【ホームホスピス神戸なごみの家(代表)松本京子さんインタビュー第1回】「暮らしの現場で看護の力を」

 

訪問看護ステーションの立ち上げとその苦悩

 

――訪問看護ステーション立ち上げてどうでしたか?

 

神戸市には今だと110件くらいの訪問看護ステーションがありますが、私の立ち上げたステーションは当時、神戸市で17番目の開設でした。

だから、ステーションも少なかったので、訪問看護を理解して頂くというところから始めなければいけませんでした。

最初のころはいろんなところに営業に回りましたよ。

 

――何人で立ち上げたんですか?

 

2.5人です。

時代的にかなり手続きも厳しかったです。。。

まぁ、ステーションの方はしばらくすると順調な運営に推移しましたが、何年かやっていると、

そのうち、私の地元に近いクリニックでの病棟立ち上げを一緒にやらないかという話をいただきました。

在宅での看取りを積極的にしていた先生でしたが、その限界も感じられて病棟を持つ決断をされた時に誘われました。

 

画像出典:e-aidem.com

 

――松本さんの前職「はやしやまクリニック希望の家」ですね、当時は緩和ケア病棟じゃなかったんですか?

 

そうです、まだ緩和ケア病棟ではありませんでした。

在宅医療はうまくいってましたが、在宅でどうしても難しい人のために、ホスピス病棟を作ろうという話になったんです。

それで転職して立ち上げたのが「はやしやまクリニック希望の家」です。

4年くらいその病棟の責任者をして、疲れ果てました。笑

 

緩和ケア病棟と訪問看護とを統括管理しながら、入退院相談も担当し外来での相談も受けたりしていました。

在宅にも当時は100人ぐらい患者さんがいたんです。

そのオンコールを受けたり、相談役としても動いてましたね。

 

ホスピス病棟に来るナースって一種独特で、すごく頭もいいし熱心なんだけど、「ねばならない」が強すぎるから、「在宅」感覚が全然ないんです。

たとえば、「死ぬときに医者がいないなんてホスピスじゃない」とか言うわけです。

私は「医者がいて何が出来るの?」とか思うんですけども。

 

そういったことで職員の不満がでたりすることで、調整をしなければいけないことの方がストレスでした。

私は在宅で看取りに関わっていましたので、「ねばならない」という意識が無いんです。

有床診療所の病棟を稼働させないと経営的に行き詰ってしまうからベッドが空いている限り患者さんは受け入れていきますが、そのナースたちは「こんなに忙しいのに入院入れたりして」なんて怒ったりします。

でも、痛がってる患者さんがいてベッドが空いていたら、入れたくなるものじゃないですか。

それをむくれるんです、仕事中に。

 

――え、ホスピスで働くナースはそういう心意気で来るんじゃないんですか?

 

(彼女たちの中では)自分たちの満足するケアをするためには、少ない患者にたっぷり自分たちが関われるのが「いい看護」だという価値観があります。

「じゃあ、痛がってる患者さんがいても断るの!?」って言いたくなりますよ。それで、ちょっと距離を置こうと思った時期があります。

 

その後、ドイツにいったんです。

ドイツの「緩和ケア病棟」と「ホスピス」って全く違うんです。

緩和ケア病棟は大学病院とかにあって医師が管理してるところで、ホスピスは街中にあって医者がいないんです。

みんな往診に来るんです。往診に来たら訪問看護がある。

 

画像出典:iitokoronet.com

 

――看護師が中心、というかトップにいるという感じですか?

 

トップというわけでもなく、医療スタッフがどうかは関係ないですね。一般市民の人もいたし。

それを見て「これやったら病院じゃないから私でも作れるやん」という話を一緒に行った人たちとしました。

「これだったらいいよね」と意気投合し、私は実際にやろうと思いました。

そこから2年半後です、「ホームホスピス神戸なごみの家」を開設したのは

 

――もう、すぐ辞めちゃったんですか?

