在宅医療の今
以上、これまでの在宅医療の背景や制度の変遷について述べました。
では、今の在宅医療はどのような方向性に舵を切っているのでしょうか?
画像出典:howto.ac
現代の社会事情
まず、前提として挙げておかねばならないのが「現代の社会事情」です。
日本では人口減少を迎える中、後期高齢者の急激な増加に伴い、高齢者単身世帯や要介護認定者数も比例して増加していくことが見込まれています。
このような超高齢化社会に突入して「多死時代」を迎える中、「死に場所の不足」が大きな課題となっているのです。
2030年には、約160万人の死亡者のうち、約47万人の「死に場所」が定まらない「看取り難民」の大量発生が予測されており、
看取りを含めた在宅医療を行う診療所等に大きな期待が寄せられています。
そうした事実がある中で、国民はどのように考えているのでしょうか?
下図の通り、約60%以上の国民が終末期においても可能なかぎり自宅での療養を望んでおり、
患者や家族のQOLの維持向上を図りつつ療養生活を支えるとともに、
患者や家族が希望した場合には、自宅で最期を迎えることを可能にする医療及び介護体制の構築が在宅療養支援診療所には求められています。
また、高齢化の進展に伴い、介護施設等で最期を迎える者が増えていることから、
在宅医療に係る機関が介護施設等による看取りを必要に応じて支援することも求められています。
(参考:MEDIVA)
※厚労省の「終末期医療に関する調査等検討会報告書」を基に作成された資料です
画像出典:lohasmedical.jp
日本在宅医療学会が示す問題意識と解決策
では、このような社会的事情のもと、どのような取り組みが行われているのでしょうか?
たとえば、「日本在宅医療学会」では、下記のような問題意識およびそれへの対策が提示されています。
2014年度から少子・超高齢・多死社会でも安心して暮らせるような地域づくり、地域包括ケアシステムが国家プロジェクトとして始まった。
このシステム構築の中核となるのは在宅医療における医療・介護の連携と医療体制においては急性期病院と地域医療・介護との密接な連携体制である。
特に、治癒が望めない医療依存度が高い疾患や病状を持っている人やその家族が安心して地域で暮らすためのシステム構築が肝要である。すなわち、在宅における治療法の標準化、医療依存度の高い利用者に対するケア、従事者の質の向上、医療および介護人材の育成、情報共有体制の構築、継続医療を念頭においた病診連携体制の構築と急性期病院の医療従事者および地域住民の意識変容が必要である。(太字は筆者による)
このように、在宅医療は「地域包括ケアシステム」という”プロジェクト”の中の重要な要素の一つとして位置づけられています。
※地域包括ケアシステムは、本シリーズ第5回等で詳しくご説明します。
こうした在宅医療の取り組みは、外来、入院に次ぐ「第三の医療」と呼ばれるようになっており、今後必ず社会的議題に上ることでしょう。
(参考)
・医療法人 かむらクリニック
・産経新聞
まとめ ~在宅医療は発展途上~
この第2回・第3回では、在宅医療の業務内容、そして、在宅医療の歴史(制度的な淵源やその発展)について見てきました。
在宅医療の取り組みが始まったと言い切れるのは「1992年」であることを踏まえれば、かなり若い制度であることが一目でわかります。
また在支診に関しても、2006年に発足し、2012年に新制度がスタートしていることを踏まえれば、まだまだ発展途上であることが再確認できたのではないでしょうか?
いずれにせよ、今後の在宅医療は、「チームでの連携」「地域」、それから「予防」といったワードが鍵となってくるでしょう。
→次回は、在宅医療にも関係のある「ホスピス」について扱います
【在宅医療についてもっと深く知りたい方へおすすめの文献】
・現場の医師が語る在宅医療
中野 一司 『在宅医療が日本を変える キュアからケアへのパラダイムチェンジ―“ケア志向の医療=在宅医療”という新しい医療概念の提唱』(2012/12)
・在宅医療の臨床
和田 忠志『在宅医療 臨床入門 (在宅医療の技とこころ) 』(2009/5/1)
・家族にとっての在宅医療に関して
佐々木淳『家族のための在宅医療実践ガイドブック』(2012/11/27)
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