普段、嚥下(えんげ)障害について深く考えることはありますか?
慣れている人ほど、意外と基本的なことを見落としがちなもので、定期的な復習は非常に重要です。
そこで今回、嚥下障害の定義、嚥下障害の原因、嚥下障害がもたらしうる危険についておさらいをした上で、
改めて、嚥下障害の予防・抑制のために押さえておくべきポイントを6つご紹介します!
果たして、被介助者のQOL向上にとって、決して見過ごせないポイントとはなんでしょうか??
※本記事は、「日本気管食道科学会HP」を多分に参考・引用しています。
画像出典:centrolab.com.co
本記事の目次
嚥下障害とは?
まず、嚥下障害とは何か?という点について、その定義や症状を丁寧に見ていきます。
「嚥下障害」の定義
「嚥下障害」は、2つの単語で構成されていますので、それぞれを改めて確認しましょう。
まず、「嚥下(えんげ)」とは、有り体(ありてい)に言えば、「モノを飲み込むこと」です。
また、「障害」とは、「正常な進行や活動の妨げとなるもの」を意味します。
したがって、「嚥下障害」とは、最も簡単に表現するならば、「正常にモノを飲み込めない状況」ということが出来ます。
※なお、類似語として「摂食」がありますが、これは「食べること全般」を指しているのに対し、「嚥下」は飲み込む動作のみを指しているという違いがあります。
しかしながら、「正常にモノを飲み込めない状況」というのはあまりに平易な定義ですので、考察すべき点は多々あります。
たとえば、、、
- ・「モノを飲み込む」とはどういうこと?
- ・「正常」でなくなる原因はなに?
- ・「正常」でない場合のリスクにはどういったものがある?
- ・「状況」とは具体的にはなにを指している?
などです。
以下、これらを踏まえたうえで、「改善・予防・抑制する方法は?」という点についてご説明します。
嚥下にかかわるさまざまな機能(「モノを飲み込む」の細分化)
上記で見たように、嚥下は「モノを飲み込むこと」を指しますが、
細かく見ると、下記の3つの段階に分けることが出来ます。
※より詳細な段階分けをするならば、「先行期」と「準備期」を含めた5段階に分けられます(参考)
1.主に舌の運動により食べ物を口腔から咽頭に送る「口腔期」
2.嚥下反射により食べ物を咽頭から食道に送る「咽頭期」
3.食道の蠕動(ぜんどう)運動により胃まで運ぶ「食道期」
このように、嚥下には多くの器官が関わっているため、それらの器官に障害を与えるさまざまな疾患において、嚥下障害が起こります。
嚥下に関わる器官は下図の通りです。
嚥下障害にかかわる疾患(正常に飲み込めなくなる原因)
上述したように、嚥下にはさまざまな器官が関わりますので、必然的に多くの疾患とも関わりを持つことになります。
時にそれは心理的な要因であり、時には物理的要因です。
嚥下障害にかかわる疾患には下記のようなものがあります。(参考)
咽頭、喉頭、食道など局所の腫瘍・炎症性疾患 |
脳血管障害、脳腫瘍、頭部外傷、脳炎などに伴う中枢神経障害 |
パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などの変性疾患 |
ギランバレー症候群などの末梢神経障害 |
筋ジストロフィー、重症筋無力症などの神経筋疾患 |
肺炎などの呼吸器疾患 |
薬剤による副作用 |
認知症、うつ病、うつ状態 |
注意力障害などの高次脳機能障害 |
う歯、義歯の問題 |
頭頸部、食道の放射線治療の後遺症、手術後の障害 |
気管切開、挿管、手術後の後遺症 |
加齢に伴う変化 (唾液量の減少、味覚、粘膜の感覚障害。喉頭の解剖学的下降、可動性の低下など) |
図. 嚥下障害にかかわる疾患
嚥下障害の具体的な症状
典型的な症状としては、「食べ物がのみ込みにくくなったとの自覚(嚥下困難)」や、「食事の時のむせ(誤嚥)」が現れます。
