかと思っています。
そのために、実際に使ってみて、デメリットを探してでも利用者さんにお伝えするようにしています。
——たしかに、「物事には一長一短がある」と考えれば、すごく納得出来ます。福祉用具貸与部は福祉用具相談員の6名とお聞きしていますが、そうした「精神」はみなさんに対して言葉にされているのですか?
そうですね。
ただし、言葉だけではなく、行動でも表すようにしています。
先ほどお話した、車いすを用いて業務を行うという取り組みもその一環です。
インタビュワーのコメント
山上所長インタビュー第1回は、主に現在の福祉用具貸与事業のご活動に関する内容でした。
特に、上記のお話で出てきた中でも印象に残ったのは、下記2つのフレーズでした。
・「まずは自分たちで使ってみる」
・「デメリットを探してでもお伝えする」
これらは、「言うは易く行うは難し」の典型例で、なかなか出来ることではないと思います。
そこで第2回では、山上さんが「実際に使ってみる」という取り組みをされた「きっかけ」やご自身の「出自」についてお聞きします。
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