『ALSとホスピスの基礎知識』第3回:ALSの治療法

 

前回は主にALS発症の原因は未解明であり、いくつかの仮説を説明しました。

また、現在ALS治療にはグルタミン酸過剰説を基にしたリルゾール、酸化ストレス説を基にしたエダラボンという薬剤が認可されていることもご紹介しました。

今回はこれらをはじめとするALSの治療法についてご説明します。

 

ALS治療

 

『ALSの基礎知識』シリーズの目次

 

第1回:ALSとは

第2回:ALSの発症原因

第3回:ALSの治療法

 

ALS治療の現状

 

ALSの原因は不明であるとよく言われますが、この表現はやや言葉足らずです。

前回も一部ご紹介しましたが、ALSの原因を究明するための研究は目覚しい進歩を遂げています。

例えば、細胞死の過程で引き起こされる特異的な変化や発症に関係する遺伝子異常やなどの、現象的な知識はかなり蓄積してきています。

 

ただ、

  • 観察された異常な現象がALSの運動ニューロン死を引き起こす直接の原因を反映しているかどうか
  • 遺伝子の変異がどういうメカニズムで細胞死を引き起こすのか

といった、本質的な理解に繋がる疑問に答えられるだけの知見が不十分であります。

したがってALSを根絶する治療法が得られていない、というのが実状です。

 

日本においては、2015年8月時点でリルゾールエダラボンというALS進行抑制薬が認可されています。

 

ALS進行抑制薬1:リルゾール

 

ALS発症の原因として考えられている仮説の一つに、グルタミン酸過剰説がありました。(第2回参照)

グルタミン酸は神経伝達物質として大切なものですが、神経細胞体のシナプス間隙に過剰に存在すると、神経細胞体が常に興奮状態におかれ、疲れ切って最後には死滅するというものでした。

 

リルゾール

出典:als.gr.jp

 

このグルタミン酸過剰説に基づいて開発されたALS進行抑制薬がリルゾールです。

日本では唯一のALS進行抑制薬として1999年から使用を認められるようになりました

 

リルゾールの効果

 

リルゾールはグルタミン酸による神経毒性を抑え、神経細胞体を保護する作用を持つ薬剤です。

調査データによれば、ALS患者の生存期間や人工呼吸器装着までの期間を約3ヵ月間延長させるという結果が出ています。

この様にリルゾールは病気の進行を抑える作用はあります。

がしかし、症状を回復させる効果はありません

 

ALS進行抑制薬2:エダラボン

 

日本において、リルゾールに続き2番目のALS進行抑制薬として2015年に認可されたのが、エダラボンです。

エダラボンは点滴で投与する薬で、2週間毎日1時間ずつかけて点滴を行い、2週間休薬することを繰り返します。

従って投与を受ける患者・介護者・投与を実施する施設などに大きな負荷が生じてしまうのが難点です。

 

エダラボンの効果

 

ALSの発症の一つに酸化ストレス説がありました

酸化ストレスとは、体内で発生した活性酸素などによって細胞が傷つき、その結果さまざまな組織が傷害を受けやすくなる状態のことです。

酸化ストレスの蓄積が影響し、運動ニューロンが傷害されてしまいALSを発症・進行させるというものです。

エタラボンは、体内の酸化ストレスを減らす作用を持っています。

つまり酸化ストレスを軽減し、運動ニューロンの傷害を防ぐことでALSの進行を抑制する効果が期待できる薬剤です。

 

エダラボン

 

ALSとホスピス

 

日本においてリルゾールとエダラボンの2つの抑制薬のみが認可されている状況をご説明しました。

ALSの進行を遅らせることはできても、病状の完治はできない状況にあり、終末期のALS患者にとってホスピスの重要性が問われています。

 

特に延命を希望しないALS患者にとっては、ホスピスにおけるターミナルケアの重要性は高く、苦痛の軽減を最大限の目標とすべきであると勧められています。

しかし、日本のホスピス緩和ケア病棟は悪性腫瘍AIDSを対象疾患としているので、ALS患者の系統的なホスピスケアが不足しています。

 

ホスピスにおけるターミナルケア

 

文献において、ホスピスで終末期のALS患者7人に苦痛を感じる項目を聞いた所、

  • 筋力低下による日常生活動作の低下・疼痛・身の置き所のなさ 7人
  • 呼吸困難感・コミュニケーション障害 5人
  • 流涎・不眠・寂しさ 3人
  • 嚥下障害・歯の噛み込み・不安・家族の負担になっているという思い・不条理感 2人

という報告がされています。

 

また、上記のホスピスではALS患者に対して以下のケアを行いました。

  • 鎮痛・陶酔作用があるオピオイドを投与する
  • 体位変換・関節他動運動・マッサージ・マットの工夫を行う・
  • 就寝前に看護師が会話をする

 

結果、オピオイドの投与・体位変換・マッサージ等の物理的なケアは、疼痛・呼吸困難感・身の置き所の無さの緩和に有効でありました。

また、就寝前に看護師が会話をすることによって、不眠や寂しさといった精神的な苦痛が緩和されました。

 

ホスピスにおけるALS患者へのターミナルケアは、物理的なものだけでなく精神的なものも合わせて行うことが、とても重要であるといえます。

つまり患者のQOL(Quality Of Life)の最大化を図るケアが重要であります。

 

まとめ

 

いかがでしたか?第3回ではALSの治療法とホスピスによるターミナルケアをご紹介しました。

残念ながら現在のところALSを完治する方法は有りません。

よって、いかにALS患者のQOLを向上するかが今のところ最大の論点です。

 

その点において、ホスピスは重要な役割を担う可能性があります。

がしかし、日本において系統的なホスピスケアが不足しているという課題に直面しています。

本記事を閲覧頂いた看護師をはじめとする方々が、ALS患者のQOL向上にご興味を持ち改善に尽力されたならば、とても嬉しいことです。

 

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