【著者】
石川 雄一 氏
【プロフィール】
慶應義塾大学経済学部卒業後、東京海上火災保険株式会社(現:東京海上日動火災保険㈱)に入社。主に国内営業畑を歩み、近畿業務推進部長、札幌中央支店長などを歴任。55歳で自動車メーカー保険代理店の常務取締役となり、経営と人材開発に尽力。退任後、大型自動車メーカー関連会社参与を経て退職。 2017年に立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科入学し、2019年3月に修士課程修了。MBA(経営学修士・社会デザイン学)。2020年4月からは新たに立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科博士課程に在籍し、企業組織に関する研究の傍ら、セミナー講師など精力的に活動している
「ヒストリー」でなく自らの「ストーリー」を
定年退職後に自分の人生を振り返り、ライフヒストリー=自分史を執筆する方が多数おられると聞きます。自分史を書く生涯学習教室が盛況だそうですが、お聞きしたところ、最初のうちは記憶の断絶が多すぎて筆が進まないとのことです。
そこで親兄弟、親戚、小中学校、高校、大学時代の友人にコンタクトを取り、自分の過去を取材するのですが、これが大変な作業になります。年賀状だけの関係だった人たちに再会したら、膨大な記憶がよみがえってきます。面談を録音して文字起こしをすると、それを聴くだけでも相当な時間かかり、これを時系列に沿ってまとめてゆきます。1年近くかけた取材をもとに自分史を執筆すると結構な量になり、なかには自費出版される方もいらっしゃるようです。
筆者がここで取り上げるのは「ヒストリー」ではなくて「ストーリー」なのですが、どんな違いがあるのでしょうか。
ヒストリーは時系列に沿った事実の記載ですが、ストーリーはさらに出来事の意味を考え、起承転結を加えていくのです。例えば入社、結婚、転勤など様々な通過儀礼を踏まえて、ヒストリーに意味を持たせると言ってもよいでしょう。年月を単にトレースする(たどる)だけではなく、例えばある時期を振り返り、自分の行動や結果にはどんな意味が含まれていたのかを考えて、起承転結のある物語にしたててゆくのです。
40歳代でライフストーリーを語ることで自分を再発見できる
今自分が40歳だとします。ある意味人生の曲がり角でしょう。サラリーマンなら管理職になっているかもしれない。また、結婚して家庭を持っていれば子供の教育や住宅問題がちらついているかもしれない。年金問題が頭をよぎり、長い人生を認識し、投資を考えているかもしれない。今の職場でいつまで勤められるか、定年までかじり付くのか、会社の業績は安泰か、定年を待たずに肩をたたかれないだろうか、部長以上になれるのは同期のほんの少しだなどと認識するでしょう。友人には転職したり、大学院に行って学び直したり、様々なフィールドに活動を広げる人も増えていることでしょう。
そこで一度立ち止まり、自分の人生を振り返ってみましょう。ライフストーリーを語ってみて下さい。あなたは子供のころ何になりたかったのか。若い時代の夢はどこに行きましたか? 人生を振り返り起承転結を意識して語ってみましょう。様々な通過儀礼を経て生きてきましたね。今までの仕事はあなたの本質に沿ったものでしたか、不得手なことに自分を無理やり押し込んでいませんか、何か違和感を覚えたことはありませんか。
多くの企業では50歳あたりでラインから外されたり、出向したり、様々かたちのフリクションが起こります。年金問題もあって、今や70歳までは働かなければならないような雰囲気です。ライフプラン研修のようなもので、背中を押されるかもしれません。しかし50歳を超えて何か新しいことにチャレンジするのは、正直つらいことだと思います。いわゆる「定年本」は様々な事例を紹介し励ましてくれますが、具体的に何をすればよいのか教えてはくれません。
そこできっかけ作りの方法として、ライフストーリーを語ることをお勧めします。できれば40歳前後で始めてほしいのです。その歳ならばいくらでも再チャレンジができるでしょう。働き方改革で時間が生まれるならば、時間とお金を自分に投資できるでしょう。人生の通過儀礼と起承転結を意識してライフストーリーを語ってみると、自分を再発見することができます。可能であれば、有能な聴き手に向かって語ることがベストです。時間をかけてじっくりと聴き出してもらうのです。なりたかった自分や自分らしい仕事に再会できるかもしれません。
物語は昔から多くの人の人生に影響を与えてきたと言われます。宗教のような強力な力を持っていたという説もあります。自分の物語をきちんと創造できたならば、これからの人生への道筋を浮かび上がらせることができるでしょう。
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