 

ドイツから日本に帰ってきた時には決めていました。

もうひそかに心の中で計画を立てていました、とにかく緩和ケアの認定だけは在職中に取って、辞めようと。笑

認定看護師の資格が取れたところで、すぐにクリニックは辞めました

 

「なごみの家」設立の想い

 

――ホスピス病棟「はやしやまクリニック希望の家」の経験では、看護師さんとの軋轢があったとしても、患者さんとの関係に関しては何か思うところはありましたか?

 

患者さんに関しては、特段無いかと思います。

私なんかはフリーの立場だったから、患者さんとは、まぁいい出会いもありました。

でもね、あくまでも「患者さん」なんですよ

(接し方が、)「生活してる人」ではなくて、「病棟に入院してる患者」なんです。

 

私がやりたかったのはそういうことではなくて、「いかに病院らしくなく作るか」ということでした。

スタッフも皆、白衣なんか着せていなかったです。それでも、「患者さん」になってしまったんです。

 

「神戸なごみの家」では、「生活の場である」ということにこだわり、自分が実現したかった「暮らしの中で看取る」という部分にフォーカスしました。

実は、「神戸なごみの家」オープンの半年前には訪問看護ステーション(「あさんて」)を立ち上げていましたが、それは3か月で経営的には軌道に乗っていたのもあって強気で向かいました。

また、いざとなったら私が(現場)に出てやればという思いもありましたので、ブレずにどんどん行こうと徹底してやりました。

 

――「希望の家」では患者さん側は満足されてたんですね

 

そうですね、まぁ病院らしくないし、患者さんはそれなりに満足されてたと思います。

 

――それでもホームホスピスがいいと思い、行動に移せたのは、やはりドイツがきっかけですか?

 

私の中では、「患者さん」になっていくっていう消化できないものがずっとありましたからね。
それと、ホームホスピスだったらどんな病気でも受け入れられるじゃないですか。
ホスピス病棟だと、やっぱりがんの患者さんばかりでしたから。

 

――「希望の家」には難病の方などはいらっしゃらなかったですか?

 

がん患者さん以外はなかなか稀でした。また基本的には関わりが看取りだけでしたね。

この点、看取るためにホスピスがあるのではなくて、最後まで生きる支援の先に「看取る」という行為があると私は思っていました。

看取るためにケアしているわけでは無く、その最後の瞬間までをどう好きに生きてもらうかを大事にしたかったんです。

「神戸なごみの家」のでは、利用者みんなで見送るってこともやっています。

 

――病院では、あくまで「スタッフ」―「患者さん」の関係で成り立っていますが「神戸なごみの家」ではいかがですか。

 

「神戸なごみの家」ではスタッフも「一緒に暮らす人」なんです。

だから、誰が看護師で誰が介護士かとかは利用者の皆さんには何の関係も無いんです。

 

――では、誰が看護師で誰が介護士とか、わからない場合もあったりしますか?

 

一度インタビューをしたことがあるのですが、全然わかってない利用者さんもいました。

もちろん介護士は、注射とかは一切しません。やるのは、喀痰吸引とかぐらいです。

医療処置はスポット的に入る形で、訪問看護師がしています。

でも、あとのことは、お掃除もするし、シーツ交換もするし、ご飯も一緒に食べるしで、あまり違いがないんですよ。そんなに医療処置の必要がないので。

 

第2回へ続く


 

編集者コメント

 

ホームホスピス神戸なごみの家(代表)の松本さんの現在までの体験について、ご活動ベースで伺いました。

ホームホスピスが今ほど知名度も事例もない時代に、病院看護からそこに飛び込まれた松本さん。

このインタビューを通して思うのは、やはり「実体験を伴った想いは強い」ということです。

松本さんの言葉には、机上の空論が一切ありませんし、幾つかの転機での潔い決断と行動力には感嘆しました。

 

次回の第2回は、これまでの体験をエピソードを含めて深い所までお聞きし、松本さんのバイタリティや「暮らしの中の看護」への強い思いを紐解いていきたいと思います。

 

 

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