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【看取りのまとめ3】 看取りが抱える問題 ー看取り難民とは?ー
「看取り」について調べてみると出てくるキーワードの一つが、「看取り難民」という言葉です。
ただし、一般的に「看取り難民」とは、イメージ喚起のために使われている俗語に過ぎません。
とはいえ、「看取り」に対するイメージとしてどのようなことが(一般的に)言われているのかについて知ることは重要であるため、ここでは一般的に言われている「看取り難民」の論点について確認しておきます。
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1、「難民」化の理由
「看取り難民」という言葉を用いている記述の多くは、「難民」という言葉を「行き場がなくなっている」という意味で使っていますが**、なぜ「看取りを求める人たちの行き場がなくなって」しまっているのでしょうか。
その原因の一つは、歴史的背景にあります。
中でも、「病院での看取り」の件数が1955年ごろから漸増し、1975 年ごろに「自宅での死亡」の件数を上回るという「逆転現象」が起こったことは、非常に重要なポイントです。***
「逆転現象」の理由としては、1960年代~1970年代の高度経済成長を背景に、病院数・病床数が急速に増加し始め、それに伴い、往診医療を中心とした在宅での医療が消滅していったことが挙げられます。
そして、医療費の抑制の呼び声のもと、病院から在宅での看取りへと切り替えを進めようとしても、訪問看護師やケアマネージャーなどの人材はもちろん、設備や体制も整っていないという現状があります。
* こちら、『在宅医療・ホスピスのイロハ』の第三回を参照のこと
** 本来の「難民」の定義は「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた」人々のことです(引用元はこちら)
*** ロハス・メディカルを参照のこと
2,「看取り」に関連する具体的課題
ここでは看取りに関する具体的課題を行政、社会、個人、家族の4つの観点から列挙していきます♪
「看取り」に関わる行政的課題
- ・告知の有無、告知の方法
- ・医療者、看護師、介護の関係性
- ・「人工的水分栄養補給」の捉え方
「看取り」に関わる社会的課題
- ・「死」の概念の捉え方
- ・治療 の無益性
「看取り」に関わる本人に関する課題
- ・インフォームド・コンセント
- ・死を受け入れる心の準備
- ・感情的な不安定性
- ・家族に迷惑をかけたくないという配慮
- ・「事前指示」が普及していない
「看取り」に関わる家族に関する課題
- ・インフォームド・コンセント
- ・家族の心理的な揺れ動き
- ・家庭における療養環境の不備
- ・家族の介護力不足
- ・本人と家族の意見の不一致
- ・「代理判断」の問題
3,日本在宅医療学会が示す「看取り難民」の解決策
たとえば「日本在宅医療学会」では、「行き場がなくなってしまう」ことに対し、国策としての「地域包括ケアシステム」を引き合いに出し、下記のような対策が提示しています。
2014年度から少子・超高齢・多死社会でも安心して暮らせるような地域づくり、地域包括ケアシステムが国家プロジェクトとして始まった。
このシステム構築の中核となるのは在宅医療における医療・介護の連携と医療体制においては急性期病院と地域医療・介護との密接な連携体制である。
特に、治癒が望めない医療依存度が高い疾患や病状を持っている人やその家族が安心して地域で暮らすためのシステム構築が肝要である。すなわち、在宅における治療法の標準化、医療依存度の高い利用者に対するケア、従事者の質の向上、医療および介護人材の育成、情報共有体制の構築、継続医療を念頭においた病診連携体制の構築と急性期病院の医療従事者および地域住民の意識変容が必要である。
しかし、これから構築されていく「地域包括ケアシステム」に対しては、疑問の声も少なくないというのが事実のようです。*
いまや国民医療費は年間40兆円に迫っている。その抑制策として構築が進む地域包括ケアシステムは「病院から地域へ」を合言葉に、いわば原理主義のように医療・介護業界に浸透しつつあるが、それぞれの地域で扇の要となる自治体には、疑問の声が上がっている。
「地域包括ケアシステムを機能させるには医療機関と介護施設だけでは供給力不足で、地域住民のマンパワーが必要になってきます。しかし、地縁や血縁が濃くて、助け合いの習慣が定着しているような地域でないと、マンパワーを確保できないでしょう」(自治体保健福祉部長) *
「自治体としては介護予防などにNPOやボランティアにも期待しなければならないところですが、正直にいってアテにはできません。活動の継続性が不安定だからです。やはり事業者でないと、サービス提供の質と量を安定的に確保できません」
なお、平成28年の診療報酬改定**では、たとえば「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」が新設されるなど、在宅領域に関する改定が多く見られました。
しかし、上述したように、現実的に「マンパワー」の不足が危惧されている以上、「自宅で看取る」こと、もしくは、「施設で看取る」ことのメリット・デメリットについて、出来る限り冷静に考えて判断する必要があると言わざるを得ません。
いや、むしろそうとしか言えない現状なのです。。。
看取りが抱える問題 まとめ
日本が抱える看取り難民について難民が増加する理由、課題、解決策に分けてご説明してきました。
看取り難民の問題をより詳しく知りたい方は下記に記事リンクが置いてあるのでそちらも参考にしてみてくだい♪
▶ 次ページへ:【看取りのまとめ4】 看護が見るべき看取りに関する書籍とは?
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