利用者にとっての在宅の良さって何ですか? 【インタビュー:緩和ケア認定看護師・落合実さん(2)】

 

ウィル訪問看護ステーション江戸川にて緩和ケア認定看護師としてご活躍されている落合実さんインタビュー第2回です。

 

第1回インタビューでは、落合さんのこれまでの経験――有床診療所・大学病院・訪問看護ステーションと様々な場所で看護を実践されてきたこと――をお聞きしながら、「看護師にとっての在宅の良さ」についてお話頂きました。

曰く、「在宅では、利用者の『生活全体』を見ているので、看護師が対面する問題の幅が広く、それを解決する為に使える資源の幅も広い」とのことでした。つまり、利用者さんに対して包括的支援が可能である、と。

 

では、逆に利用者さんにとっての在宅の良さとは何でしょうか?

今回は、訪問看護において落合さんの印象に残っている利用者さんのエピソードに触れながら、「利用者さんにとっての在宅の良さ」についてお聞きしていきます!

 

緩和ケア認定看護師、落合2

緩和ケア認定看護師 落合実さん

 

訪問看護業務で最も印象に残っているのは「独居(一人暮らし)の方の看取り」

 

――訪問看護を始めた後に出会った利用者様で印象的な方はいらっしゃいますか?

 

独居(一人暮らし)の方を看取る」という経験が自分の中では印象に残っています。

 

当時出会った患者さんは、がん末期の方だったのですが、生活保護を受けていたので、「治療ができなくなったら他人様に迷惑を掛けたくない」と考えていらっしゃり、入院費などで税金がたくさんかかってしまう病院という場ではなく、家で暮らしたいと仰っていました。

今は一人暮らしの終末期の方へ訪問することもそう珍しくないのですが、当時の私にとっては、何かあった時に患者さん自身で人を呼ぶことができないこともあるので、税金をより使ってしまうことに心苦しいことは分かるけど、病院や施設などの人の多い場所の方が彼も安心ではないか、そのほうが良いことなのではないか、と考えていました。でも、その方は様々なリスクを承知した上で自分の家で過ごす、という選択をされました。彼が人生の最期でなにを大事にしていきたいか、を考え抜いた結果としての選択でした

私たちは身体のケアはもちろんですが、一緒に身辺整理をしたり、疎遠な家族との繋がりを少し戻したり、彼がこの世を去る身支度の支援をするなど、彼が望む生活をお手伝いしました。

本当に質素な生活をしながら、、、最後はコールを受けて看護師が訪問するとポータブルトイレの上で亡くなられていました。

 

彼とは色々なお話をしましたが、亡くなる2、3日前にお話下さった言葉が特に印象的です。

 

彼はその日、「入院していた時は、自分が生きようと考えるより、人に迷惑をかけながら生きているということが辛かった。」と話してくれました。

それで、「迷惑をかけずに一人で死のう」と考えて退院した後、本音では訪問看護師が家にくることすらも申し訳ない気持ちだったそうですが、看護師にこれまでの人生を思い返しながら話をしたり、近くに買い物に行った際に近所の方が声をかけてくれて「社会と繋がっている」ということを感じたりするうちに、こう思ったそうです。

 

「人に迷惑をかけてきた人生だったけど、これはこれで良かったのかもな」

「みんなにありがとなって言いたい」

 

昔ながらの頑固な方だったので、それを聞いたときは意外でしたがとても嬉しかったことを覚えています。

彼は「社会」の中で改めて自分自身ことを整理できたのではないか、そして「生きている感じ」が最後までしたのではないかと思っています。

その時に、「在宅って社会とつながりやすいんだな」「末期でも独居でも最後まで人や社会とのつながりの中で過ごすことは出来るんだな」ということを感じました。

 

この経験を通して、「在宅看護の良さの一つに、人が社会の中で生き、社会の中で最後までその人の価値観のもと、暮らすことを支えるという面もあるんじゃないか」と思ったんです。

 

それまでは、「家でお亡くなりになること」「家で生活すること」こそが(利用者にとっての)訪問看護の良さであると思い込んでいました。

ただ、独居の方を看取るという経験を通して、「社会とのつながりを支えるもすごく大事なことだと実感しました。

 

――選択肢があったからこそ、家に帰って、落合さんと会って、話して、ということができた訳ですよね。

 

その道を選んだのはご自身で、苦しいこと、辛いことはきっとあったと思います。

それでも、自分の身体のことではなく、言ってみれば社会の中での自分・生き方」のようなものを選んだんですね。

その生き方を彼は達成できたわけなので、すごく満足できたんだと思います。

こういう、誤解を恐れずに言えば、かっこいいというか、武士的というか、自分らしさを最後まで貫いて男として尊敬できるというか、、、そういう暮らし方、生き方もあるんだと思いました。

 

選択肢を広げたい、納得の行く最期を迎えて欲しいと思うようになった原体験

 

――落合さんの「自分で選択して、納得がいく形で終わること」が「いいこと」だと思える感受性を持つに至った原体験はどういったものでしょうか?

