本記事の目次
看護師になろうと思った理由
――「終末期医療」に興味を持ったきっかけも気になるのですが、そもそも、なぜ看護師になろうと思われたのですか?
終末期医療と看護師、双方に関係するきっかけが2つあります。
1つ目は、中学生の時に友達が亡くなったことです。
その時、「自分がどういう気持でいたらいいか分からない」ということがありました。
果たして、「さようなら」なのか「天国でまた会おう」なのか「悲しい」なのか。あるいは、障害を持っていた子だったので、「楽になれてよかったね」なのか。
亡くなった人に対して僕がどういう捉え方をしたらいいのかがよく分からない。
だから、「自分が死んだだらどうなるんだろう」というのを純粋に疑問に思ったのがそもそものきっかけです。
2つ目は、母親が若年性アルツハイマーになったことです。
私は片親なのですが、母が一人で寝る間も惜しんで働いて、私を育てていました。そして、私が高校へ行ったりとお金がかかる時に、急に若年性アルツハイマーになりました。
要介護者になって、仕事もいけなくなって、何もできなくなってという時に、私は親孝行もせず迷惑ばかりかけていたので、「この人の人生はほんとに幸せなんだろうか?」と思春期なりに思ったんです。
それ以後、「良い人生ってなんだろう」と考えるようになりました。
それで、「死」とか「人生」を踏まえて自分が就くべき仕事を考えたとき、、医者、リハビリ、介護などの中で、「看護」が一番患者さんの人生に触れている時間が長いと思い、看護師を目指すようになりました。
はじめは「お医者さんになるべきかな」と思っていましたが、仕事について調べていくうちに、看護師さんのほうがその人の人生の最期までお世話をしているイメージを持つようになって。
最もベットサイドに長くいるのは看護師さんかなと思ったんです。
――長く患者さんを看たいと思った方の多くは、医師ではなく看護師という選択をされる気がします。
今、自分は看護師としてお医者さんをみていると、大変そうではあるけれども、やはりすごく良い仕事だと感じています。
なぜなら僕達が一歩踏み込めないものに踏み込むことが出来る。
それでも、「看護師」という職業が、自分がやりたいと思っている仕事のイメージに近いことができていると感じています。
それは、患者さんやご家族様と一緒に考えたり悩んだり、「何がいいんだろうね?」と寄り添う仕事がしたかったという意味で、(「看護師になる」という選択は)正解だったと思います。
訪問看護に進んだのは有床診療所の経験が大きかった
――大学病院をやめて、そこから訪問看護に進んだ理由はどんなものだったのですか?
訪問看護に進んだ理由は、最初に入った有床診療所での経験が大きいです。
(有床診療所には)本当にいい先生、先輩看護師、そして患者さんが多かった。
ですので、当時は基本的には有床診療所を辞めたくなかったんです。
変な話、その有床診療所に育ててもらったという感覚があって、、、
18歳で資格もない、サッカーしかしていない、敬語は「〇〇っす」というような若者に、ゼロから看護師の先輩や患者さんたちにたくさんの指導をしてもらって育てて頂きました。
それに、関わった患者さんがお亡くなりになる時も最期は穏やかな表情の方が多く、「良かったね」「頑張ったね」と感じることが本当に多かった。
そのときの経験が、終末期看護や、“看護”それ自体を好きになった大切なきっかけなのだと思います。
その有床診療所にも患者様さんにも感謝しかありません。
そうした経験を積んだこともあってか、大学病院で働く中で「本当にこれでいいのかな?」と疑問に思うこともたくさんありました。
たとえば有床診療所にいた時は、患者さんが外来診察に来る度に、身の上話しを沢山聞かせて頂くことが多く、一人ひとりの患者さんの歴史や人となりを知る機会がありました。
入院されても大切にしている事や、これからどうしたいかをベッドサイドで聴く機会も多くありました。
しかし、これからの人生を考えるべき機会に、病院では、このまま治療するか・しないかの選択が、本人や家族よりも、医療者側の価値観が最も大きく影響してしまっているイメージがありました。