また、声も嚥下機能の参考になり、たとえば水を飲んだあとの痰が絡んだような声は、喉頭まで食べ物が侵入していることを示唆します。
具体的には、下記が嚥下障害の主な症状となります。
① 食事中や食後にむせや咳がよくある |
② お茶などの水分や味噌汁でむせることが多い |
③ 食べると疲れて苦しい |
④ 口から食物がこぼれることがある |
⑤ 体重や尿量が減少した |
⑥ 食べたがらない |
⑦ 食事の好みが変わった |
⑧ のどや口の中に食物が残る感じがする |
⑨ 特に食後に声がゴロゴロする感じ(たんが絡んだような感じ)がある |
⑩ 食べ物がのどにつまって逆流してくる |
⑪ 脱水・低栄養状態がある |
⑫ 風邪ではないのに発熱が続く |
⑬ 夜、咳き込んで目が覚めることがある |
⑭ 過去に誤嚥・窒息があった |
図. 嚥下障害の具体的な症状(引用元)
※摂食障害も含まれています
嚥下障害予防の意義
ここまで、「嚥下」という行為には多くの器官がかかわること、そしてさまざまな疾患と関係があることを述べてきました。
では、嚥下障害を予防・抑制することに、どのような意義があるのでしょうか。
嚥下障害が発露したときのリスク
嚥下障害では、下記の3つが主な問題点とされています。
①栄養摂取不良による脱水や低栄養
②誤嚥による肺炎や窒息
③食べる楽しみの喪失
※誤嚥とは、「通常食道へと送られる食べ物が、気管に入ること」です
②についての補足として、「誤嚥性肺炎が原因で亡くなる70歳以上の方は70%を占める」といわれています。
つまり、「嚥下障害は死につながる症状である」ということを強く認識する必要があるということです。
嚥下障害の予防・対策とQOLについて
上記3つの問題点の中でも、特に「食べる楽しみの喪失」は、患者さんのQOLを著しく棄損するとして、近年注目され始めています。
QOLと食事については、厚生労働省の健康情報サイト「e-ヘルスネット」に掲載されている弘津公子氏の論考が非常に参考となりますので、以下引用致します。
本来人が健康的な日常生活を維持するためには、7つの健康習慣(朝食・睡眠・喫煙・間食・飲酒・運動・体重のコントロール)が必要だとされています。
現在ではこのことを健康習慣の指標として、個人のライフスタイルにおける食習慣・環境・体質面等の改善を行い、QOL(生活の質)の向上を目指す取り組みがなされています。それでは食事におけるQOLの向上とは、いったい何を意味しているのでしょうか?
そもそも「食べる」という行為そのものは、「食べ物を認知する」→「食べたいと思う」→「食べ物を口に運ぶ」→「咀嚼する」→「飲み込む」といった連続の動作から成り立っています。
しかしながら「食べる」ことは、単に経口的に「食物を摂取する」あるいは「栄養を摂る」という意味だけには留まりません。
「食べる」ことは精神的健康感にも大きく影響し、美味しい・楽しいといった充足感、あるいは食事を介しての家族や社会とのつながり等により、自分自身を大切にしたい、自分自身が大切にされている、という自尊感情を得ることもできます。
このことは幼児期・学童期等では健全な発育の基本となり、高齢期では活動的な日常生活を支える生きがい感ともなり、活動的な高齢期(アクティブエイジング)を過ごすことが可能となります。具体的に「QOLを高める食事」としては、「五感を刺激する食事」として、盛り付けの美しさや香り、調和の取れた味や食材料、ならびに季節を楽しむといった文化的な要素も必要となってきます。
偏った食事やインスタント食品ばかりでは「QOLを高める食事」には遠くなってしまいます。毎日の食事の中で「QOLを高める食事」をすることは現実的ではないかもしれません。
ですが時には、食事の持つ「精神的な効果」についてもお考えいただくことが必要ではないでしょうか。
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