【著者】 石川 雄一 氏
【プロフィール】
慶應義塾大学経済学部卒業後、東京海上火災保険株式会社(現:東京海上日動火災保険㈱)に入社。主に国内営業畑を歩み、近畿業務推進部長、札幌中央支店長などを歴任。55歳で自動車メーカー保険代理店の常務取締役となり、経営と人材開発に尽力。退任後、大型自動車メーカー関連会社参与を経て退職。 2017年に立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科に入学し、2019年3月修士課程を修了。MBA(経営学修士・社会デザイン学)
2020年4月から、新たに立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科博士課程に在籍し、企業組織に関する研究の傍ら、セミナー講師など精力的に活動している
分業の果てに人間は・・・
最近の若者は・・と言うならば、昔と比べて進歩か退歩かしていることになるが、果たしてどうだろう。歴史書を読んでみると、どうもプラトンの時代から人間はあまり進歩していないように見える。にもかかわらず、現代人は優れていると考える人が多いようだ。確かに知識は増加し、技術は大きく発達した。しかし、それは人間の進歩だろうか。実は知能やキャパシティはさほど変わっていないから、増えた知識も技術も使いこなせていないのではないだろうか。
有名な石工の寓話がある。仕事を問われて、自分は「石を削っているのだ」と答えた石工は、単に労働力を売っている。しかし、「わたしは教会を造っているのだ」と答えた石工は、石を削るその作業の意味を知り、よってやりがいを見出している。仕事の規模が大きくなって分業するようになれば、個々の作業の意味が見えにくくなり、やりがいを見失いがちだ。仕事の意味を考えることをやめれば工夫もできなくなる。目の前のことにばかり気をとられるならば、進歩どころか自らを退歩の道に追いやることになりかねない。
人間に大切なものは何か
平成29年度京都市立芸術大学入学式での、鷲田清一学長(当時)の式辞に感動した。
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「『豊かな社会』の行く末には『成熟した社会』が待っているはずでしたが、じっさいには<貧困>や<格差>など、20世紀には想像もしえなかった語が飛び交う社会に、21世紀に入りわたしたちは直面することになりました」
「明確になったことは・・・わたしたちが市民としての力をひどく損なってきたという事実です」
「生き延びるためにだれもが身に着けなければならないことをシステムに委託することで、わたしたち自身は自分の手でそれをなす力をどんどん失っていったのです」
「人と人がつながることも、人と人が協力して何かをなすことにも、あるいは、ここにはないものを想像するにも、別の社会のあり方を構想するにも、そのために何かを調べることにも、そしてさらには危うい所から逃げ出すことにも、技はあります」
「余白をもつことが人に勇気を与えます。そしてそういう余白、そういう糊代が、瓦がその端を重ねつつ連なっているように、人びとの間で重なりあうあいだは、世界は閉じることなくどこまでも開いたままでありつづけます」
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スマートフォンを見続けている人がいる。多くの情報がそこから得られるで、新聞も本も不要となった。会話ですらLineなどスマホ経由が優先される。口や手足を使わない人間は、ひたすら退歩の道を歩んでいるように見える。コンピュータが人間に代わる時代はヒトの生きるべき世界だろうか。アナログにプロセスが見えないことが増えたため、結果だけを鵜呑みするようになった。
しかし昨今、工場で細分化された作業工程を見直し、一定の仕事を一人で完結するように変更する動きが盛んである。仕事の意味を理解することで意欲が生まれ、作業効率も上がることに気づいたのだ。
人間らしく生きるために
フランスのある地方自治体の市長、助役、議員は無給で、住民によるNPOが行政の仕事を請け負うという。60歳台の年金世代がNPOの中心になっている。これは住民の一人ひとりが価値ある生き方ができる仕組みだろう。
小さな単位になれば、賢い共同体を作ることができるのではないか、という仮説が成り立つ。現実に中小企業にはすばらしい活動をし、社員は生き生きとし、成長を続けている会社が多数ある。ブータンのような国も存在している。
一方で大きな組織は、その秩序を保つことができなくなった。大企業の相次ぐ不祥事は、社員一人ひとりの当事者意識の希薄化が根底に存在する。大卒の優秀な社員がなぜ問題を見過ごすようになるのか、人間はもともとアナログのキャパシティしか有していないことに気づかなければならない。アナログなことは自分の身体感覚で身につけることができる。
もう一度、鷲田先生の言葉をかみしめたい。
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