本記事の目次
在宅支援事業について
――在宅支援事業についてはいかがでしょうか?
もともとは自宅・外出先・入院先等での見守りや外出の付き添いなどを行う「在宅レスパイトサービス」が始まりです。
それに加えて、家族支援につながる人材育成として喀痰吸引等研修を行っています。喀痰吸引等研修は、介護職の方、保母さん、学校の先生などが一部の医療行為をできるようになるための研修です。*
さらには、障がいケア講演会やシンポジウムの開催なども行っています。これは、医療的ケアが必要な子供たちっていうのが世の中にいるんだよってことを知ってもらうための活動で、年に1~2回ほど行っています。
* 参考:喀痰吸引等制度について
――在宅レスパイトサービスを始めたきっかけやサービス展開の思いについてお伺いしてもよろしいでしょうか?
きっかけとしては、自分が東京で同様のサービスを受けていたことです。
うちの子供は障がいを抱えており、どこにも行けず、預けられる所はなく、おうちも出れずといった状況でした。
しかし私は仕事に行かなきゃいけないということがあり、介護の方に来てもらって、その間にお仕事に行くというのを自費でやっていました。
なぜ自費かというと、自分や自分の子供の状況に合う公的サービスがなかったためです。
ただでさえ介護疲れで部屋の掃除もままならないのに、最初はおうちに他人が入ることがすごく嫌で、でも必要に駆られて「仕方なしに」やっていたのですが、家に来てもらうとすっごく楽でした。
デイサービスの場合だと、たとえばお迎えをした後に買い物に行こうものなら、その子、その子の荷物、プラス買い物ってなるから、とっても大変なんです。
今思えば、この体験が自分の介護に一石を投じたような気がします。
その時に感じた「ほんといいサービスだな~」という感想が、「絶対にこういうサービスを必要としている人がいるはず!」という思いにつながり、この在宅支援事業を始めるきっかけになりました。
うちの子もそうなのですが、ハンデのある子って適応するのがすごく難しいんです。
また、私自身がそうだったのですが、預けることのリスクをどうしても考えてしまいがちです。
その点、健常の人達はきちんと(適応の)ステップを踏んでいるということは注意しなければなりません。例えば、最初に保育園があって、次に小学校があってという様に。
それと同様に、親も子どもを預けるというステップを踏む必要があります。
子どもが泣いて「やだ、やだー」とか言うけど、仕事だからとか幼稚園だからとかという理由を付けて、親も子も泣く泣く離れていきます。
しかし、障がいのある子の場合は、そのステップを踏む場がないんです。
だから、突然デイサービスやショートに預けたりすることになる。
それは、普段お家の中にしかいてなくて人と会うことも少ない、社会性が乏しい子どもが、突然知らない場所に連れていかれて知らない人に見てもらうということを意味します。
そんなの、大人でも耐えられないことだと思うんです。
突然知らないとこに連れて行かれて、「あなたここに8時間いなさいよ」って言われて、なんか嫌じゃないですか?
