訪問看護ステーション運営者にとって、人材の不足、特に若い世代の不足は喫緊の課題ではないでしょうか?
それは、日本全体の状況からも読み取ることが出来ます。
現状、訪問看護師数は約5万人(看護師全体の4%未満)であり、平均年齢は約48歳。
今後、社会的にも各事業所としても、特に若い訪問看護師の獲得は必要不可欠でしょう。
そうした現状に鑑み、今回は在宅医療支援機構の一和多義隆(いちわた よしたか)代表にお話を伺いました。
一和多さんは元訪問看護ステーションの採用担当者であり、現在は現役の訪問看護師(管理者含む)とともに訪問看護に特化した人材紹介サービスを立ち上げています。
具体的なノウハウや事例をたっぷりとお聞きしましたので、訪問看護ステーション運営に従事されている方、ご興味がある方は是非ご覧ください!
本記事の目次
一和多義隆さんならびに在宅医療支援機構について
——一和多さんのこれまでのご経歴について伺えますでしょうか
都内の訪問看護ステーションで、採用・人事・広報といったバックオフィス業務全般の担当をしておりました。
人材採用に関する一連の業務から、社内体制の整備、ホームページの管理・更新など、看護と医療事務業務を除いた、かなり幅広い業務の経験をさせて頂きました。
私の場合はその前の経歴についても少し触れる必要がありまして、訪問看護ステーションで働く前はIT業界の出身でして、人材紹介・WEB制作・ネット広告といった領域での仕事をしておりました。
ですので、人材紹介業のビジネスモデルや、WEBを利用した人材獲得について、ある程度の知識や知見を持ったうえで、異業種からの視点を持ちつつ訪問看護の業界について学んでいったという経歴になります。
――人材分野の素養を身につけた上で、訪問看護分野へと応用を効かせていったのですね。在宅医療支援機構の特徴や設立経緯についてはいかがでしょうか?
弊社の特徴は大きく3点あります。
①在宅医療とりわけ訪問看護に特化した人材紹介をしている
②私を含む訪問看護事業所の運営経験者や、現役の訪問看護師がメンバーにいる
③人材紹介におけるKPI*を「成約率」や「成約数」ではなく紹介した方の「定着率」に置いている
設立経緯については、詳しくお話をすると長くなってしまうのですが、すごく単純化すると、
- ・自分たちが訪問看護事業所を運営していて人材獲得に困っていた
- ・訪問看護事業所にとって使いやすい人材紹介サービスが不足していると感じた
- ・自分たちが「こういった紹介会社があれば良いのに」と思っていた会社を作った
といった経緯です。
こうした設立経緯がありますので、人材紹介サービスを提供するうえで、訪問看護ステーションを運営する側にとって良いものは何でも取り入れていきたいですし、現場経験者の私たちだからこそ理解できることは多いと思っています。
例えば、現在弊社で提供している、採用エントリー前に「事業所見学・同行訪問見学」をワンクッションおくといった仕組みは、前職の採用フローに組み込んでいたものをそのまま紹介サービスに取り入れたものです。
また、元が採用側だったからこそ、「定着率」を重視した人材紹介については特にこだわりたいと思っています。ご紹介した人材と事業所がマッチしないことは、転職をされた方にとっても、採用した事業所にとっても、紹介した弊社にとっても不幸なことだと思います。
* 事業運営において最も重要とする定量的な指標のこと
—―在宅医療支援機構は、事業所に対してどのようなサービスを提供していますか?
人材紹介がメインのサービスです。
その際に重要な、「どのように人材を紹介するか?」という点については、大きく5つのポイントがあります。
1つ目は、事前に訪問看護事業所と弊社とで面談をして、その事業所の特徴を弊社の方でしっかり整理をすることです。
例えば、ある訪問看護事業所で認定資格取得の支援制度を持っているとします。
それは、ある程度の規模感の病院では福利厚生の一つとして行っているところが多いのですが、訪問看護の事業所で行っているところはごく少ないです。
そうした、「他の事業所には無いポイント」や、実際に事業所に伺った際に感じた「事業所の雰囲気」、「所長さんのお人柄・想い」をしっかりと把握していないと、求職者に自信をもって事業所のご案内はできないと考えています。
2つ目は、ご紹介をさせていただく際に、転職者に事業所見学と同行訪問見学をしていただくことです。
その見学で本当に「合う」のかどうかを見ていただくことは非常に重要です。
これは、入職後のミスマッチを未然に防止するとともに定着率の上昇につながります。
3つ目は、転職者が本格的にエントリーしたいとなった際の採用面談に弊社の営業担当者が同席をさせていただくことです。
円滑に進んでいる分には、基本的にはほとんど口を挟まないのですが、もし転職者・事業所双方のアピールポイントについて補足の余地があれば、お話させていただくこともあります。
4つ目は、面談後すぐにフィードバックをすることです。
これは私が元々ITで人材を行っていた経験からくるものでして、ITですと面談後すぐに転職者の方にお帰り頂いて、すぐその場で振り返りをやってしまいます。というのも、特にエンジニアは引き合いが強いので、すぐ決めてしまわないと、他に決まってしまうということがあります。
これは看護師さんの採用にも通じるところがあると思いますし、機会を逸するのを防ぐためにも取り入れています。
5つ目は、入職後、目安として1年程は定期的なアフターフォローを行うことです。
おおよそ1ヶ月、3ヶ月、半年と時期を区切り、「転職後不満はないですか?」「働きやすいですか?」などといったところを第三者目線で看護師さんにヒアリングし、それを事業所にフィードバックとしてお伝えします。
大体、半年定着した方ですと1年は定着しますし、1年定着された方であれば、問題なくカルチャーマッチしたと言えるだろうと思っています。
ですので、1年という期間は見ていきたいと思っております。
—―面談の同席や入職後のフォローアップなどの取り組みは、求職者と事業所両面にとって本当にありがたいサービスだと思います。
事業所にとっても人材紹介を使った採用は決して安い金額ではないので、当然しっかり見定めて採用をしたいという気持ちは強いかと思います。
その意に応えるためにも、こちらも金額相応のサービスを提供することはビジネスとして当然のことだと思っています。
一方、求職者に対しても、訪問看護について余り知らない方や不安を抱いている方が大半ですので、訪問看護に関わる人間が仲介をすることで、安心感を提供することができると思います。
ですので、事業所にも求職者にとっても、どちらにも価値あるサービスを提供出来ていると自分では思っています。
訪問看護ステーション採用ノウハウ1 ~社員紹介の仕組み作り~
――採用担当者として、「事業所はここを改善するべきだ」といった部分はありますか?
