困りごととキーワードが合致していないことの怖さ【がんと暮らしを考える会・賢見卓也理事長インタビュー2】

看護師がMBAに行ってみて

 

――いわば「やるべきことを探った30代」だったと。中でもご経歴で目を惹かれるのが、大学院にてヘルス&ソーシャルケアコースを修了されたという点です。そのいきさつというのはどういったものでしょうか?

 

当時、ビジネススクールが流行っていたというのがあります。

社会人が大学院に行くこと自体が当たり前になってきた時代だったんですよね。

ただ、当初は修士課程に進むことは全然目的にはなかったんです。お金を貯めていたのも、訪問看護ステーションをいつか立ち上げようと思っていたからです。

しかし、私自身がビジネスの仕方も知らなかったことや、診療報酬など環境に左右される構造を脱したかったというのがありました。

自分がリスクをとって開業するんだったら、診療報酬に合わせてやりたいことを変化させるのではなく、やりたいこと・大事だと思っていることに対して直接的に手段を講じれるようになりたかったんです。

 

また、一般の産業から、オーダーメイドを実現する手法を学びたかったという理由もあります。

トヨタやフォードなんかは、効率化なんてずっと以前から取り組んでいるんですよね。その次の段階が知りたかった。

効率化はするけれども、その中でいかに満足度を高めるかというノウハウは既にいろんな業界で取り組んでいるんじゃないかって。

当時の医療全体が効率化にしか目が向いていない時期だったのですが、「それだけではないんじゃないか」と思っていました。

 

その点、訪問看護はまさにオーダーメイドですよね。

正直、こんなに近いところにあるとは思わなかったです。

 

――MBAに行ってみて、やはり学びは大きかったですか?

 

学びが大きかったのもありますが、色んなことを聞ける人が増えたというのも大きかったです。

税金関連の書類が届いたときに、税理士の同級生に聞くことができたり、ホームページを作るときにITに詳しい人間が周りにいたり。

 

――聞ける人が増えるというのは、すごい宝ですよね。

 

そうですね。

実際に大学院に行った後にNPOの取り組みをして、すごい方々とお会いしてお話を伺うことで、何かしら新しいキーワードを聞けることはすごく大きなことだと思っています

 

逆に負の面を言えば、ビジネススクールで教えることって結構通用しないことが多いですね。笑

やってみて、たくさんの失敗を経た今になって思うのは、やはり日本は日本の業界にあった方法を目指す必要があるということです。特にNPOなんかはそうです。

 

MBAで教えることというのは、株主に配当を返す話・資本主義での勝ち方の教育がほとんどだったんですよね。

しかし、日本の場合は独自の文化というべきものがあります。

私がいろいろ悩みながら近江八幡という場所に旅行しに行った際に、「三方よし」という言葉の意味をを改めて感じることがありました。

「三方よし」とは「売り手よし、買い手よし、世間よし」という考え方です。

 

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実はこの言葉は、「ソーシャルビジネス」といった外来語がないずっと前、、、江戸時代からあるんです。

「売り手よし、買い手よし、世間よし」ということは、相手を豊かにし、こっちも損をしないし、世間的にも見ていて納得できるような仕事の仕方をするということであって、日本ではそれで初めて「仕事」として続けることができるとされていました。

その点、非営利法人は「Non-Profit Organization」でNPOと言われますが、実は「三方よし」そのものです。医療法人もまた非営利法人です。

ちなみに、「Non-profit」は別にボランティアという意味ではないので、普通に必要な収益は上げていいのが原則です。

 

そういう意味で「三方よし」を地で行きたいです。

もっとシンプルな言葉で表すと、「なくなったら困った」と言われるようになりたいと思っています。

 

「あったらいいね」ではなく「なきゃいけない」存在へ

 

――それこそ今キーワードで出てきた「三方よし」という言葉――身近な言葉で置き換えると、「なくなったら困った」というものを作っていくことがコンセプトとしてあるのでしょうか?

 

コンセプトという大仰な話ではなく、「自分たちの取り組みをどういう風に捉えれば腑に落ちるか」です。

 

もちろん運営が苦しいこともありますが、結局自分の取り組みが喜びになるかどうかは、人の「役に立っている」という認識があるかどうかであり、自己満足をどこで得ているかというところにかかってきます。

 

他方で、客観的な目線で言えば、「あったらいいね」というものと「なきゃいけない」というものの差は非常に大きいという点は意識しています。

我々は今はまだ前者の状況ですが、本来仕事やお金の問題は、患者さんの生活の大切な基盤ですから、「なきゃいけない」役割を担っていくことを目標としています。

今でもそう思ってくださっている方々は少なからずいてくださり、非常に団体の栄養になっています。

 

※次回は、「矢印は、自分でもロールモデルでもなく目標に向けるもの」との題にて、賢見さんのこれからのお話をじっくりと伺います!

 

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