 

「人生」や「死に方」について考え始めたきっかけは、先ほどお話した母親のエピソードと友人のエピソードの2つです。

ただ、「人生の幸せは人それぞれ」という価値観が生まれたのは最初の職場が大きいです。

 

一般的な価値観に基づけば、治療の場として選ぶ先は、絶対に大学病院の方がいいんですよ。綺麗だし、清潔だし。先生や看護師さんは沢山近くにいますし。

でも、有床診療所の患者さんたちは今まで何十年ってお付き合いしてきた院長先生と婦長さんと会えることを幸せに感じて、診療所を選んで通っていました

患者さんの中にはお金を持っているから幸せそうな人もいれば、幸せそうでない人もいました。

あるいは、入院してても家族が来てくれて幸せそうな人もいれば、家族がなかなか来なくて残念そうな人も。それから、肺がんなのに病院の中でたばこを吸って、看護師に怒られることが楽しそうな方。身体がつらいのに、僕に人生について教えてくれる方も。

そうした中で患者さんからお聞きした言葉は僕の中で今でも胸に刻まれていますし、環境が不十分だと思われても、身体が苦しくても自分らしく生きている方々を見て、なんとなくですが、自分もこうありたいなと思いました。

そうした方々を隣で見ていると、世の中的に「良い」と言われていることが、その人の幸せには直結しないと思うようになりました。

 

また、患者さんから手紙を頂くことも少なくなかったのですが、そういう感謝を頂くたびに、ただの「若者」と「(人生の)先輩」の関係であることを感じました

実際のベッドサイドでは毎回悩みながら患者さんに関わっていましたが、若いだけの僕に「よかったよ」とか「ありがとう」とかを言って頂けることが本当に嬉しかったです。

おそらく患者さんにとって、「世の中的に良い医療や治療」だけではその人の幸せとは直結していなくて、人間関係であったり社会との繋がりの中で、その人の価値観のようなものがあって、それになるべく寄り添い、支援することが大切なのかなと思います。

 

――体験として実際に見聞きするのは大きいですよね。

 

大変学ぶものが多かったですし、そういった体験や出会いは働く上での糧にもなっています。

 

色んな方々と触れることで、「病院という医療的に最高な環境が必ずしも人生を幸せにするものではない」と思えています。

その人それぞれに最高な環境があるのだと思います。

 

緩和ケア認定看護師取得の理由

 

――選択肢を増やすという目的において、「緩和ケア認定看護師を取得したい」と思ったのはどうしてですか?

 

緩和ケア認定看護師を取った理由の1つは、純粋に自分の看護師としての実力が足りないと感じ、学びたいと思ったからです。

今まで看護師になってから、基本的には仕事と並行して何かを学んできていて、日本政策学校に行って勉強していたり、WEBデザインの学校に行ったりと、看護以外の世界を学ぶことがすごく好きなんですが、色々実力不足を感じることもあって。

そして、看護の実力もあげたいなと思って、緩和ケア認定看護師教育過程に行きました。

 

もう1つは、世の中には「看護師不足」とか「訪問看護師不足」とか「孤独死」といった問題がありますが、その解決に足りないのは現場にいる看護師、つまり「プレイヤー」だと思っているからです。

なので、政治や起業より僕自身は基本的には現場に居続けたい、現場のスキルを高めたいと思う気持ちが強くて。

それで、より実践に活かす実力を身につけるために、取得しました。

 

――資格取得の具体的な内容は存じていないのですが、資格の取得で目的は幾分か達成されましたか?

 

取得するという目的は達成しましたが、取ったのは本当に最近で、、、

これからようやく勉強してきたことを実践したり、あるいは、緩和ケア認定看護師の先輩たちがすでに地域にいますので、そういう方々と協力してより良いものを作っていけたらと思っています。

どういった形でそれを達成できるかはこれから楽しみです。

 

==第2回:完==

 

※第3回インタビュー(最終回)は、落合さんの今後のビジョンに触れながら『「在宅」という選択肢を広げるにはどうしたらいいか?』について語っていただきます!

 

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