プロローグ~30歳、末期胃がんの患者さんとの出会い~
私が最も印象に残っている患者さんは、訪問看護に転職して半年ほどして、担当した末期胃がんの患者さんでした。
若い患者さんでしたし、病棟に事前訪問した際には笑顔を見ることもできなかったため、どう向き合っていけばいいのか、とても不安を感じたのを覚えています。
今回はその時の体験を皆さんにお伝えしたいと思います。
画像出典:24hourhospita
本記事の目次
【訪問看護で最も印象に残っている利用者さん】出産から胃がんの再発
患者さんは25歳に早期胃がんを発症、胃の3分の2を切除され、その後抗がん剤治療を2年間続けました。
2年間受けられた後、再発も転移もなく、経過観察という状態になっておられました。
そして、27歳の時に結婚され、妊娠について、後3年くらいはしない方がよいと言われていたそうですが、1年後に妊娠。
再発の不安がなかったわけではないでしょうが、経過は順調だったので、産む決心をされました。
無事に男の子を出産され、家族が増えた喜びの真っただ中、ちょうど1歳になった頃、胃がんが再発したのです。
そして再手術。
抗がん剤治療をされましたが、再発および転移を食い止めることはできませんでした。
【訪問看護で最も印象に残っている利用者さん】食べられる工夫
食事ができずに苦しむ日々
その患者さんは、手術を受けたことによる癒着と再発で消化管が閉塞を起こしてしまい、食事は全くできない状態で、高カロリー輸液をされていました。
何も食べていなくても、ずっと吐き気に苦しむ毎日。
消化管が閉塞しているわけですから、食べても栄養にはならず。。。
治通過障害から起こっている吐き気があるため、食欲も出ません。
食べる方法は「胃瘻」だった
そこで、主治医と私たちは本人が食べたい物を食べることができる方法を考えました。
その時、思いついたのが胃瘻です。
胃瘻は嚥下障害のある方に胃に直接栄養を入れる方法のこと。
食道から胃までに閉塞はありませんでしたので、効果があるのではないかと考えました。
胃瘻を試してみた結果、私たちの期待どおり、食事ができるようになったのです。
食べた物はすべて胃瘻につけたバッグに流れてしまうのですが、ご本人にとっては味わうことができ、とても満足されていました。
チューブも太さには制限があるので、チューブがつまってしまってはいけないので、流れやすい物を食べるようにお勧めしていましたが、いろいろと食べておられました。
パスタやカレーなども食べておられ、バッグを見れば今日何を食べたかがすぐにわかりました。
【訪問看護で最も印象に残っている利用者さん】子供との関係
在宅療養への移行 子供との関係良好
患者さんと子供さんの関係は、1歳になる頃からほとんど入院生活をされていたこともあって、良好とは言えない状況でした。
患者さんにとっては、この子を妊娠しなければ、再発をすることはなかったという思いもあったのでしょう。
また、子供さんにとっては、いつもお母さんはおらず、帰ってきても元気なく寝ている。
それに、遊ぶこともしてもらえないので、どうしてもおばあちゃんやおとうさんにべったりでした。
しかし、在宅療養に移行し、胃瘻が入ったことで食事をとることもできるようになってまずまず安定した生活を送れると、子供さんと遊ぶこともできるようになりました。
子供さんも甘えるようになり、二人で遊んでおられるところを見るとこちらも微笑ましくなりました。
子供さんの生活発表会に参加するために
その子供さんの保育園での生活発表会にどうしても参加してもらいたいと私たちは考えました。
そのためにいろんな対策をしなくてはなりません。
まずは、抗がん剤の影響の脱毛に対して、どうするかを考えました。
今はお手頃なウィッグも販売されていますが、当時はオーダメイドの高価な物が主流でした。
そこで利用したのは、夏目雅子さんが遺されたひまわり基金。
無料でかつらをレンタルすることができました。
かつらの準備ができれば、あとは洋服です。
点滴のチューブ、胃瘻のチューブがつながっているので、既製品の洋服が着れるのかどうか、チューブが見えないような工夫など、患者さんと一緒になって取り組みました。
結果的には、無事に生活発表会に参加でき、患者さんはとても感謝してくれました。
【訪問看護で最も印象に残っている利用者さん】生きることより、今を楽しく、楽に!
患者さんのご主人は患者さんより10歳年上で、患者さんのことを大変愛しておられました。
どうしても生きていて欲しいと思い、たくさんの高価な栄養食品を患者さんに勧めていました。
奥さんは頑張って飲んでおられましたが、味も苦かったりまずかったりで患者さんには苦痛だったようです。
「生きたいと思うけど、こんなまずい物を飲むより、食べたい物や美味しい物を食べたい。」
「今を楽しく、しんどいのはもう嫌、楽に過ごしたい。」
これを生活の質(QOL)の向上と呼ぶのでしょう。
患者さんには、やりたいことをやって、長年過ごした家のにおいを嗅ぎ、風を感じ、子供や家族の声を聞きながら穏やかに過ごしたいという気持ちがあったのだと思います。
一方、ご主人は「生きてほしい」と願ってある種の「治療」を施している。
私は眼前の状況に対して何とも言えないむずかしさを感じ、「これが訪問看護なんだ」と感慨にふけったのを覚えています。
画像出典:shutterstock
訪問看護で最も印象に残っている利用者さん まとめ
どのような生き方、療養生活を望むかは患者さんそれぞれ。
特に訪問看護では「目の前の患者さん」の考えや願いに寄り添うことが求められます。
訪問看護師を目指している方はぜひ、とことん患者さんと向き合うことを大事にしてほしいと思います。
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