訪問看護と同様に、近年「在宅」領域で注目されているのが、「訪問介護」(→俗に言うホームヘルパー)です。
また、医療・看護・介護の領域は、今後ますます連携が必要と言われていることからも、訪問看護をメインに扱うビーナースでも「訪問介護」について取り上げる必要性は非常に大きいと言えます。
では、訪問介護はどのような業務を行うのでしょうか?
そうした疑問を解消すべく、訪問介護の現場に従事している方へとインタビューを行いました。
ただし!
今回は、いつもとは異なる視点をご提供できるに違いありません。
お話を伺ったのは、大学2年生ながら訪問介護のアルバイトに従事している小山慧さんです。
彼は、学校・部活・プログラミング・訪問介護と、「4足の草鞋(わらじ)」を履くほどの頑張り屋さん。
訪問介護に挑戦したいと思った理由として、「小さいころから親や親戚に『若いうちは苦しいことに挑戦しろ』と言われていたからだと思います」と語る小山さんへのインタビューでは、感嘆させられる部分が多々ありました。
きっと、、、
・現在「社会人」の方にとっては「あのころ」の新鮮な気持ちがフツフツと湧き、
・まだ「社会人」ではない方にとっては「私も頑張らないと」と勇気が湧く、
そんなインタビュー記事内容かと思います。
本記事の目次
小山慧さんプロフィール
<略歴>
2010年 仙台第三高校卒業
2010年 宮城大学入学
2012年 東京農業大学編入学
2015年9月 訪問介護のアルバイト開始
2015年11月 プログラミング学習開始
小山さんが勤める訪問介護事業所「まごころ介護」での業務の概要
訪問介護事業所との接点
小山さんの勤務先は、「まごころ介護」という訪問介護事業所。
大学編入の1年目(2015年9月)に、運動部にバイトを斡旋する求人サイトでアルバイトを探していると、「介護」と「寿司屋」がヒットしたのだそう。
では、なぜ介護のアルバイトに決めたのでしょうか。
――小山さん
「祖母あるいは両親が歳を重ねたときに必要になるだろうなというのがありましたし、大変だろうけどやってみたいなという想いもあったので、介護のアルバイトに応募しました。」
誰しも、祖父母や両親の老後については考えはするものの、なかなかこのように実行に移すことはできないもの。
小山さんがなぜ訪問介護に挑戦する選択をしたのか、その「本当の理由」については、後ほどじっくりと伺うことにします。
「まごころ介護」での業務時間・内容は?
では、「まごころ介護」では、小山さんはどのように働いているのでしょうか。
まず、勤務時間について。
もちろん利用者さんにもよりますが、時間(シフト)は基本的には2部構成になっているとのこと。
すなわち、「午前の部(午前9:00~午後1:00)」と「午後の部(午後3:00~午後9:00)」です。
大学の授業などもこなす小山さんは、週に1日、シフトを担当しています。
次に、午後の部の業務内容としては、どのようなものがあるのかという点について。
そちらについて伺うと、小山さんはおもむろに資料を取り出しました。
そこには、(会社支給の)詳細なマニュアルとともに、丁寧なメモがびっしり!
