看護の仕事はどこまで? 【がんと暮らしを考える会・賢見卓也理事長インタビュー1】

――賢見さんは「社会的苦痛」に対してどのようにアプローチしていらっしゃるのでしょうか?

 

私がNPO法人で特に力を入れているのは、仕事と家計の問題です。

社会的苦痛に取り組む時に、取っ掛かりとして最適なのは経済的な部分だと思っていて、ここさえ変えれば上手くいくことは実はいくつもあるんです。

亡くなることは変えられないし、家族構成も変えられません。病状についても、治療の問題です。

しかし、仕事や家計の問題というのはガラッと変えることができます

 

――具体的にはどういった取り組みですか?

 

がんに関わる「多職種」――病院とか医療機関の人が言う「多職種」よりもうんと広い職種――の方々に「この指とまれ」という形で集まってもらって、情報の整理、制度の弊害を克服するための情報発信、勉強会の開催、事例の収集などを行っています

たとえば、職場の問題にはこういう専門家、家計の問題ではこういう専門家、家族の問題――相続の話などの場合はこの辺の専門家、という形です。

がん患者さんは診断後に治療を始め、様子を見ながら治療していって治る人がいれば、治らない人もいます。

そしていろんな悩み事を抱える中で、じゃあ実際にどの制度がどう使えるのか」というのはほとんど誰も分かっていません

 

じゃあ、「使える制度が全くないのか?」というとそうではなく、整理してみると公的な備え・民間の備え・個人の備えの大きく3つの備えがありました。

分かりやすい例で言えば、サラリーマンが自分の給料から天引きされている種々の年金や保険というのは、「公的な備え」にあたりますよね。

 

がんと困りの備え

 

こうして調査を進めていくと、困りごとを正確に拾うことと、困りごとと「あるキーワード」が紐づいていないという問題点が浮き彫りになりました。

「症状」と「使える制度」を紐づけて考えてみると、その人のステージによって使える制度がたくさんあります

 

たとえば病気が進行して退職することになった場合、「使える制度がないのではないか?」という不安を抱えるケースがしばしばありますが、そうした場合に非常に有用です。

公的年金を支払っていれば、お年寄りになってからもらう老齢年金とは違う仕組み――「障害年金」を用いて年金がもらえたり、税金の医療費控除では医療費や通院の交通費の控除も受けられる――など、いろんな形で経済的な支えが得られます。

また別の例を出すと、亡くなった後で給付される生命保険の場合、余命半年の診断がつけばリビングニーズ特約で生前給付ができたりしますが、それは数百万とか数千万単位のお金を本人が動かすことができるということを意味しています。

このように、がん患者さんが必要な時に必要な仕組みを知ることが出来るように、たくさんの専門家が集まって洗い出しと整理を行っています

 

――どのような専門家が集っているのですか?

 

会員のほとんどが専門職で、社労士さんやファイナンシャルプランナーなど、現在40名くらいの規模です。

その他で言いますと、例えば障害者の支援をやっている方、ご本人が実際にがんの経験をされている方、がんになった方のご家族などがおられます。

 

――どのような想いで集まられている方が多いですか?

 

自分が持っているスキルが役に立つなら活かしたい」という想いの方が多いように思います。

特別なことを背伸びしてやるというより、すでに持っている専門性を活かして役立つことをやってもらっていますので、それがむしろ「多職種」を生んでいるのだと思っています

ですので、ボランティアではなく、まさしく「協働」しているという認識です。

 

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