認知症の治療には薬物療法と非薬物療法があります。
薬物療法を考えた場合、現在出現している症状に合わせて薬物を選択していきます。
中核症状に対する認知機能障害の治療と、BPSD(周辺症状:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)による行動・心理症状の治療に大別することができます。
なお、認知症の種類により薬物の選択は異なってきます。
今回はアルツハイマー型認知症に対する薬物療法について、中核症状とBPSDについてそれぞれみていきたいと思います。
画像出典:biotecnika.org
1.中核症状に対する薬物療法
(1)コリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)
中核症状には記憶障害や見当識障害、実行機能障害、失行・失認などがあります。
これらの症状にアプローチする薬物はコリンエステラーゼ阻害薬になります。
・コリンエステラーゼ阻害薬の働き
記憶障害は脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンが減少することで出現してきます。
コリンエステラーゼ阻害薬は、アセチルコリンを分解する酵素を阻害していくことで、アセチルコリンを増加させて、記憶障害の進行を遅延させることができます。
・3種類のコリンエステラーゼ阻害薬
- ・一般名:ドネベジル塩酸塩(商品名:アリセブト、アリセブトD、ドネベジル塩酸塩)
- ・一般名:ガランタミン臭化水素酸塩(商品名:レミニール)
- ・一般名:リバスチグミン(商品名:イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)
・それぞれの特徴
パッチ薬である貼付剤のメリットは薬剤の成分が皮膚表面からゆっくりと吸収されるため、血中濃度の変動が少ないことが挙げられます。
そのため、副作用の出現がほとんどなく、仮に副作用が出た際には貼付剤を剥がすことで、それ以上の薬剤の吸収を抑えることができます。
しかし、患者様の中にはパッチ剤を剥がして異食行為をしてしまう方がいるため、パッチ剤を導入する際には、慎重に対応していかなければなりません。
例えば手が届きにくい背部に貼付するなどの工夫が必要になります。
画像出典:i.telegraph.co.uk
(2)NMDA受容体拮抗薬
上記のコリンエステラーゼ阻害薬とは異なる作用を持つNMDA受容体拮抗薬は、失われた機能を損なわず、正常な伝達までは遮断しないように作用していく働きがあります。
すなわち、その障害を抑制していくという効果があります。
・NMDA受容体拮抗薬の働き
一般名:メマンチン(商品名:メマリー)は、グルタミン酸受容体を阻害して、過度に放出したグルタミン酸の流入を抑制していくことで、記憶障害を緩和させる効果があります。
上記のように中核症状に対する薬物療法は、コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬があります。
いずれも疾患によって発症した神経伝達物質の異常を是正するだけであり、根本的治療ではありません。
神経細胞が脱落すること自体を食い止めることは残念ながらできません。
しかし、症状の進行を緩和させることが確認され、広く使用されています。
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