資料をご持参くださった点やメモを見るだけで、小山さんが非常に繊細で実直な性格の持ち主であることが窺い知れます。
さて、ご持参下さったメモに沿ってお話いただいた訪問介護の業務内容は、下表の通りです。
<午後の部(15:00-21:00)の業務内容 ~下半身不随のある利用者さん(69歳)の場合~>
時間 | 業務内容 |
15:00-15:30 | ・ウロバック(※)の設置
・おむつ・枕の用意 ・車いすからベッドに移乗 ・ズボン・パンツを脱衣 ・プロクトセディル投薬 ・午前のウロバックと午後のウロバックを交換 ・湿布の張り替え ・マッサージ ・足に枕を敷く ・タオルケットをかける ・リモコンでベットの角度を調整する ・お茶を入れ替える |
15:30-17:00 | ・洗濯
・午前のウロバックの掃除 ・必要書類の記入 (その日のオシッコや飲み物の量、その日に飲んだお薬は何か、といった内容) |
17:00-17:30 | ・入れ歯を外す
・自助具に歯ブラシをセットし、歯を磨いてもらう ・顔清拭 ・目薬をさす ・ヨーグルトやおせんべいを食べてもらう |
17:30-20:00 | ・必要書類の記入および待機時間 |
20:00-21:00 | ・お茶を入れ替える
・ごみを整理する ・ウロバックに溜まった尿の排泄 ・お薬を飲んでいただく ・マッサージ ・体交スイッチOnにする ・毛布をかける ・消灯 ・施錠 ・帰宅 |
(※)ウロバックとは、「尿を排出するのに管を通さなければならなくなった方が使う袋」のことです。
以上が、訪問介護の業務の「一例」になります。
このように業務内容を淡々と列挙すると、もしかすると淡泊に見えるかもしれませんが、
以下のお話をお聞きし、改めて訪問介護の大変さに気づくことになりました。
小山さんが担当する2名の利用者さん
下半身不随のご高齢の利用者さん
小山さんは、現在2名の利用者さんのもとに訪問し、介護を行っているそう。
うち、お一方は下半身不随の居住者さんで、69歳のご高齢者。
具体的な業務については上述した通りですが、居住者さんは具体的にはどのような方なのでしょうか。
――小山さん
「詳しくはお聞きしていませんが、後天的に下半身不随になられた方みたいです。酔っぱらって階段から落ちてしまったという話は聞いています。ですので、普通に会話は出来ます。また、その居住者さんは一人暮らしの方で、ご家族とは実際にお会いしたことはありません。」
インタビュワーは、「一人暮らし」ということを聞き、衝撃を受けてしまいました。
一人で訪問した際に、「何かあったら・・・」と考えてしまうのは私だけでしょうか。
もう一点気になったのが、利用者さんとはどのようにコミュニケーションを取っているかという点。
――小山さん
利用者さんとの距離感の掴み方は難しいですね。最近になってやっと慣れてきました。担当させていただいた当初は、マッサージの力加減が難しかったり、仕事の手順を間違ったりという事があって利用者さんが声を荒げる時がたびたびありました。
また、利用者さんの性格が結構寡黙で自分から要望を仰らない方なので、相手の表情や言動から求めていることを察して聞くようにしています。こだわりが強いので勝手に動くと怒られます。
なので、まず利用者さんに聞くことは意識しています。最近他愛のない話を交わせる関係性になってきて、利用者さんと良い関係性を築けてきているのかなと感じます。
ただ、最初からこうした重度の障害を持つ利用者さんの下に一人で伺うという訳では当然なくて、「重度訪問介護従事者」の資格を保持している必要があるのだそう。
資格取得には、「重度訪問介護従業者研修」(※)を受ける必要があり、それまでは有資格者に付き添う形でお宅に同行していたとのこと。
(※)本研修・資格については、まごころ介護HPでも、次のように紹介されています。
「重度訪問介護は今まではほとんどが身体障害者の方のみが対象でしたが、平成26年4月からは知的障害、精神障害の方へも、この資格で対応できるよう制度が変わることが決まりました。そのためこの資格は、これから需要が高まる資格であると言えるでしょう。」
こうした資格を取得する必要があることに納得しつつ、それでもインタビュワーとしては、「一人で赴くにはなかなか荷が重いな・・・」という所感を持ちました。
