「言葉で伝えることは重要である」の本当の理由【名古屋大学大学院・山内豊明教授インタビュー1】

 

フィジカルアセスメントの権威である、名古屋大学大学院医学系研究科・医学部保健学科の山内豊明教授にお話を伺うことが出来ました!

山内先生は、「看護のアイちゃん」という訪問看護アセスメントソフトの監修・開発者をされており、フィジカルアセスメントに関する著書も多数ご執筆されています。

さらに、医師でありながら看護師でもあるという異色の経歴をお持ちです。

また、山内先生のアセスメントの講義は非常に評判。

ある看護師さんから「話が分かりやすいうえに、人徳も素晴らしい」との前評判を得て、山内先生にお会いする機会をいただきました。

その前評判通り、非常に物腰柔らかに、本当に誰にでもわかりやすい表現で「看護のアイちゃん」「標準化と個別化の違い」「言語化することの重要性」などについてご説明くださった山内先生。

「看護」に関するご説明はさることながら、表現方法・言語化の部分でも、非常に学びの多いインタビュー記事となりました

 

山内豊明教授 プロフィール

山内豊明教授_看護のアイちゃん

 

≪略歴≫

1985年 新潟大学医学部医学科卒業
1991年 同大学博士課程修了、医学博士。内科医・神経内科医として通算8年間の臨床経験の後、カリフォルニア大学医学部勤務
1996年 ペース大学看護学部卒業、米国・登録看護師免許取得
1997年 同大学院看護学修士課程修了、米国・診療看護師(ナース・プラクティショナー)免許取得
1998年 ケース・ウェスタン・リザーブ大学看護学部大学院博士課程修了、看護学博士。
1999年 看護師、保健師免許取得。
2002年より現職

 

≪著書≫ ※監修を含む

山内 豊明『フィジカルアセスメント ガイドブック―目と手と耳でここまでわかる』(2011年12月、医学書院)

山内 豊明 (著), 荒井 有美 (著)『医療安全―多職種でつくる患者安全をめざして (看護学テキストNiCE)』(2015年4月、南江堂)

山内豊明 (監修), 岡本茂雄 (編集)『生命・生活の両面から捉える訪問看護アセスメント・プロトコル 改訂版』(2015年7月、中央法規出版)

大澤 智恵子 (著), 山内 豊明 (監修), パリウムケア (編集)『介護現場で活かすフィジカルアセスメント: 利用者の生命と生活を支える知識と技術』(2016年11月、中央法規出版)

桑原 美弥子 (著, 編集), 山内 豊明 (監修)『まるごと やりなおしのバイタルサイン: アセスメント力がつく! 正常・異常がわかる!』(2016年9月、メディカ出版)

・その他多数

 

山内豊明先生が定義する「看護のアイちゃん」

 

――山内先生が監修・開発された「看護のアイちゃん」はどのような役割を果たすソフトなのでしょうか?

「アイちゃん」というソフトは「業務の標準化ツール」です。

ただし、「標準化」という言葉は勘違いされがちなので注意が必要です。

実は、「標準化」は、「画一化・均一化」という意味ではありません

「標準化する」と言うと、「個別性があるのになんでも標準化していって・・・」と、「良くないこと」のように考える人もいるのですが、実はそうではないのです。

結論から言えば、標準化がないと個別性が存在しなくなります

例えばですが、病院で「うちの病院のユニフォームはこのデザインで、サイズは1サイズしかないので、このサイズのユニフォームを着てください。」と伝達するとします。これは「画一化」です。

この場合、背の高い人が着ると小さく感じますし、逆に身体の細い人が着るとぶかぶかになりますよね?

つまり、「先に指定の服があるので、それに合わせろ」というのが、「画一化」や「均一化」です。

先に「規格」があって、それに自分たちが合わせるということです

一方、「標準化」とは、「ユニフォームのデザインはこれで、サイズはS・M・Lの3サイズあります。その3サイズの中でどれがいいですか?」と言われ、「私は大型だからLかな」というように選ぶことを指します。

この標準化があれば、、「Lサイズの服着ると袖が長いので、Lの服を着て袖を2cmつめるとぴったり!」という具合に、「最もその人らしいもの」も簡単に定義できるようになります

これらの例から分かることは、「標準化」がなければ他との違いがわからないということです。

肩幅一つとっても、「私の肩幅は何cmくらいで、誰々は何cmです」と言われたところで、「スタンダード」がなければその人の肩幅が大きいかどうかがわからないですよね?