採用を安定化する方法は、「社員紹介」と「直採用」の大きく2通りしかないと思っています。
—―なるほど。それぞれ具体的にお教え頂けますでしょうか?
まず1つ目の「社員紹介」についてですが、実は看護師は紹介による転職が一番多いんです。
ですので、社内の既存のメンバーたちが、前職の時の同僚、学生の時の旧友といった人を紹介する「仕組み」を事業所として持つというのはす非常に重要かと思います。
前職の時にも、3ヶ月間限定での一時的な取り組みとして紹介キャンペーンを行ったことがあります。
看護師メンバーに3~4人一組でチームを作ってもらい、チームごとに、「何人見学に誘ったか」「何人採用を決定したか」「どのような方法で声掛けをしたのか」といった点について、毎月発表をする取り組みをしました。
それで見学者数が急激に増加したということがあったんです。
――それはすごいですね!
たった3か月間で、この取り組みによる内定者の獲得までできたので、効果は高かったと思います。
—―紹介を促すためには、「自分たちはこういう風にやっているんだよ」といった部分をしっかり浸透させておくのはやはり大事ですか?
大事ですね。訪問看護事業所でいうと、カラーがある事業所は採用がうまくいきやすいように思います。
「カラー」はどういった面でも切り出すことが出来て、たとえば、メンバーの若さが際立つ事業所、男性だけで運営している事業所、職員のワークライフバランスを重視している事業所など切り口は何でも良いと思います。
「うちの事業所はどういったカラーにしよう」と管理者が明確に認識をされている方が、紹介する側も求職者へのご案内がしやすいですし、求職者も事業所のイメージをつかみやすいかと思います。
訪問看護ステーション採用ノウハウ2 ~Webサイトの充実~
——では、直採用についてお伺いしたいと思います。直採用を増やすためにはどのような施策が有効なのでしょうか?
最低限、ホームページを整理するというところは絶対に必要だと思います。
直採用で上手くいっているところの大半は、ホームページがしっかりしています。もちろん例外もありますが。
「うちは人材紹介会社を使いたくない、お金は掛けたくない、けど人は採用したい」
これを達成するためには、「自分が求職者だったらこういったことを知りたい」といった情報を発信していくのは必要不可欠かと思います。
いま求職者の方とお話をしていて感じるのは、人材紹介会社に相談をされている方ですら、事業所についてご自身でもよくよく調べられている方がほとんどだということ。
その際に参考にしているのは事業所のホームページであったり、転職サイトに掲載している情報だったりします。
ですので、ホームページをみれば、募集要項・アピールポイント・中で働いている人間の顔がみえるといった状態にしておくことは必須かと思います。
付け加えると、いまはパソコンを持っていないという方も多いので、スマートフォンでも見やすいホームページにすると尚良いですね。
訪問看護採用ノウハウ まとめ
—―Webサイトをしっかり作るということ、メンバーからの紹介をする仕組み、アピールポイントをしっかり規定しておくこと。大きくこの3つができていないところが多いんですね。
そうですね。
Webサイトに関してだと、看護師さんでWEB、ITが得意な方は少ないと思います。
また、会社・事業所運営といった意味での組織作りに関しても、そのような経験を多く積んでこられた看護師さんは滅多にいないのではないでしょうか。
ですので、どちらも看護師さんが「苦手」とする業務なのだと思います。
ただ、採用においては、この両者は絶対に必要になってくるため、そこを外部からサポートするといった意味でも、うちのような会社をうまく使ってもらえると嬉しいですね。
—―事業所で採用担当として働かれていた経験があるので、すごく具体的なお話をたくさん伺うことができました。有難う御座いました。
やはり現場でみてきた経験は今の仕事をするうえですごく活きていると感じます。
こちらこそ、有難う御座いました。
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