前回はエイズ感染の原因とエイズ発症までの流れについてご説明しました。
感染原因は性的感染・血液感染・母子感染は3つに分けられること・HIV感染後、感染初期、無症候期を経てエイズ発症に至ることをお伝えしました。
最終回は、HIV感染後の治療法をご説明します。
『ホスピスとエイズの基礎知識』シリーズの目次
第3回:エイズの治療法
現在のエイズ治療
現在、HIV(エイズ)を体内から完全に排除できる治療法はありませんが、抗HIV薬によってウイルスの増殖を抑え、エイズの発症を防ぐことで、長期間にわたり健常時と変わらない日常生活を送ることができます。
仮にHIV検査によって陽性反応が出た場合、今のところ抗HIV薬治療の開始が推奨されています。
昔は、抗HIV薬の副作用が強く、内服自体が困難なこともあったため、血中のCD4陽性リンパ球量が200/μl程度まで下がってからの治療開始がされていた時期もありました。(CD4陽性リンパ球は健康状態では700~1500個/μlと言われています)
最近では、より副作用の少ない治療薬が開発されており、さらに、早期治療による様々な利点(感染拡大の抑制や重篤な合併症の減少)も明らかになってきた為、最新のガイドラインでは、すべてのHIV感染患者さんに対して抗HIV薬の開始が推奨されるようになっています。
5種類の抗HIV薬とHARRT(抗エイズ薬の使用方法)
抗HIV薬はHIVを体内から完全に排除できる薬ではありません。
HIVの増殖を抑制することを目的とした薬です。
抗HIV薬は大きく5つに分けられます。
- 侵入阻害薬
- 核酸系逆転写酵素阻害剤
- 非核酸系逆転写酵素阻害剤
- インテグラーゼ阻害剤
- プロアテーゼ阻害剤
以前は1~2剤の内服治療が主流でしたが、すぐにウイルスが耐性を獲得してしまい薬が効かなくなってしまうことが問題でした。
そこで抗HIV薬を3~4剤同時に内服することで、耐性の組成を防ぐ「強力な抗ウイルス療法(Highly Active Anti-Retroviral Therapy:HAART)」が主流となっています。
1996年にHAARTが開発されてからは、HIV感染患者さんの予後は飛躍的に改善してきています。
HARRTついて図を用いて説明します
HARRTの概略
1.HIVウイルスがCD4陽性リンパ球に侵入するのを侵入阻害薬によって防ぎます
2.HIVの遺伝子がCD4陽性リンパ球に侵入し、RNAと逆転写酵素を組成します。細胞内に侵入したHIV遺伝子はDNAをもっていないため、逆転写酵素の働きによってRNAからDNAを組成しようとします。このうごきを非核酸系逆転写酵素阻害薬と核酸系逆転写酵素阻害薬によって防ぎます。
3.逆転写酵素によって作られたHIVのDNAはCD4陽性リンパ球の核に侵入し、CD4陽性リンパ球のDNAの中にHIVのDNAを組み込もうとします。このうごきをインテグラーゼ阻害薬によって防ぎます。
4.HIVのDNAが組み込まれたCD4陽性リンパ球のDNAが、新たなHIVウイルスを生成しようとします。このうごきをプロアテーゼ阻害薬によって防ぎます。
HIVがCD4陽性リンパ球に侵入し破壊するまでにおいて、段階毎にそれぞれの防止目的に合った抗HIV薬を使用していきます。
抗HIV治療を開始すると、薬を飲み続けていくことが必要になります。
薬を飲み忘れてしまうと、ウイルスが耐性を獲得してしまう確率が高くなります。
内服10回のうち1~2回飲み忘れてしまうだけで、患者さん2人に1人は治療に失敗してしまうのです。
患者さんが積極的に治療方針に参加し、自らの意思に従って治療を実行(内服)し、それを続けていく姿勢がなにより重要なのです。
ホスピスにおけるエイズ治療
今までご説明したとおり、薬や療法の進歩によって、エイズ=死ぬ病気ではなくなってきております。
しかしエイズは今のところ完治する病気ではなく、エイズ患者さんにとってのホスピスの必要性が無くなったわけではありません。
ホスピスにおけるエイズ患者さんに対する処置として、以下の様な事項がされています。
- レスパイト・ケア:患者さんおよびケアをしている人たちに休息を与えるための一時的入院
- リハビリテーション:日和見感染症等の急性期を経て回復期にある患者さんのリハビリのための入院
- ターミナル・ケア:終末期の患者さんのための入院
以上のように、ホスピスではエイズ患者さんに対する緩和ケアを中心に行われます。
癌におけるホスピスとの大きな違いは患者数以外に処置の内容として、生活をしていく上での補助といった意味合いが強いところにあると考えられます。
まとめ
今やエイズ=死ぬ病気では無くなりましたが、完治しない病気であることは変わりありません。
日本においてはエイズ・HIV患者数は年々増加傾向にあり、脅威は以前としてあります。
ご自身、そして周りの大切な人の為にも、何よりも予防、早めの検査、早めの治療を心がけていくことが大事です。
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