困りごととキーワードが合致していないことの怖さ【がんと暮らしを考える会・賢見卓也理事長インタビュー2】

 

がんと暮らしを考える会・賢見卓也理事長インタビュー第2回です。

第1回では、賢見さんがNPO法人で行っている「社会的苦痛」へのアプローチについて詳しく伺うことが出来ました。そこでは、NPO法人の具体的な活動内容に加え、「看護師とは何者か?」という本質的なお話も伺えました。

今回は、そんな本質的思考を持つ賢見さんの「過去」を徐々に紐解いていく内容となっています。

 

いろいろなことに苦悩しつつも挑戦してきた過去

「看護師」として多様な体験をしてこられた賢見さんの言葉から、どうぞ学びを持ち帰ってください。

 

賢見卓也さんプロフィール

 

病院,看護師,賢見

 

≪略歴≫

・看護師 / MBA
・1999年 兵庫県立看護大学卒業
・2007年- 訪問看護パリアン 在宅ホスピス看護師
・2008年 日本大学大学院グローバルビジネス研究科卒業
・2009年 株式会社トロップスを設立し、代表取締役に就任
・2011年 がん医療・生命保険・公的制度に関する研究会を設立
・2013年 NPO法人がんと暮らしを考える会を設立し、理事長に就任
 →がん患者の「お金」に関する制度を一括検索できるWEBサイト「がん制度ドック」を開発し、千葉・埼玉・兵庫・石川でFPと社会保険労務士によるがん患者向け相談事業を運営

 

社会的苦痛へのアプローチにおける障害

 

――「がんと暮らしを考える会」は、運営をされてきて何年になりますか?

 

2013年にNPO設立しているので4年目になります。

組織自体はその2年前の2011年から動いているので、正確には6年目です。

 

――社会的苦痛へのアプローチを6年続けられてきて、何が障害になってこれまで社会的苦痛に看護師がアプローチできていない / いなかったと感じていますか?

 

様々な分野で問題がありますが、特に、医療、看護、制度、そして教育の問題があると思っています。

まず医療の分野で言うと、これまでは社会的苦痛に関与しなくてもよかったということが言えます。

つまり、「医療費の相談は病院でしなくてもいい」と言える「社会経済の余裕」があったように思います。

しかし今は、医療分野においても経済的な問題が降りてきていて、患者さんとの関係においても影響を与えていますよね。

 

次に看護においては、看護師がどれだけ社会に役立ったかについてわかりづらいという問題があるかと思います。

一つの病院にいる認定看護師、専門看護師さんが活躍することで、病院の看護自体がぐっと底上げされることが理想としてはあってほしいのですが、実際には目の前の患者さんに対してのケアはうまくできるけども、「病院の全体的な底上げをする」のはなかなか難しいものがあります。

つまり、多くの専門・認定看護師は、「特定の専門的なことをやるのが仕事」という構造になってしまっており、仮に「ある問題」に気づいたとしても、診療報酬の問題・院内の手続きの問題などでクリエイティブなことに手を出させない文化が浸透しているように思います。

 

さらに、一般企業や行政の制度の捉え方の問題として、「契約にないことに関しては関係がありません」といったスタンスでやりすぎたことが背景にあるのではないかと思っています。

過度に進み過ぎた契約社会は、がんに罹患し、契約から漏れようとしている人たちにどう手を打つかというところにあまりに冷たい。

たとえば、患者さんがしばしば年金のことでNPOの相談会にいらっしゃるのですが、これは本来は病院でやるべきことではなく年金事務所の仕事なんですよね。

年金事務所という公的機関ですら年金受給者に対してきちんと対応していないのは顧客に対してお粗末だと思います。

 

そして、教育分野の問題点として、いわゆる「●●リテラシー」と言われている部分が全然足りていないことをいくつか実感してきました。

たとえば、「メディカルソーシャルワーカー」(※MSW)という言葉を知らない人が一般社会ではすごく多いことは「教育の問題」の1つだと思っています。

また、同じように金融や制度の分野でも、基礎的な教育を受けていないんですよね。

少なくとも私が活動をする中では、お金・制度・医療の3つともがほとんど教育されていないという現実に直面しました。

 

賢見さんの社会的苦痛への関心はどこから?

 

――これは過去の話につながっていくと思いますが、さきほど大学病院時代から社会的苦痛に関して重要性を認識していたというお話がありました。それは具体的にどういうことなのでしょうか?

 

今のように明確になってはいませんでしたが、当時から問題意識はたくさんあって、それでモヤモヤしていました。

自分がくすぶっている感覚、このままだったらまずいんじゃないかという感覚がいくつも起こっていましたね。

 

大学病院当時でいうと、ひとつはクリティカルパスでした。

病院での医療自体がすごく効率重視になってきて、低コストで適切なものを提供できるようになってきていました。

しかし、自分が受けたい医療というのはオーダーメイドだったんです。

自分の人生の最期ではベルトコンベアーのような病院のしくみには乗りたくないので、個人の希望にあわせてほしいという思いが自分の中にあるんですよね。

じゃあ、オーダーメイドの医療や看護をやるにはどうしたらいいか。

国の医療費が削減されている中で、どこから予算引っ張って来ればいいのかという問題意識につながりました。

 

一方、看護業界の問題ですが、一生懸命勉強している看護師さんと何もしていない看護師さんの給料が同じでいいのかというモヤモヤがありました。

同様に社会でもがんばって仕事をしてきた中間所得者層の悩みを放置していたらまずいんじゃないかと思っていました。

 

最後に、訪問看護や在宅ホスピスに関してです。

10年前当時は、今ほど在宅で最期を迎えることは当たり前ではありませんでした。

学生のころから自分で訪問看護ステーションを開業して在宅ホスピスの発展に寄与したいと思っていましたが、診療報酬が上がったり下がったりして国や制度にハンドルを握られている観がありました。

そこで、「公的な診療報酬だけに頼らない仕組みで何かできないか?」という風に思い、独自の収益構造を作るためにいろんな事を考えました。ただ、最終的には自分でステーションを立ち上げるのではなく、まずしっかりいろんなこと学んでからスタートをきりたいと思うようになったんです。
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