「がん性疼痛」の治療法(WHOがん疼痛治療指針)
WHO方式について
がん疼痛治療の基本は、現在でも1986年に発表されたモルヒネを中心とした「WHO方式」が基本とされています。
WHO方式は、がん性疼痛治療のスタンダードとなっており、それによってがん性疼痛の80〜90%は改善するといわれています。*
それにあたっては、下記にあげる5つの基本原則が重要となります。
* 参考:ganjyoho.jp
- 1.by the mouth:経口投与を基本とする
- 2.by the clock:時間を決めて定期的に投与する(疼痛時のみで使用しない)
- 3.by the ladder:徐痛ラダーに沿って痛みの強さに応じた薬物を使用する(麻薬は痛みがある患者では精神依存は起こらないため、中等度以上の痛みがある時には適応となる)
- 4.for the individual:患者に見合った個別的な量を投与する(至適投与量と鎮痛効果が最大となり、かつ副作用が最小となる投与量の目標に調整する)
- 5.with attention to detail:上記4原則を守ったうえで、患者への細かい配慮を行う(がんの痛みは、診断から亡くなるまでの間に強さも性質も変化するが、オピオイドの反応性を確かめながら、その変化に対応していくことが重要)
画像出典:jspm.ne.jp
治療の目標3つ
痛みの治療の最終目標は、患者さんが「痛み」から解放されて、できるだけ平常に近い日常生活をおくれるようにすることです。
しかし、治療をしても完全に「痛み」が消えるとは限りませんが、大幅に「痛み」はなくなります。
そこで、一般的に治療の目標は次の三段階にわけて行われています。
- 第1目標:夜間、ぐっすりねむれるようになる
- 第2目標:静かにしていれば、痛くないようになる
- 第3目標:歩いたり、からだを動かしたりしても痛くない
※「がん疼痛治療」に関する参考文献※
・日本緩和医療学会『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン』
・WHO, “Cancer pain relief ―With a guide to opioid availability―”(second edition,1996)
がん患者さんの精神的苦痛:抑うつ・適応障害
がん患者は、上述の通り「告知」に始まって、初期治療である手術や化学療法・放射線治療に対する不安・再発不安・積極的抗がん剤治療の中止への恐れなど常に「ストレス」にさらされています。
なお、頭頸部がんの患者はそれに加え,病状の進行や外科的処置などの治療による容貌の変化やスティグマ,味覚の変化,嚥下の障害,失声によるコミュニケーションの変化など更にストレッサーは増えます。
これらへの反応として、「適応障害」を罹患することが認められることもしばしば。
そこで以下、「抑うつ」と「適応障害」についての基礎知識をご紹介します。
抑うつ
実は、抑うつや不安といった精神症状は,患者も医療者もがんによる身体的な問題に付随した症状や有害事象としてとらえることが多く,見落とされがち。
「NCCN(National Comprehensive Cancer Network)」のガイドラインでは,不眠や食欲不振といった「辛さ」が予想される症状を定期的にチェックし,うつ病や適応障害といった精神的苦痛からくる疾病が疑われる場合は,精神科医や精神腫瘍医を紹介したり,相談したりすることが推奨されています。
では、「抑うつ」とは何でしょうか?
その点、「抑うつ状態」とよく混同されるのが、「うつ病」です。
これらの特徴を理解した上で、接するかどうかによって、配慮の仕方に雲泥の差がでるでしょう。
それらの違いを示したものが、下表になります。
うつ病(DSM-5)/大うつ 病性障害 |
抑うつ気分 | |
症状 | 強い | 弱い |
妄想 | 妄想的になることがある | 現実からずれない |
自殺 | 考えることがある | 比較的まれ |
日常生活 | 大きく影響され変化する | それほど大きな影響はなく 変化も少ない |
状況からの影響 | よいことがあっても 気が晴れない |
よいこと、楽しいことがあると 少し気が晴れる |
きっかけ | 多くはきっかけがある はっきりしていないことも |
はっきりとした誘因がある |
周囲から見て | 理解できないことが多い | 理解できることが多い |
持続性 | 長く続く | 徐々に軽くなる |
抗うつ薬 | よく効くことが多い | 効かないことが多い |
仕事・趣味 | まったく手につかない | やっていると気がまぎれる |
※引用元
なお、医学的に見たときの「”うつ病”の診断基準」は、下図の通りになります。
適応障害
上記では「抑うつ」について、「うつ病」との違いを基に解説しましたが、「うつ病」と間違われやすい症状は「抑うつ」のほかにもう一つあります。
それが、「適応障害」です。
端的に言えば、「適応障害が悪化するとうつ病へと進行する」という関係性・違いがあります。
適応障害もうつ病も、どちらも原因はストレスにあります。
そして、ストレスによって2つ自律神経(交感神経・副交感神経)のバランスが崩れると、脳を含む体に色々な症状が現れるようになります。
また、具体的な症状としては、
頭痛、めまい、吐き気、下痢、手足のしびれ、動悸、口の渇きなどの身体的な症状だけでなく、
脳にも異常が生じるので、イライラ、気分の落ち込み、不安、集中力の低下、無気力など、精神的な症状も現れます。
このように、原因や症状が非常に類似しているため、医師でも診断を誤ることがあるそうです。
※「適応障害」の参考はこちら
医学的に見たときの適応障害の診断基準は、下図の通りになります。
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