そういう意味で、「看護のアイちゃん」は「標準化ツール」であると考えています。

 

――なるほど。言葉の意味を混同してしまっている人は多そうですね。。。訪問看護においても「標準化」が必要だ、と。

訪問看護の患者さんにはそれぞれの生活があり、それは全く違った生活ですので、看護を行う人から「標準化したものを使って大丈夫?」と思われることがあります。

しかし、これも病院のユニフォームの例えに即してみるとその必要性が分かるかと思います。

たとえば、ユニフォームのデザインは決まっているけれども、サイズはオーダーメイドとします。

この場合、もし「標準」が無ければ、「その人」のサイズを測ったうえで袖の長さを決定するしかなくなります。しかも、「標準から見て上か下か」ということを想像することすらできないわけです。

それだとあまりに不便です。

だからこそ、まずは標準の長さが決まっている状態を作る。次に、その「標準」をベースにして、その人らしさを上乗せする

この考えが重要になります。

これまで医療や看護の業界では、「個別性」、つまり全員に違ったケアを行なうことが「一人ひとりを大切にするケア」だと言われていました

「標準化」という言葉なく「個別性」という言葉ばかりが先走っていました。

しかし、「個別化」は、まずは「標準化」ありきの言葉であり、標準を決めた上で「+α」を「オプション」と認識する必要があります

それがないと、先ほど申しましたように、何が何か全然整理が出来ない状態に陥ってしまいます。

「オプション」の部分(を認識すること)が、一番その人らしさが分かる部分だと私は思いますので、いつも「標準がないのに個別性というのはどうも変な世界だな」と思っていました。

 

看護のアイちゃん開発における作業と工夫

 

――非常に分かりやすいです。では、「標準」や「個別性」を実現するために、「看護のアイちゃん」の開発ではどういった作業が必要だったのでしょうか?

最終的に利用者さん一人ひとりの「個別性」を見るために、まずは「個別の基準になる標準を決めることから始めましょう」となったのが「アイちゃん」開発の始まりでした。

では何を「標準」にするか。

人間は設計図があって鋳型(いがた)をはめて作られたロボットではありませんので、まず重要なのは「現実」です。

「現実」で素晴らしいことは生き延びているし、誤ったことはいつの間にか歴史の上で消されている。

この考えに基づいて、「看護経験が豊富な方々」にご協力をいただきました。

様々な経験を積んできた方々が思っていることというのは、つまりはその方の「時間の振るい」を乗り越えてきた知見ですので、ものすごく貴重なものです

ですので、まずはその経験豊富な方々にお話を伺い、そこから整理を行ったのです。

つまり、「アイちゃん」は、「看護とは?」といった理屈から入ったのではなく、時間をかけて培われた「経験」の「見える化」を行うことからはじまりました。

 

――それが広瀬さん(※)も仰っていた、「看護の見える化」の元となる部分なんですね。ただ、なかなか膨大な作業になってしまいそうです。何か気を付けた点などありましたか?

訪問看護において経験豊富な人たちに、いきなり「どのようにケアを行っていますか?」と伺っても、言葉にして話すのはなかなか難しいことです。

しかし、本人にとっての「当たり前」を「見える化」することは非常に大切な作業であり、アイちゃんの根幹に関わる部分です

質問する私達も同じ医療者なので、感覚的になんとなく分かってしまうのですが、そうしてしまうと聞く意味が無くなるので、あえてわからないフリをして聞いていました。(笑)

(※)広瀬さんは、山内先生と同じく看護のアイちゃんの開発に携わった方です。
広瀬さんの記事もご用意していますので、こちらをご覧ください。
訪問看護アセスメントの強い味方!「看護のアイちゃん」について伺いました【広瀬純子さんインタビュー1】

 

――それはそれで、意外と難しそうです。(笑)

そうなんです。(笑)

当たり前のことを「なぜですか?」と聞かれて答えるのって、非常に面倒ですよね?

例えば、3×4って言われると反射的に「12」と出てくる。

でも、「12」と出てくる人に「なぜ3×4は12なんですか?」と聞くと、面倒に感じてしまうものです。

それと同じ作業をする必要がありました。

しかし、それこそが非常に重要なことだと思います。

いまの例で言えば、「なんで?」と聞いたときに、「3を4回足すからです」という答えを聞くことが出来れば、万が一九九を忘れても、その原則さえ覚えておくことで「12」という答えを導き出すことが出来ます。

しかし、経験豊富になればなるほど、「3×4といったらもう12って決まってんじゃん!」となり、それ以上(の考察)はなかなか出てこない

もちろん本人たちは(経験から)正しい答えを導きだすことが出来るのですが、これで終わるのはすごく勿体ないことです。

そこを、掛け算を知らない小学校1年生のような顔をして、「どうして3×4って12なんですか?」という疑問を投げかけ、おそらくその人自身だけでは出てこないであろう「解法」を引き出す作業を行いました。

と、口で言うのは簡単ですが、豊富な経験をお持ちの方が伝えたい感覚、そして、こちらが聞きたいものを上手く通じ合うにはかなりの労力が必要でした

 

「人類としての進歩」を遂げるための「アイちゃん」

 

――お話を伺うだけでも大変さが伝わります。「標準化なき個別性」が行き過ぎた場合、どのような弊害があるのか改めて聞かせていただけますか?

