【梅田恵先生インタビュー第3回】「日本のナースは世界一」

イギリスの看護と日本の看護

 

多くのイギリスのナースと接していると、日本のナースに足りなかったのって、自分たちのやってるケアを表現する力だったのかなとかも思ったり。

出来てないことばっかり言うのにね、日本のナースは。

ただ、「結構、日本のナースはよくやってる」とイギリスから帰ってきて、すごく思うようになりました。

なので、自分が講演したりすると「日本のナースが世界一です」と発信しています。

 

(もちろん)向こうが悪いと思っているわけじゃないんだけれども、システムだとか思考だとか利用する患者さんの主体性が高いと、ナースが背伸びしたり無理しなくても等身大で看護ってできるようになるんじゃないかな、ということをイギリスで考えるようになった気がします。

アメリカなんかも、ナースの表現力や意識が育っているんじゃないかと思います。

私必ず海外にいくとアポもとらないで病院に潜り込んで、ナースや患者さんたちの様子を見てくるんですけど、「あ、日本の方が全然いい」と思うことがしばしばあります。

 

――「おもてなし」ではないですが、思いやりのある看護・医療が提供できている、と

 

いろんな国の医療システムって、その国の3割ぐらいの人しか受けられない医療システムについて良いだ悪いだって討議してるんですが、日本はほぼ100%の人の医療システムでここまで出来ているから、やっぱりすごいよねと。

この日本の医療システムをすごく守りたいと私は思っています。

 

画像出典:ifrc.org

 

――先ほどのお話からも、イギリスのナースには自由なイメージがあるのですが、日本の看護師との違いはあるのでしょうか?

 

たとえば、なんでイギリスのナースが時間通りに帰ってた(残業をしていなかった)のか不思議なんです。

どうして(日本は)帰れないんでしょうね。。。

これは国民性でしょうね。

5時になったらみんなピタッと帰っちゃう。

それでナースは心も豊かで、仕事終わってからテニス行ったりだとかお勉強行ったりだとか。

日本はどちらかというともうダラダラしててヘトヘトで。研修に来てても居眠りしてたり(笑)。

 

――それは看護師だけじゃなさそうですね(笑)

 

なんかそこが私も変えたい、というか変わらないといけない気がします。

少子化だ育児だ介護だと言っていますが、残業をやめたら5時から家族のために時間を遣えるようになります。

まぁ自分も9時ごろまで保育園に預けていた身なので言いづらいんですが、たとえば法律で子供がいる人は5時には帰らなきゃいけないみたいにしてくれたら、もっとイジメもなくなるだろうし、離婚率も下がったりするのかなと思います。

これは社会問題ですね。

 

――仕事量としてはイギリスのナースと違いはあるのでしょうか?

 

分からないですね。。。

でも数は、アメリカの場合は(人口当たりで)4倍ナースがいます。病院のベッド数も日本は10倍とか。

だから、人手が足りないというのはあるかもしれません。

(日本の、)頑張ってて悪い評価受けるという矛盾した現象は、なにかこう変えていかないといけないと思います。

優秀ですよ日本のナースはやっぱり

 

日本のナースが優秀なワケ

 

 

――それ(日本のナースが優秀という点)は、文化的なものもあるんでしょうけど、文化以外にもたとえば教育が優れているなどのことはあるのでしょうか?

 

日本の看護教育は、昔からの日本の看護にアメリカの看護が乗っかった感じになっていて、結構アメリカの合理的な科学的な看護教育が塗り込まれたんです。

でも、そもそも存在する日本の「看護観」みたいなものがあまり歪まずに、さっきのコンサルテーション(※第2回を参照のこと)じゃないですけど上手く日本用にアレンジしたため、「本質的な看護はあまりアメリカにも浸食されていないかもしれない」というのを、ちょうどこの前に中西先生の本(『異端の看護教育』)で拝見しました。

その本を読んでいると、もともと日本が持っている「看護観」というものがあって、そこにアメリカのものをいくら乗せても、揺るがない日本のナースたちのスピリットっていうものがあるかもしれない。

 

――それで言うと、緩和ケアないしはホスピス一つとっても日本ならではのシステムというか在り方が出来るといいかもしれませんね。

 

向こうから持ってきたのは建物とかもそうだろうけど、「システム」としては日本っぽくなっているんじゃないかなと思います。

結局、使う人が主体だから。

 

――たとえば、コミュニティという観点からすれば、現在政府も力を入れている「地域包括ケアシステム」などは関係していると思いますか?