そこで、「こうした重度の障害をお持ちの利用者さんのお宅にアルバイトとして働く方が訪問するケースは多いのか」とご質問したところ、次のような回答が。。。
――小山さん
「他のケースについて詳しくは分かりませんが、結構重度の方でも任せるのかなという感覚はあります。僕が担当させて頂いてるもう一人の男の子の場合は、『僕に任してもらって大丈夫なのかな・・・?』と、特に最初の頃は強く思っていました。」
どうやら、インタビュワーの予想を超えて、もっと重度の、しかもお子様の受け持ちもされているよう。
ますます興味が湧いてきました。
というわけで、その男の子について詳細に伺いました。
自閉症と知的障害を患う男の子
――小山さん
「その男の子というのが、自閉症と知的障害の合併症で、言葉を満足にしゃべることができなかったりとか、いきなり突拍子もない行動をしたりすることもあり、行動が読めないことも多いため、そのように(※「僕に任してもらって大丈夫なのかな・・・?」)感じていました。」
小山さんは、その男の子については、月に2~3回担当しており、公園や街中に付き添っていくという介護業務をされています。
時には、なんと(!)渋谷の街や東急ハンズの中を散歩したりもするそう。
当然ながら、先ほどお話頂いた高齢者の方とは全く異なる対応が必要になるため、「重度訪問介護従事者」とは別の資格(→「移動支援」を行うための資格)を取ったとのこと。
そんな「行動が読めないことが多い」男の子のもとへ訪問する小山さんですが、「気を配っていること」について伺うと、次のようなエピソードを話してくれました。
――小山さん
「割れ物がある場所などを歩く際には、すごく気を付けています。一度、スーパーで勝手に飲み物のふたを開けようとしたことがありました。ほかにも、万引きに間違われたりしたこともありました。」
これだけでもその大変さが伝わるかとは思いますが、中でも「最も困ったこと」についてもお聞きしてみました。
――小山さん
「ちょっと立ち入った下世話な話になってしまいますが。。。男の子との外出時に、途中でおトイレに行きたくなり、結果的に出してしまったという経験があります。もちろん、外出前におトイレに行ったかどうかを聞くのですが、その時には『行った』と答えてくれていました。でも、外出後にすぐにおトイレに行きたくなっちゃったみたいで、、、(私が)おトイレに行きたいということに気づくことが出来ませんでした。」
「言葉による意思疎通がうまくできないため、行動をよく観察することでしかそうしたことに気づくことが出来ないということがあります。その日は、いつもよりも建物の中に入ったり出たりする回数が多いな・・・と思っていましたが、気づくことができなかったんです。そのあと、ご家族の方にご連絡し、預けることになったのですが、ご家族の方が外に行く場合でも『こういうことは結構あります』ということは仰っていました。」
訪問介護のアルバイトを始めたきっかけ
こうした大変な訪問介護の業務ですが、以下、「なぜ小山さんが大変だと知りながらも訪問介護のアルバイトを始めたのか」という点についてお聞きしていきます。
親からの薫陶
――小山さん
「結構大きいきっかけとしては、地元で介護関連で働いている同級生がいること、そしてその同級生からも『大変だ』ということは聞いていたということがあります。それを聞いて、『やってみよう』と思いました。」
??
どうやらもう少し詳しく聞いてみる必要がありそうです。
――小山さん
「前々から、親を含めて周りの大人や親戚から『若いうちから苦労しておいた方がいい』というアドバイスをもらっていたので、選択するときには割と大変なことを選ぶようにしています。」
「なるほど!」と素直に受け止められないインタビュワーがおかしいのかもしれませんが、、、
そう思ってしまった私は、「今までの選択で一番大変だったことは何ですか?」という就職活動でもよく聞かれるであろう質問を投げかけました。
――小山さん
「4足の草鞋を履いていた時には、『これはやばいかもしれない』と思いました(笑)。大学、部活、介護のアルバイト、プログラミングの4つです。」
特に、部活動を週に5~6日のペースでやっていたのが大変だったようです(今は辞められたとのこと)。ちなみに、部活は「少林寺拳法」!