――その通りですね。
だから、具合が悪くなっても仕方がないと思うんですよ。
障がいのある子は自分で訴えられないので、自傷行為に走ったり、身体の具合を悪くすることでしか不快を訴えることができない。
だけど親はそんなふうに考えられなくて、「やっぱりショートに預けると具合悪くなった」とか「ここは良く診てもらえなかった」といった話になってしまうんです。
でも、私からすると「いやいや、違うんじゃないのかな?」って。
もっと丁寧にステップを与えてあげないと子ども達が辛くなってしまう。
だから、そのステップを踏むことが非常に重要だと思ってます。
具体的には、ファーストステップとして、子どものテリトリーに知らない人が入ってきて、そこで診てもらう。
次に、知ってる人と一緒に知らない場所で過ごす。
そして最後に、知らないところに知らない人と行く。
こうしてきちんと段階を踏んであげれば、子どもも落ち着いて無理なく母子分離ができるんだと思います。
Kukuruでの取り組み 【Step1】子どものテリトリー内で知らない人と一緒に過ごす 【Step2】知ってる人と一緒に知らない場所で過ごす 【Step3】知らないところに知らない人と行く/過ごす |
そうするためには、一方で親の考え方も変えないといけません。
親はやはり障がいの子にできるだけ苦労をさせてあげたくない、嫌な思いを味合わせないようにしたい。だから、すごく頑張ってしまうところがあると思います。
でも、人間って誰もがそういうことを乗り越えてはじめて成長するわけですので、「そこを頑張ろうよ」と。そういう風に思って支えられる人がちゃんといて、一緒に考えてステップアップしていくことが大事です。
このように、「子どもが将来自立するために、頑張りましょう」というのを親御さんにも伝えたいと思いながら、この在宅レスパイトサービスを展開しています。
――私も幼少時に合宿に行く機会があり、父母にダダをこねたことがあるのですが、最終的に「頑張って行っておいで」と言われた経験があります。笑
親がそう言ってくれるから、子供ははじめて乗り越えられるわけじゃないですか。
これでもし「かわいそうだから行かなくていいよ」とか言ってしまうと、ずっと甘えた人生というか、あとで倍になって返ってきてしまいます。
ですが、障がいがある子を持つお母さんはそういう風に思えないんです。
繰り返しになりますが、「こういうステップが大事なんだよ」ということを小さいときから伝えて、「違うよね」って伝えてあげることが大切です。
「レスパイト」は、本来お母さんやお父さんが休むためではなく、「この子の成長するために必要なステップだから、お母さんは来なくて大丈夫」という、、、
言い方が難しのですが、「この子のためのレスパイト」という認識をするべきだと思っています。
ですので、「レスパイト」という言葉の意味を変えなければいけない、いやむしろ、言葉自体もかえた方がいいのかなと思います。
そういった認識を変えるのを推進するという意味でも、このサービスは非常に重要だと思っています。
ただ、自費でサービス提供するとなると、結局高いことがネックになります。
そうなると、本当に使って欲しい人たちには負担が大きいので使っていただけていないという状況でした。
そこで、公的支援を用いてレスパイトサービスを行うため、去年(2015年)に訪問看護ステーションと訪問介護(障害福祉サービス)を立ち上げ、この中でやりましょうということにしました。要は、無料または定額になるということです。
なお、私たちはステップの概念を大事にしているため、訪問看護・介護の枠組みの中でも子供とマンツーマンで「話すこと」を推進しています。
その際は、親御さんには「ここにはいないで」くらいの形でサービス提供させて頂いてます。笑
また、私達がずっとそこでケアをするのではなくて、一定期間が過ぎたら次はデイサービスに行ってみよう、あるいは、一時預かりに行ってみようと促すこともしています。
そういう場合であっても、私たちはすでに子どもと関係性が出来上がっているので、新しいデイサービス行くときには一緒について行って、一緒に遊んで、慣らさせて、とステップを踏んでもらっています。
これは(加算)算定ができないのでボランティアになってしまいますが。
――今の一連のお話は、かなり本質的な部分かなと感じました。
そうですね。
私は(鈴木さんが規定する)「レスパイト」という部分を本当に大切に思っているので、ここがベースの考えになっていると思います。
ただ、医療的ケアの必要な子どもたちを支えるためには、看護だけではどうにもなりません。
そこで重要になるのが、介護従事者の方々です。
介護の人の方が時間が長く、より信頼関係が出来上がっています。
その方々が喀痰吸引等研修を通して、医療の一部を出来るようになることは、結果的に在宅療養をしている人の「家族支援」につながると思っています。
現在、大体年間200人弱くらいは研修を受講して頂けています。
――喀痰吸引等研修は全国的に行うことが出来ますか?
これは法律で決まっていることですので、たとえば東京などでも盛んに行われていると思います。
沖縄では、県の事業は入札ではあるのですが、この研修の実施がすごく難しいということがあるため、他の事業所さんがまだ参入してきていないというのが現状です。
これまで累計1,300名ほどに受講していただいています。
――提供者側にそういう縛りみたいなものが・・・?
それはもう、すっごく大変です・・・!
書類を見て理解すること一つとっても、医療についての知識がないと難しいんです。
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