在宅ホスピスナースは医師の目、耳、鼻、そして手になる
アメリカのホスピスは在宅が基本ですが、訪問診療をする医師は非常に少なく、実際に患者さんをアセスメントするのはナース達です。
ホスピスメディカルディレクターは、2度目の認定期間終了(180日)以降からは、60日毎の再認定時に往診しますが、普段は訪問しません。
ですから、医師はナースの報告に基づいて、薬や治療のオーダーをするのです。
逆に言えば、医師たちはそれだけ訪問看護師のアセスメントを信用している、という事になります。
特にホスピスの場合、受け持ち医師が終末期のケアにあまり馴染みがないと、ホスピスナースによるアセスメントや意見はかなり尊重され、時には「そう言う時は何をどれくらい使うの?」と訊かれる事もあるのです。
ホスピスナースとしての医師への報告 ~ダメな報告の例~
患者さんを訪問し、症状がうまく緩和されていなければ、受け持ち医師に電話をして指示を仰ぎます。
私が新人ホスピスナースだった頃は、「xxさんですが、嘔気が酷く、プロクロルペラジンはあまり効果が無いので、何か別の薬を処方して欲しいのですが」
「○○さんですが、痛みが酷くなってきて、パーコセット(オキシコドンとアセトアミノフェンの合剤)だけではコントロールできないので、長時間作用薬を処方してもらえませんか?」と、こんな電話をしては、受話器の向こうの医師に怒られたり呆れられたものでした。
当然のことながら、こんな報告では医師は何の情報も得られません。
情報もなしに薬を処方する事など出来るはずもありません。
ホスピスナースとしての医師への報告 ~あるべき報告の例~
例えば、嘔気や嘔吐にしても、疾患によって消化系によるものか、内分泌によるものか、神経によるものか、或いは飲食物の種類や量、タイミングに関係があるのか、便秘はしていないか、薬の副作用ではないか、などなど、その原因は様々です。
そして、それによって処方する薬や対処法も全く違ってくるわけで、そこまでのアセスメントを手短に端的にまとめて報告するのが、現場にいるナースの役目なのです。
さらに、できれば自分の中でどのタイプの薬が適当であるかまで考えられると、医師の指示をもらった時に、納得したり疑問を持つ事ができ、それが更に次のアセスメントに繋がっていくのです。
疼痛管理にしても、まずはどの薬をどれだけ使っているのか、痛みのタイプや強さ、パターンはどうか、それによって必要な用量を予め計算し、鎮痛補助薬の併用なども考えてから電話すると、お互いに忙しい貴重な時間を無駄にせずにすみます。
たとえば、ホスピスナースが次のように報告すれば、受ける医師としても“おっ、このナースは分かっているな”と言う印象を持ち、お互いに信頼関係を築いていく事にも繋がりやすいのではないでしょうか。
- ・「膵臓癌の○○さんですが、背中の痛みに対してパーコセットを2錠ずつ、平均して一日に4回は内服しているんですが、それでも痛みのレベルは10段階のうち4以下にはならないそうです。」
- ・「アセトアミノフェンの量も肝機能を考えるとこれ以上とらないほうがいいと思いますし、オキシコドンを一日平均40mgは摂っているので、オキシコンチン(オキシコドンの長時間作用薬)20mgを12時間毎、レスキューにオキシコドン5mgを4時間毎頓服できないでしょうか?」
- ※ただ、日本では逆に“ナースの分際でそこまで言うな”と気分を害されてしまう事もあるのかもしれません・・・
とにかく、直接患者さんを診れない医師に相談したり指示を仰いだりする為には、充分な情報と考察を的確に伝えることが最も大切です。
それにより、より素早く適切な症状緩和を行う事ができ、少しでも早く患者さんを楽にすることにつながるのです。
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