本記事の目次
緩和ケアに関する診療報酬改定3:「緩和ケア病棟における在宅療養支援の充実」とは?
「緩和ケア病棟」とは?
緩和ケアとは、「がん患者とその家族が、可能な限り質の高い治療・療養生活を送れるように、身体的症状の緩和や精神心理的な問題などへの援助が、終末期だけでなく、がんと診断された時からがん治療と同時に行われること」を指します。
したがって、「緩和ケア病棟」とは、上記の意味での「緩和ケア」を専門的に扱う病棟というのが、直接的な定義となります。
ただし、これでは味気がないので、少々補足を加えるならば、下記のような特徴があります。
-
・生命を尊重し、「死への過程」に敬意を払う
-
・死を早めることも、引き延ばすことも行わない
-
・痛みなどの苦痛を緩和する
-
・患者の心理的・社会的側面に対するサポートを行う
-
・死が訪れるまで、患者が人生を積極的に生きてゆけるようにサポートを行う
-
・家族が患者の病気や死別後の生活に適応できるようにサポートを行う。
※kokoMedより引用
では、このような緩和ケア病棟はいつから始まったのでしょうか。
また、近年の動向はどのようになっているのでしょか。
そのあたりを後述していきます。
緩和ケア病棟をめぐる社会的動向
日本におけるホスピスの始まりは、1970年代頃から、がんの終末期の患者さんを対象にした、緩和ケアを提供する専門の病床や病棟が登場してきたことにあります。
1990年になると、医療保険制度の診療報酬に「緩和ケア病棟入院料」が設けられ、ホスピスでの緩和ケアが健康保険で受けられるようになったのです。
緩和ケア病棟は、1990年にはわずか5施設で、病床数も117床に過ぎませんでした。
しかし、その後は着実に増え続け、2012年11月時点では、257施設、5101床に増えています。
(参考・引用元)
緩和ケア病棟の施設基準について
では、緩和ケア病棟にはどのような公的基準が設けられているのでしょうか。
こちらは、診療報酬の算定基準に照らして考えるのが妥当でしょう。
施設基準については、日本ホスピス緩和ケア協会が、
「緩和ケア病棟入院料の施設基準」と「緩和ケア診療加算に関する施設基準」の2種類について
詳述してくれていますので、ご参照ください。
「緩和ケア病棟における在宅療養支援の充実」の概要
進行がん患者で、在宅で緩和ケアを行っている患者が緩和ケア病棟を有する病院に緊急入院した場合に、
15 日を限度として「緊急入院初期加算」を新設する。
また、入院中の放射線治療や退院した月の在宅療養指導管理料を別に算定できることとする。
<「緩和ケア病棟における在宅療養支援の充実」の詳細はこちら>
緩和ケアに関する診療報酬改定4:「がん性疼痛緩和指導管理料の見直し」とは?
「がん性疼痛」とは?
まず、辞書的な説明をしておくと、「疼痛」とは、「ずきずきとうずくように痛むこと」です。
すなわち、「がんに起因する、ずきずきとうずくような痛み」のことを総称して、「がん性疼痛」といいます。
大阪医療センターのホームページでは、「がん性疼痛」について平易な説明がされていますので、そちらを引用しておきます。
がん患者さんには、「痛み」の他に、息苦しさ、咳、不眠、吐き気、嘔吐、食欲不振、便秘、下痢などの苦しい症状がみられます。
その原因はがんの進行から起こるものや、「抗がん剤」を使っているため、あるいは手術を行ったためなどいくつかあります。
この苦しい症状のなかで訴えの一番多いものが「痛み」です。
がんの全患者さんの約50%で、末期がんになると約70%の患者さんで体験されます。
がんの強い「痛み」がいつまでも続くと夜ねむれなくなり、食欲も落ちていきます。
患者さんによっては精神的にも不安定になったりします。
がんの「痛み」は辛抱する価値のない「痛み」ですので、「痛み止めのくすり」で「痛み」をおさえることが重要になります。
「がん性疼痛」の特徴
がん性疼痛の特徴は、以下の4つに分類されます。
1.がん自体が原因となる痛み
がんの痛みの約70%は、がん自体が周囲の組織に広がって起こる痛みです。
骨に転移した場合、骨膜への刺激や骨折などによって痛みが起こります。
また、胃や腸など内蔵にがんが広がると、消化管の動きが悪くなり、腹痛が起こります。
さらに、がんの広がりによって神経が圧迫されると、激しい、しびれたような痛みが起こります。
2.がんに関連した痛み
がんが間接的な原因となる痛みです。
