在宅看護は「人生のファーストチョイス」としての価値がある【日本ホスピスホールディングス・高橋 正社長インタビュー2】



鴨宮ハウス3、ファミリーホスピス

 

――ハード面での工夫としてはいかがでしょうか?

 

ハード面では、まずダイニングの壁は私と社員で漆喰を塗りました。材料を買う額しか予算がなかったのです。

これは建築士としてのこだわりでもありますが、自分たちが建設に参加することで、ハウスの生い立ちさえも語れるようになる。

そういった愛着が、良いホスピスを育てる基礎になっていくはずだと考えました。

 

床は、節がいっぱいあるカナダパインを使った天然木にしました。

比較的柔らかい木なので、小さな傷もつきますが目立ちません。

醤油やソースのシミもつきますが、節がいっぱいあるので同化してわかりません。

 

これらを年輪と思って受け入れることで建物も自然に年をとることができます。

年をとるということは「生き物」と同じように歴史を刻むということですから、テーブルや椅子も含めて、僕らの歴史が刻まれていきます

 

私のこだわりは、時として「使いにくさを生む」というマイナス面もありまして、スタッフにはよく怒られます。(笑)

私はスタッフには「それも愛嬌」と一言で返してしまいますが、自然を残した表現には、体験的に綺麗な工業製品には無い、様々な物語を生んでくれる力があると信じています

鴨宮ハウスのダイニングには、そのエネルギーを感じていただきたいと思い屋久杉素材をそのまま加工したテーブルを置きました。

樹齢1200-1500年の自然のものですから、木にはいっぱい穴が空いています。

テーブルとして使えるように埋木をするのですが、私は天然の感触が残るように中央部は溝を残してもらいました。これはスタッフに大不評です。(笑)

 

しかし、視点を変えれば「溝があるから気を付けてね」という会話が生まれたり、おじいちゃんが溝を触っていたり、お茶をこぼしてスタッフが慌てたりなど、物語がどんどん練りこまれています

 

――それこそ対極の例として病院をイメージすると分かりやすいですね。

 

そうですね。

危険は回避する、テーブルは角を丸く足は丈夫に、椅子は転倒しにくく手すりは丸く。

これではどこも同じデザインになります。

病院とは「居心地がいい」という面で共存できるはずでしたが、対極的なものになってしまいました。

 

「職業家族」の実現に向けた「人事戦略」

 

――職業家族のトピックについて、社長の思い、それからハード面を伺いました。もう一つ重要なのが、それらを構成する「人材」かと思います。「人材」という点に関して工夫はしてらっしゃいますか?

 

大きくは二つあります。

一つ目は、やはり女性が多い職場ですので、女性への配慮は重視しています。

女性はライフステージごとに就労環境が変化しますし、結婚・妊娠・育児とライフイベントに左右されます。

また、家庭と仕事のワークライフバランスの考え方は非常に個人差があります。

このように、家庭環境に左右されるところが多いので、やはり多様な働き方を選ぶことができる環境作りは重要だと認識しています

計画性を持てる変化と、子供の病状などいう予測が難しい変化もあります。「急に親の介護が必要になったから離脱したい」という希望も無視できません。

そういう変化を許容しつつ、とはいえ求められる労働力というのは当然一定程度必要ですので、それをどうシステムとして機能させられるか、多様性を持ったスタッフを受け入れられるか、という部分は私が改善を

続けるべき点だと思っています。

 

二つ目は、研修や資格取得のサポート制度の充実です。

医療・福祉の世界はライセンスがものをいう世界です。研修や資格認定の制度が豊富にあり、特に看護師はすごく勉強熱心だと思います。

そういう上昇志向をきちんと捉えてあげられる仕組みは必要だと思います

女性が活躍できる社会をこの業界でつくれたらいいなと思っています

給料が高いとか夜勤がないとか、そういう単純な条件競争では無い優位性を築けるかが、今後問われると考えています。

女性ならではの働き方の多様性をどう受け入れられるかについては、今後も優先課題として取り組んでいきます。

 

――高橋さんは経営者として長年看護・介護業界に携わってこられました。そういった中で様々学ばれてきたと思いますが、どのような気づきがありましたか?

 

看護師には、医療や福祉に対して献身的に貢献したいとか関わりたいといった、純粋な心の「根っこ」があるというのが一番の気づきかもしれません。

また、看護師の仕事は注射や点滴の針の抜き差しが中心ではなく、身体的なマネジメントこそ看護師の大きな役割だなと確信しました。

 

ただ、ほとんどの看護師が、その思いを実現したり、やりがいを見出す場所を「病院」にほぼ限定して求めてきた訳ですが、それは決して病院だけではないということを一部の看護師たちが気づき始めています

それが在宅看護だと思います。

 

病院以外の選択肢としての「在宅ホスピス」は非常に可能性を持っている。

病院の次のセカンドチョイスではなくて、自分の人生のファーストチョイスとして選ぶ価値がある。

 

私はこう信じています。

 

病院では組織や医師の下で守られている部分があります。

在宅では一人で判断したり、対応しなければいけない場面が多くあります。

これは、看護師が主役として活躍できる機会を得ることとトレードオフになりますが、その価値は十分あると考えます。

あとは報酬面で病院勤務と遜色ない環境をつくることは我々の責任だと考えています。

 

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