人生の大切な岐路を考える説明でも、「今回は抗癌剤治療を行いました」「再発したらこういう抗癌剤をやる選択もあります」「別のこういう治療もあります」「逆に何もやらないという選択もあります」といったことを五月雨式に伝える印象です。
そうではなく、「どこで過ごしたい」「誰といたい」「なんの時間を大切にしたい」といった話をゆっくりと聞く機会は少なく、聴きたいと思ってもその場では余裕がない。
そうした点で違和感を感じてました。
また、夜勤中などの時間に患者さんの今までの話をお聞きしているときに、「元々いた家族の近くの病院や施設に帰る」あるいは「家に帰る」という選択肢が増えればいいなと思うことも多かった。
そうした思いが膨らんでいったことに加え、世の中全体で見ても「家に帰る」という選択肢をとりづらい印象があったため、訪問看護に進みました。
昔から「訪問看護をやりたい」「訪問看護に進みたい」という気持ちがあった訳ではないのですが、今までの有床診療所と大学病院の経験から、「訪問看護が不足している」と強く感じたため、「必要とされている訪問看護を、そして、自分の関心がある終末期看護をやりたい」と思い、訪問看護師になりました。
――訪問看護師になって看護を行ってみて、どう感じますか?
感覚としては、有床診療所で働いていたときに近いと思います。
有床診療所では、診察や治療を受ける目的である病気以外の困りごとを抱える方々がいっぱいいて、病気のこと以外にもいろんな話をしていました。家族の話、嫁姑の話、それから仕事の話など・・・。
患者さんの「日常」を聞くことが多く、それを踏まえて選択肢を一緒に考えたり、選択したこと自体を支えるというのが多くて。
一方、大学病院は主に「治療」を目的としているので、決められた治療と決められた流れの中で、問題なく治療が進むように支援するという感じがしていました。
たとえば、「副作用がでていないか」とか「ちゃんとご飯食べれているか」といったものです。
在宅に行くと、その人の家での生活が上手く行かない理由(可能性)――もちろん病気もあるし、家族関係もあるし、住まいのこともあるし、いろんなことがあります。
つまり、対面する問題の幅が広く、それを解決する為に使える資源の幅も広いんです。
そうした意味で、大学病院よりも地域の有床診療所での感覚に近しさを覚えました。
看護業務自体に関しては、大学病院やそれ以前に学んできたものと比べて使うシステムがちょっと違うだけで、本質的に行っていることは何も変わらないなという感じでした。
――改めて考えてみると、病院はきちんと治療するために、言い方は悪いですが「隔絶された環境」を作っている訳ですもんね。
そうですね。でもそれは必要なことだからなんですよね。
在宅にも(病院と同様に)医師がいますし、もちろん医師が出す指示通りにきちんと治療や療養が進むように見ていきます。
ただ、焦点の当て方が異なります。
在宅では利用者の「生活全体」を見ているので、解決すべき問題や資源の使い道が広いという点が特徴的です。
一方病院では、点滴を刺して血圧を測って、なんとか無事「この治療」を乗り越えられるようにサポートするための高度で集中した仕事をしていくことになります。
もちろん治療以外の選択肢もありますが、あくまで「この治療」に主眼が置かれる印象です。
ここまで言うと、「病院よりも在宅のほうが素晴らしい」と言っているように聞こえますが、病院と在宅どっちが良い?という話ではなく、大学病院には大学病院の「目的・役割」があり、有床診療所も訪問看護もそれぞれ「目的・役割」があるのだと思います。
僕は病院は病院で、すごく楽しかったし、やりがいがあったと感じているので、「病院の存在」に違和感が向けられている訳ではありません。
ただ、在宅においては僕が看護師を目指した原体験に近い仕事ができる、と思っています。
==第1回:完==
※第2回インタビューは、落合さんの印象に残っている患者さんに触れながら『利用者にとっての在宅の良さ』について語っていただきます!
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