がんで寝たきりの時間が長くなると、筋肉がやせたり、関節が硬くなり、動かすと痛みが生じます。
また、がんの痛みのために同じ姿勢で寝ていると床ずれ(褥創)が起こります。
さらに、がんによって起こる便秘も痛みの原因になります。
3.がん治療に関連した痛み
がんの治療によって痛みが出現することがあります。
手術によってできた瘢痕(はんこん:傷跡)や、神経の損傷によって痛みを感じることがあります。
抗がん剤治療で起こる口内炎も痛みの原因になり得ます。
また、放射線治療では、口内炎や腸炎、皮膚のやけどなどで痛みが起こることがあります。
4.がんに関係のない痛み
もともと持っている頭痛・関節痛など、がんとは関係ない痛みが、がんに併発して起こった痛みのことです。
また、がんになると自己免疫機能が低下するため、感染症にかかりやすくなります。
なお、帯状疱疹(たいじょうほうしん)は神経を侵すので、強い痛みが出現することがあります。
※上記「がん性疼痛の特徴」は、「がん情報サービス」から多くを引用しています。
「がん性疼痛」の治療法(WHOがん疼痛治療指針)
WHO方式について
がん疼痛治療の基本は、現在でも1986年に発表されたモルヒネを中心とした「WHO方式」が基本とされています。
WHO方式は、がん性疼痛治療のスタンダードとなっており、それによってがん性疼痛の80〜90%は改善するといわれています。*
それにあたっては、下記にあげる5つの基本原則が重要となります。
* 参考:ganjyoho.jp
- 1.by the mouth:経口投与を基本とする
- 2.by the clock:時間を決めて定期的に投与する(疼痛時のみで使用しない)
- 3.by the ladder:徐痛ラダーに沿って痛みの強さに応じた薬物を使用する(麻薬は痛みがある患者では精神依存は起こらないため、中等度以上の痛みがある時には適応となる)
- 4.for the individual:患者に見合った個別的な量を投与する(至適投与量と鎮痛効果が最大となり、かつ副作用が最小となる投与量の目標に調整する)
- 5.with attention to detail:上記4原則を守ったうえで、患者への細かい配慮を行う(がんの痛みは、診断から亡くなるまでの間に強さも性質も変化するが、オピオイドの反応性を確かめながら、その変化に対応していくことが重要)
画像出典:jspm.ne.jp
治療の目標3つ
痛みの治療の最終目標は、患者さんが「痛み」から解放されて、できるだけ平常に近い日常生活をおくれるようにすることです。
しかし、治療をしても完全に「痛み」が消えるとは限りませんが、大幅に「痛み」はなくなります。
そこで、一般的に治療の目標は次の三段階にわけて行われています。
- 第1目標:夜間、ぐっすりねむれるようになる
- 第2目標:静かにしていれば、痛くないようになる
- 第3目標:歩いたり、からだを動かしたりしても痛くない
※「がん疼痛治療」に関する参考文献※
・日本緩和医療学会『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン』
・WHO, “Cancer pain relief ―With a guide to opioid availability―”(second edition,1996)
「がん性疼痛緩和指導管理料」とは?
では、「がん性疼痛緩和指導管理料」とはどのような診療報酬なのでしょうか。
もともと「がん性疼痛緩和指導管理料」は、平成19年(2007年)4月の診療報酬改定で新設され、「100点」の加算がなされました。
そのポイントは、下記の通りです。
①がん性疼痛緩和指導管理料は、がん性疼痛の症状緩和を目的に麻薬を投与されている患者に対する治療管理、療養上の指導を評価するもの
②WHO方式のガン性疼痛の治療法に従って継続的な治療を行い、薬剤の効果、副作用の説明等の指導を行った場合に、麻薬の処方日に月1回算定する
※引用元:在宅医療研究所
以上が、基本的な用語説明となります。
それでは以下、「がん性疼痛緩和指導管理料の見直し」について見ていきましょう。
(ただし、本改定自体はそれほど複雑ではありません!)
「がん性疼痛緩和指導管理料の見直し」の概要
現行のがん性疼痛緩和指導管理料2について、1 年間の経過措置を設 けた上で、廃止する。
緩和ケアに関する診療報酬改定5:「外来化学療法加算の評価の見直し」とは?
「外来化学療法加算」とは?
