アメリカでのホスピス体験 ~小児ホスピスへの挑戦~ byラプレツィオーサ伸子

 

≪著者プロフィール≫ ラプレツィオーサ伸子

日本の大学病院で看護師として勤務後渡米、現在アメリカ人の夫、3人の子供と犬の世話に奮闘しながら、在宅ホスピスナースをしています。

少しでも日本のホームケアの発展に貢献したく、ここアメリカ東海岸から、在宅ホスピスの生の情報をお届けしたいと思います。

 

小児ホスピス

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小児ホスピス無理無理

 

2011年のこと。

私の勤務するホスピスが小児ホスピスを開始しました。

当時のホスピス病棟の師長は小児ホスピスの経験があり、彼女のリーダーシップと上司のバックアップによって、ホスピスチーム内から有志を募り小児チームを結成したのです。

「興味のある人は私の所に申し出て。小児ホスピスは私達にとって新たなチャレンジだけど、今必要としている人達をサポートできるのはホスピスのエキスパートであるあなた達だから」とミーティングで上司は言いました。

きっと多くのメンバーがそうであったように、その時の私の心のリアクションは「小児ホスピスなんて、絶対無理」というものでした。

理由は2つあります。

第1に、わたし自身が小児看護には携わったことがなかったから。

第2に、幸運なことに健康な3人の子供達を育てている母親として、余命宣告をされた子供達の親に、自分がどう接していけるのか想像がつかなかったからです。

最初の小児チームは、病棟師長をリーダーに50代後半・60代のホスピスナース二人と、母子チームから50代半ばの小児ナースが一人、MSW、チャプレン、ボランティアコーディネーター、そして小児ホスピス専任のメディカルディレクターといった面々で結成されました。

ホスピスナースと小児ナースがペアでケースを受け持ち、ホスピスナースは小児看護を、小児ナースはホスピス看護をお互いから学びあうことで、それぞれ小児ホスピスナースとして自立することが目標でした。

 

小児と成人、何が違って何が同じ

 

小児チームが動き始めてからのミーティングでは、小児ケースの報告もされるようになりました。

ホスピスナースになって10年以上経っても、毎回の訪問はまだまだ学びの連続でした。

そんな私にとって、ベテランナース達の報告する小児ケースの様子は、想像とはかなり違ったものでした。

報告されたケースは乳幼児が主でしたが、それ以上に家庭環境の複雑なケース、例えば母親がティーンやシングルマザーだったり、父親が刑務所に入っていたり……。

MSWが関わる部分の大きさと、ナースが支える人達の多様さに驚かされたのです。

小児ホスピスは、成人のホスピス以上に家族やコミュニティーとの関わりが深く、成人のホスピス以上にプロフェッショナルのサポートを必要としていると、実感として受け止めることができました。

また、私が不安に感じていた小児の症状緩和という面では、薬の量は違いますが、基本的に成人と大きな違いはなく、恐れるほどの事ではありませんでした。

そして「自分の子供が健康であることと、ホスピスナースというプロフェッショナルとして、余命の短い子供達の親を支えるということには、何も関係はない。

ある意味、自分の子供達が健康だからこそできることなのかもしれない」と思うようになっていきました。

 

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看護師をしている人なら誰でも「大変なお仕事ですね」と言われた事があるのでは?そんな時どんな風に答えますか? 実はわたしは、ホスピスナースである事をあえて言わない時期がありました。というのも、私が「ホスピスナースだ」と言った後の、相手のリアクションにどう対応したらよいか分からなかったからです。