前回はアルツハイマー型認知症の原因と診断方法についてご紹介しました。
ざっと前回の復習をすると、
- ・現在、原因はまだ完全には解明されていないが、遺伝と環境/生活習慣の因子である可能性があること
- ・現在、生前に確定診断する方法は無いが、(症状に対し)いくつかの手法により他の病気ではないと判断した上での診断を行っている事
が特徴的でした。
最終回はアルツハイマー型認知症の治療法と訪問看護についてご紹介します。
『アルツハイマー型認知症の基礎知識と訪問看護』の目次
出典:achosp.org
アルツハイマー型認知症の原因と治療法の指針
シリーズにて述べてきた通り、アルツハイマー型認知症は、複数の因子が絡み合い発症すると考えられている複雑な病気です。
発症原因は完全に解明されていません。
そうした病状から、現状アルツハイマー型認知症を完治させる方法はありません。
このため、治療においては
- 症状の進行を遅らせること(治療)
- 患者の精神機能の維持を助けること(看護・訪問看護)
- 行動/心理症状に対処すること(看護・訪問看護)
等に焦点が当てられています。
アルツハイマー型認知症の治療法
現在、日本で使用されている認知症治療薬は以下の4剤であり、
全てがアルツハイマー型認知症の進行遅延を目的としたものです。
(1)ドネペジル(商品名:アリセプト)
(2)リバスチグミン(商品名:イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)
(3)ガランタミン(商品名:レミニール)
(4)メマンチン(商品名:メマリー)
(1)ドネペジルはエーザイが1999年に販売を開始した治療薬で、国内で最初に認可された認知症治療薬です。
ドネペジルの目的は、神経細胞の神経伝達物質であるアセチルコリンを増やす事です。
(2)リバスチグミンと(3)ガランタミンはアセチルコリンを増やす事を目的に、(4)メマンチンはグルタミン酸濃度を下げる事を目的にしています。
※なお、(2)リバスチグミンと(3)ガランタミン、(4)メマンチンは、日本で2011年に認可された治療薬です。
これら4つの承認薬を直接比較した研究は発表されていません。
これらの医薬品の作用は類似しているため、ある薬を別の薬へ変更しても、大きく異なる結果は得られないと考えられています。
しかし、患者さんによっては、ある薬に対して別の薬より良好な反応を示す場合があります。
アルツハイマー型認知症と訪問看護
アルツハイマー型認知症は完治させることができない病気である為、患者のQOL(Quality Of Life )の最大化が目的となるケースが多いです。
よって看護師の担う役割はとても大きいです。
アルツハイマー型認知症に対する看護ケア
(アルツハイマー型)認知症の看護ケアには大きく分けて、
「健康管理」、「環境作り」、「関わり」、「精神的援助」、「家族支援」、「尊厳の保持」の6項目があり、
1つとして欠けることなく包括的に行わなければいけません。
①健康管理
- ・患者の病態を正しく理解する
- ・病状/バイタルサインの変化を観察する
- ・態度や表情など外見的変化を観察する
認知症の看護には、患者の病態を正しく理解することが必要不可欠です。
また、体調の変化を感じにくく、自主的に人に伝えることが困難です。
それゆえ、バイタルサインや外観的変化に加え、
①検査データ、②既往歴、③飲食の摂取状況、④排泄状況などをもとに、
体調・健康の変化を素早く察知し対処していく必要があります。
②環境つくり
- ・自宅のように安心して暮らせる環境を作る
- ・日常生活における環境の変化を少なくする
- ・病室やリネン類、衣類など清潔保持を徹底する
- ・ケガ/事故防止のため患者の身体機能に合わせた環境を整える
患者が安楽・安心な生活を送れるよう、落ち着いた療養環境を整えることも大事な看護ケアの1つです。
また、認知症の多くは高齢者であるため、
身体能力低下に伴うケガ防止、徘徊などによる事故防止のための環境づくりも徹底してください。
③関わり
- ・自尊心を傷つけない言葉遣いをする
- ・話しやすい雰囲気を作り、ゆっくりと傾聴する
- ・患者と接する時は受容的な態度で接する
- ・記憶障害や過ちに対して強い叱責をしない
- ・話しかける際には、はっきりとした口調で話す
- ・積極的に記憶のある過去の話をする
- ・現在の能力を把握し、自立支援を行う
認知症の看護で最も難しいのがコミュニケーションです。
無言や暴言、繰り返し同じ話をするなど上手にコミュニケーションがとれず、看護師に多大な精神的負担がかかります。
しかしながら、コミュニケーションは患者の精神的安楽や感情の安定化に好影響があり、さらに会話の中で多くの情報を収集することができます。
認知症患者にとって、信頼できる、安心できる介護者は必要不可欠であり、病院においてはそれが看護師であるべきです。
精神的負担が大きい場合には、少しずつゆっくりとコミュニケーションを図っていきましょう。
④精神的援助
- ・感情の安楽のために気分転換をする
- ・興味/関心のある事にチャレンジする
- ・五感を刺激し、QOLの向上を図る
認知症患者は記憶障害などにより、頭の中で上手く情報を整理できないことで、
多くの場合はストレスの増大や不安・やる気喪失など精神状態が悪化します。
精神的援助を行うために、気分転換や興味・関心のある事に率先して介入し、
さらに、視覚・聴覚・味覚・臭覚・触覚を刺激し、生活水準の向上を図っていきましょう。
⑤家族支援
- ・認知症について正しく理解できるよう援助する
- ・ケア方法や問題行動への対処について指導する
- ・悩みを聞くことでストレスの軽減を図る
患者のことを最も熟知しているのはその家族ですが、認知症という病気に関してはいわば素人です。
それゆえ、どのように接するべきか、どのようにケアを行うのかなど、
患者の安楽な生活のために、専門である看護師が家族に対してしっかりと援助・指導する必要があります。
また、家族への心のケアも非常に大切です。
⑥尊厳の維持
認知症の人に対する身体拘束や虐待は後を絶ちません。
これらの多くは認知症に対する浅い理解と介護・看護によるストレスが要因となっており、
尊厳の侵害行動における自覚症状がないことが多いのが実情です。
ですが、理由はどうあれ、患者自身が好きで認知症になっているわけではありません。
さらに患者自身、頭が上手く働かないことにより、精神的な負担が大きくのしかかっています。
そのことを正しく理解し、患者のQOLの向上を図ってください。
介護において「人としての尊厳を守る」というのは、非常に重要であるということ絶対に忘れないでください。
アルツハイマー型認知症に対する訪問看護(師)の役割
「日常生活を送る上で介護が必要になった場合に、どこで介護を受けたいか」についてみると、
男女とも「自宅で介護して欲しい」という回答が最多得票となっています。
よって患者のQOLの最大化という事を考えると、上記事項を病院で行うというよりも患者の自宅で行う必要性が出てきます。
しかし自宅での介護を行う場合、同居者の負担がとても大きなものとなります。
下図は、介護者に対する同居者の介護時間を示したものです。
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