標準化なき個別性」は、要するに全てがオーダーメイドということなんです。

例えば洋服を作るときに、すべてをオーダーメイドで作るのは、やろうと思えばできますよね。

ただ、可能ではあっても、次に活かすことはできません。

洋服を100枚作っても1000枚作っても、全て違うものだと、作ってきた経験値を貯めることはできないからです。

しかし、一部を標準化することで繰り返しという概念が生まれ、経験値を貯めることができます

「個別性」だけだと作業の全てがバラバラで、昨日やったことも今日やったことも全然無関係で刹那的なものになってしまうのです。

 

――今までの経験が「全く意味が無い」とまでは言いませんが、経験を体系化したものがないと、人に教えることも難しいですよね。

おそらくそうだと思います。

だから、(看護の世界も)芸事と同じように、「師匠の背中を見て盗め」みたいな話で、実際になかなか上手く伝わっていませんでした。

豊かな経験を持つ一方で、それを表現することを疎かにしてしまうと、「わかる人にはわかるが、わからない人はわからないまま」という指導方法になります

それも時には必要ですが、「わからない人は全くわからない」となってしまうと、大げさですが、人類が進歩しない状態になってしまいます。

例えば、先輩が50年かけて身につけたことが次の世代に伝わらなければ、次の世代の人たちもまた先輩と同じように50年考えないと見つからないということになり、何世代変わっても進歩しないということになってしまいます。

しかし、先輩が50年かけて得たもへのヒントが一言でもあると、次の世代はそれを45年で理解でき、残りの5年分を新しいことに使えるわけですよね。

長い目でみたとき、そういった少しずつの積み重ねが人類にとっては大切で、大きな蓄積になると思っています。

だから大切なのは「言葉にして伝える」ということです。

人間以外の動物は、自分の経験したことを人とやりとりする手段がないですよね?

要するに、コミュニケーション方法が自分の中で終わってしまっているということです。

例えば、ネズミが今でも昔ながらのネズミ捕りの罠に引っかかってしまうのは、ネズミ族の間に言葉がなく、進歩していないからなんです。

 

――「進歩がない」という点について具体的にご教示いただけますでしょうか?

自分がネズミだとします。

チーズを食べたら足が挟まれ、ようやく家族のもとに帰ってきました。

もしこの場合に経験を伝える方法があれば、弟ネズミたちに「チーズを食べると大変なことになるよ」と伝えますよね。

そうしたらもうその家には二度とその罠は使えません。

しかし、実際には次の日にまた弟ネズミが捕まりますよね。

ということは自分の経験を外に出す方法を持っていないのです。

つまり、自分の経験したものを他人に渡したり、共有できるのもって、結局「言葉」だけなのです

人間以外の動物は言語を持っていないから、自分だけの体験や教訓にしかならない。

翻って、我々がたくさんのケアをして経験積んでも、それを伝える方法を持たなければ、他の動物(の一個人の経験)と変わらないことになってしまいます

人間と動物の違いは、「時間や人を越えても経験をシェアできるという術を持つかどうか」なので、大切なのは「言葉を持っているかどうか」「言葉にするかどうか」なんです。

今までの看護界におけるケアというのは、経験があるもののそれを伝える術がなく、自分の経験の枠を出ないという状態でした。

それがすごくもったいなくて、なんとかできないかと思い「アイちゃん」を開発したのです。(第1回:完)

 


 

以上、いかがでしたでしょうか。

他人に「言葉で伝えること」そして「シェアをゴールとすること」の重要性が、ひしひしと伝わったのではないでしょうか。

次回は、「『虹』の色は何色だと思いますか? 認識論と看護の関係」という題にて、山内先生ご自身の過去に触れながら、「アイちゃん」開発の工夫・現役看護師へのメッセージなどを伺います!

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■看護のアイちゃんについてより詳しく知りたい方

ビーナースでは、同じく「看護のアイちゃん」の開発者の一人である広瀬純子さんのインタビュー記事もご用意しております。

広瀬純子さん記事第1回

広瀬純子さん記事第2回

 

■看護のアイちゃんについて具体的に話を聞いてみたいという方

下記リンクから販売元のセントワークス株式会社に問い合わせをすることが可能です。

※お電話でお問い合わせをする場合は、「ビーナースを見た」とお伝えいただくとスムーズです。

・Web:セントワークス株式会社の「看護のアイちゃん」お問い合わせフォーム

・お電話:03-5542-8073(受付時間:平日9:00-18:00)

■看護のアイちゃんの公式説明をご覧になりたい方

下記のバナーより、看護のアイちゃんの公式サイトへ遷移することができます。

インタビュー内容も加味して、導入のご検討をされてみてはいかがでしょうか?

 

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是非、お気軽にお問い合わせください♪
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