看護の仕事はどこまで? 【がんと暮らしを考える会・賢見卓也理事長インタビュー1】

「知らないと利用できない」という制度の弊害を克服する『がん制度ドック』

 

――制度の弊害を克服するための情報発信についてはいかがでしょうか?

 

制度の弊害というのは、「知らないと利用できない」ということです。

また、ある要件を満たしているかどうかが分からないことが多く、かつ、分かろうとしてもかなり勉強しないと叶わないケースが多いのも問題です。

要件の充足を判断するためには、本を読んだりパンフレットを見たりしないといけないことが多く、大量の文字を読むことはとても大変です。

加えて伝える側の看護師やMSWも、深い知識を持っていたり相談者の情報を聞き出す必要があるので、苦手意識を持ってしまっているというのがあります。

 

では、「正確な情報はどこで得られるのか?」という点ですが、一般にグーグルの検索などで上がってくるようなお金がかかったサイトというのは結局、保険会社や製薬会社が構築したサイトがほとんどで、逆に言うと情報が偏る(公益性をどう担保するかという点が不明確なところがある)と思っています。

ですので、私たちは公益性を担保した「広く浅い患者支援」を主眼に置くwebサイトを作成しました。*

 

がん制度ドック

* がん制度ドック(検索画面)

 

このwebサイトは、クリックして選択するだけで使えるようになっています。

性別、年齢、がんの部位、初診の時にどんな仕事をしていたか、先生から治すことは難しいと言われたか、体調はどうか、健康保険はどれか、今後は仕事をどうしたいかなどなど、質問事項にチェックを入れたうえで検索をかけると、自分が使える制度の洗い出しが出来ます。

 

ただ、患者さんが既に知っている制度に関してはここではそれほど問題はありません。

問題なのは、知らない制度があるかどうか、それが自分に使えるかどうかです。

もちろん患者さんの状況が変われば出てくる内容が変わります。

例えば医師からの告知で「治すことが難しい」と不治の告知をされたのではなく、余命の告知をされたのであれば、遺族年金や死亡保険金といったものが出てくるようになっています。

 

――がん制度ドック、非常に有用なwebサイトだと思います。

 

このwebサイトを利用することで、「社会的苦痛」の軽減に繋がればと思っています

また、個別相談事業や勉強会の開催も活動の一環として行っています。

個別相談事業は、病院の中で相談会を行う形をとっています。

いろんな制度がある中で、ファイナンシャルプランナーと社労士とソーシャルワーカーがいると、かなり網羅的に制度に関する相談に乗ることができます。

現在4つの医療機関で月1回のペースで相談事業を行っており、2~3件/月くらい患者さんの相談を受けている状況ですね。

 

「業界内のルール」が生む危険

 

――勉強会はどのような形で行われているのでしょうか?

 

同じ場でみんなで学ぶことで、誰かが「教える」というよりも、「認識が変わる」「共通認識を持つ」というところを重視した勉強会を開いています。「考える会」という所以です。

「業界内のルール」というのは、ルールの中にいる人にとっては「常識」となってしまうため、独自のルールであることに気づかないものです。

ですから、多職種で協働する場合には、がん患者さんを支える際の「共通認識」が必要になります

 

では、多職種の認識のズレを埋めるためにどうするかというと、まず認識の違いに気づくことが重要です。

勉強会では、「がん患者」、「自分の現在の職業」、「他職種」と、それぞれの立場で「ある問題」について考え、意見のすり合わせを行うことが出来るため、落とし所が見出しやすいんです。

昨年取り組んだ勉強会では、①末期癌と診断されたがん患者さん、②腫瘍内科の医師、生命保険会社の診断書審査部門担当者の3名によるパネルディスカッションを行いました。

たとえば「民間の保険」の場合ですと、保険会社の保険の審査部門の人が診断書を作り、その診断書を医者が書くという関係があります。

また、末期がんの患者さんに保険制度が使えるかどうか、保険会社が大きなお金を出せるかどうかは、医師が書く診断書の中身一つで変わってきます。

こういうものを三者立ち合いのもとで一緒に考えていると、生々しい意見がたくさん出てきます

 

医師としては、「診断書をきちんと書きたいんだけど、詳しく書くとなるとしんどい」、「経過が数年に渡っていると、決められた枠組みに書ききれない」などの悩みがあります。

対して、保険会社は別の軸で考えていて、「実はその判断軸は先生の診断書の書き方だけではなく、年齢や治療経過や保険の加入時期などによって変化します」と。

そこに、意見や考え方のすり合わせの余地が生まれる

こうした取り組みは今までやったことがないかと思います。

このような場で得られた知見はゆっくりと保険会社の方々に浸透していき、しくみとして社会(未来の患者さん)に還元されていくことになります。

 

――事例の管理というのはどういった趣旨で行ってらっしゃいますか?

 

がん治療と仕事とお金の相談を軸に、現在120件くらいの事例が集まってきています。

こうした相談事例は、他の組織は全く持っていない情報で、とても貴重なものです。

私たちは「誰かが一回経験したことへの対応策を日本中で打つことが出来れば、同じようなつらい経験をしなくなる」という理想の下、他に同じようなことで困っている人を減らすことが目的なので、これをしっかり集計して無駄にしないようにしています。

そのために、たとえば事例検討を相談員(社労士・ファイナンシャルプランナー)で行うという取り組みを行っています。

今はこの取り組みを4つの施設でやっていまして、4つの施設が2か月に1回報告会を行い、事例検討していきます。

また、施設内だけでそれをやっていても広がらないので、全国フォーラムとして開かれたかたちで行う取り組みも去年から進めています。

学会とまではいきませんが、懇親会もかねて様々な地域の人が集まれるようにしており、今年は兵庫県で行いました。

現状としては、事例検討の取り組みから、年金、退職に伴う支援、住宅ローンなど、様々な分野での問題点がさらに抽出されてきていますので、そこに対して次の手を打っている段階です。

 

ここまでお話したことから分かるように、NPOでは、私自身が看護師でありながら、いわゆる直接的な「看護」はしてないですね

ですが、いずれにしても目的はお話したような「問題」の解決を図ることですので、たとえば患者さんが適切な専門家と出会えることで問題解決に近づくならば、組織をマネジメントすることが「看護」としての一歩になると思っています。

 

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