まずは、「外来化学療法加算」に関連する用語説明として、その種別についてご説明します。
「外来化学療法加算」には、「施設基準」に関する区分と、「算定要件」に関する区分があります。
外来化学療法加算1 [施設基準]
- (1) 外来化学療法を実施するための専用のベッド(点滴注射による化学療法を実施するに適したリクライニングシート等を含む。)を有する治療室を保有していること。
なお、外来化学療法を実施している間は、当該治療室を外来化学療法その他の点滴注射(輸血を含む。)以外の目的で使用することは認められないものであること。 - (2) 化学療法の経験を5年以上有する専任の常勤医師が勤務していること。
- (3) 化学療法の経験を5年以上有する専任の常勤看護師が化学療法を実施している時間帯において常時当該治療室に勤務していること。
- (4) 化学療法に係る調剤の経験を5年以上有する専任の常勤薬剤師が勤務していること。
- (5) 急変時等の緊急時に当該患者が入院できる体制が確保されていること又は他の保険医療機関との連携により緊急時に当該患者が入院できる体制が整備されていること。
- (6) 実施される化学療法のレジメン(治療内容)の妥当性を評価し、承認する委員会を開催していること。
当該委員会は、化学療法に携わる各診療科の医師の代表者(代表者数は、複数診療科の場合は、
それぞれの診療科で1名以上(1診療科の場合は、2名以上)の代表者であること。)、
業務に携わる看護師及び薬剤師から構成されるもので、少なくとも年1回開催されるものとする。
引用元:2014.mfeesw.net
外来化学療法加算2 [施設基準]
- (1) 外来化学療法を実施するための専用のベッド(点滴注射による化学療法を実施するに適したリクライニングシート等を含む。)を有する治療室を保有していること。
なお、外来化学療法を実施している間は、当該治療室を外来化学療法その他の点滴注射(輸血を含む。)以外の目的で使用することは認められないものであること。 - (2) 化学療法の経験を有する専任の常勤看護師が化学療法を実施している時間帯において常時当該治療室に勤務していること。
- (3) 当該化学療法につき専任の常勤薬剤師が勤務していること。
- (4) 急変時等の緊急時に当該患者が入院できる体制が確保されていること又は他の保険医療機関との連携により緊急時に当該患者が入院できる体制が整備されていること。
- (5) 外来化学療法加算の届出に当たっては、関節リウマチ患者及びクローン病患者に対するインフリキシマブ製剤の投与についても、
悪性腫瘍の患者に対する抗悪性腫瘍剤の投与と同等の体制を確保することが原則であるが、
常勤薬剤師の確保が直ちに困難な場合であって、既に関節リウマチ患者及びクローン病患者の診療を行っている診療所であって、
改正前の外来化学療法加算の算定を行っている診療所については、外来化学療法加算2の届出を行うことができる。
引用元:2014.mfeesw.net
外来化学療法加算A [算定要件]
- ① 入院中の患者以外の悪性腫瘍の患者に対して、悪性腫瘍の治療を目的として抗悪性腫瘍剤が投与された場合に算定する。
- ② G000皮内、皮下及び筋肉注射により投与した場合は算定できない。
- ③ 加算の対象となる抗悪性腫瘍剤は、薬効分類上の腫瘍用薬とする。
- ④ この場合において、区分番号C101に掲げる在宅自己注射指導管理料は算定しない。
引用元:一般社団法人 日本病院薬剤師会
外来化学療法加算B [算定要件]
- ① 入院中の患者以外の患者であって以下の場合に限り算定する。
ア 関節リウマチの患者、クローン病の患者、ベーチェット病の患者、強直性脊椎炎の患者、
潰瘍性大腸炎の患者、尋常性乾癬の患者、関節症性乾癬の患者、膿疱性乾癬の患者及び
乾癬性紅皮症の患者に対してインフリキシマブ製剤を投与した場合
イ 関節リウマチの患者、多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎の患者、
全身型若年性特発性関節炎の患者及びキャッスルマン病の患者に対して
トシリズマブ製剤を投与した場合
ウ 関節リウマチの患者に対してアバタセプト製剤を投与した場合 - ② G000皮内、皮下及び筋肉注射により投与した場合は算定できない。
- ③ この場合において、区分番号C101に掲げる在宅自己注射指導管理料は算定しない。
(外来化学療法加算は、本来、入院して行う必要のない化学療法を、
外来で実施する体制を整備した施設の評価を目的として設定されたが、
投与方法の拡大等に伴い、加算の趣旨が不明瞭になりつつある。
また、加算の対象となる薬剤に関する規定が不明確であるとの指摘がある。
さらに、一部の薬剤については、在宅自己注射指導管理料の対象薬剤になっており、
二重評価になっていることから、外来化学療法の評価のあり方について見直しを行う。)
引用元:一般社団法人 日本病院薬剤師会
「外来化学療法加算の評価の見直し」の概要
注射の部に規定されている、通則6外来化学療法加算(8項目)について、点数の引き上げを行う。
緩和ケアに係る診療報酬改定2016 まとめ
以上が、「緩和ケア」に関する診療報酬改定の項目のすべてです。
「緩和ケア」の周辺領域まで合わせれば他にも挙げることが出来ますが、
緩和ケアに直接関わるという意味では上記がすべてかと思います。
上記を参考に、緩和ケアならびにホスピスを含めた在宅領域の知識を深めて頂ければ幸いです。
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