「介護」・「少林寺拳法」・「プログラミング」
文字にして並べてみて改めて思いますが、とてもいい意味で「ユニーク(個性的)」と言わざるを得ません。
訪問介護に携わることで得た学び、そして訪問介護のやりがい
そんなわけで、介護の「大変な部分」に関しては、小山さんとしては「楽しみながら」できている部分が多いようです。
――小山さん
「そうですね。自分が勉強になると思える部分が多いです。」
知的障害を患う男の子に教わったこと
では、どういったところが「勉強になる」のでしょうか。
――小山さん
「自分の欲求に対してすごく素直なところです。そういう自分にない部分を見ると、尊敬します。あと、これは私の知り合いから聞いた話なのですが、、、その知り合いはデザイナーの仕事をやっていえうのですが、彼によると、障がい者の方(自閉症などの患者さん)はデザインの才能が秀でているケースがあるらしいのです。「エイブル・アート」という障がい者が芸術作品を世に送り出す取り組みもあるそうです。
障がい者と言いつつも、そうした飛びぬけた才能を持っていること、自分のやりたいことさえ見つかればそこを伸ばしていけばいいということなど、見習える部分がたくさんあるのは、すごく楽しいです。」
訪問介護の髄一の醍醐味・やりがいは「自分が生活の一部になれること」
ここまでのインタビューで既にお分かりの通り、非常に実直で素直な小山さん。
そんな小山さんに対して、ストレートに「訪問介護のやりがいはなんですか?」とのご質問をぶつけてみると、やはり、非常に実直なご回答。
――小山さん
「毎週会って、その人の生活の中に関われることです。自分がいないとその人の生活が破たんしてしまうので、自分が(利用者さんの)『生活の一部になれている』という感覚は、何ものにも代えがたい充実感を生むと思っています。また、一対一で付き合っていく必要があるという点で、相手に対する感謝や、逆に不満に思っていることを伝え合えるような関係を構築する必要があります。そうした点にやりがいを感じています。」
そんな小山さんは、将来的にどういう道を描いているのでしょうか。
――小山さん
「背景からお話するとちょっと長くなっちゃうのですが、大丈夫でしょうか?笑」
インタビュワー「是非!」
――小山さん
「もともと東京に出てきた理由としては、農業の勉強をしたかったからなんです。実は、私は大学を辞めて東京に来たんです。
私の地元は宮城県で、大学も地元の公立の宮城大学に通っていました。しかし、入ったのは測量などを行う専門性のある学科で、自分がやりたいこととは全く異なるものでした。そうしてもやもやした気持ちで毎日を過ごしているときに、食を通じて震災復興を行うNPOの団体の紹介を受け、活動に一年間参加しました。そこで、農業に非常に強い興味を抱いたため、大学を辞め、再度受験をして、東京農業大学に入学したんです。
そういうわけで、もちろん将来的には農業に関わりたいのですが、なかでも『一対一』で向き合うことが出来るコンサルタントとして活動していけたらと思っています。一人の人を掘り下げていきたいという想いがあるので、そうした部分は介護とも通じているかもしれません。」
※注記
震災が起きた2011年は、小山さんは高校一年生でした
訪問介護に触れたことがないあなたへのメッセージ
最後に、「訪問介護を体験した立場から訪問介護にまだ触れたことがない方に向けてのメッセージ」をお願いしてみました。
――小山さん
「そうですね。。。
私ももともと介護をやるまで、街中とかで(障がい者の方に)会っても、『なんでいきなり奇声をあげたり暴れたりしているんだろう・・』と、全然理解できませんでした。言葉は悪いですが、『自分たちとは違う』とすら思っていました。しかし、研修や実際の現場での体験を通して、『そんなにおかしくない』との思いが深まっていきました。
たしかに、ルールを理解できないことはあります。だからこそ自分の欲求に素直なのであって。そういう部分以外は、普通の人間であって、なにもおかしくありません。
実際に触れあってみたり、勉強してみないと、そこは絶対に分からないところだと思います。
ただ、そこはきっかけさえあれば理解が出来るかと思いますので、是非きっかけをつかむようにしてほしいです。昔の自分のように。」
インタビュワーのコメント
以上、訪問介護のアルバイトに励む大学生、小山慧さんへのインタビューでした。
さまざまな経験を積んできたからでしょうか。
話す内容はもちろんのこと、その落ち着いた表情・態度からは、「大学生のおぼこさ」はありませんでした。
小山さんの力強い言葉から得られるものはたくさんあったはず。
少なくともインタビュワーは、小山さんから、「学ぶ姿勢・謙虚な態度の大切さ」や「実直であることの清々しさ」を再確認させて頂いたのでした。
皆さまは、何を感じ、何を学びましたか?
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