 

イギリスのホスピスなんかはすごくコミュニティベースで、(以前)地方のホスピスに行ったときにすごく感動したことがあります

自分の地域にホスピスがないと自分は安らかに死んでいけないと思っている市民がいるんです。

その市民がボランティアで、この庭は自分が作るとか、ここのことは自分たちがやるとか、ブタが生まれた時にここの患者さんたちに子ブタを見せると喜ぶんじゃないかとか。

そうした市民の人たちがすごく関心を持ち、「作りたい」「作ってほしい」として署名活動で出来ているホスピスが地方は多いんです。

 

で、先ほどの「残業」の話にも繋がるんですが、、、

ホスピスに行くと白衣を着ているナースが必ずいて(イギリスのナースは紺色のユニフォームが一般)、それを「ボランティアナース」と呼ぶのですが、他でも働きながら休みの日もそこで働いているというナースたちです。

つまり、休みがしっかり保障されていると余暇をどう使うかが自由になるので、自分の時間があるときはホスピスにボランティアで来て話すとか、患者さんに手を尽くすみたいなことをやっていて、(私は日本で)看護師をやっていてボランティアとか想像したことなかったなって思いました。

日本も上手くいっているのは、コミュニティベースでやってる緩和ケア病棟なんじゃないですかね。

やっぱりそこの(働いている)人たちのモチベーションみたいなものも作用すると思いますし、、、

 

でも、日本は先に緩和ケア病棟を、保険診療に1990年に乗せちゃうんですよ。

これは世界で初くらいのすごく先駆的なことで、日本は最先端というように他から見られるわけです。

他の(国の)場合は、寄付を集めないと緩和ケアって出来なかったんですけど、日本は寄付を集めないで緩和ケア病棟が出来るようになっちゃった。

なので、どこか医療者のやりたい医療だけが先に進んで、民意が緩和ケア病棟の運営にあまり入らないような歴史的な流れがあったんじゃないかと分析しています。

 

(制度として)形がしっかりしてるので、医療者は「末期の患者さんはそこに入らないといけない」という風に勝手に思うんですけど、患者さんの気持ちが全然動いていなくて。。。

スタッフが「どうやって患者さんを”緩和ケア病棟へ送る“か」を仕事のように思っていることがあります。

スタッフももっと患者さんの思いに寄り添いたいのに、無理をさせてるところもあるなと思っています。

そもそも「送る」っていう表現もおかしな話で・・・。

 

医療者側も、「緩和ケア病棟でやってる仕事が緩和ケアで、他の病院ではひどい目に合わせる」みたいな偏った考えを持った人が緩和ケア病棟にいがちでした。

ですので、それが今の「早期がんの緩和ケア」とか「包括支援」とか色んなことに緩和ケアが入ってくると、そういった閉鎖的な緩和ケア病棟、医療者の思考は減ってくるかと思います

 

インタビュワーコメント

 

日本の看護師は優秀

 

日本の看護師にとって、様々な場所で豊富な経験を積まれた梅田先生から頂く言葉として、これ以上のものはないのではないでしょうか。

日本では今後、優秀な看護師たちが自由な発想で「等身大」で働くためのシステム・環境作りが気もになってくることが、インタビューを通して理解出来ました。

 

次回は、梅田先生のインタビューシリーズ、ラストになります。

現役看護師の皆様へのメッセージも頂きましたので、是非ご覧くださいませ!

 

 

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