アメリカでのホスピスナース経験 (駆け出し編) ~わたしの仕事に対する姿勢が変わった理由~

運命の出会いが生んだわたしの変化

 

2年目の終わり頃、私達は新しい上司を迎えました。

ベトナム戦争時代に陸軍ナースの経験をし、その後アメリカのホスピス創成期を支えてきたベテランホスピスナースは、自分の中に確固とした理念と目標を持った人です。

小気味良い決断力と母性的な包容力を持ち合わせた彼女のリーダーシップによって、ホスピスチームはそれまでとは違った方向性を持ち始めました

 

それは、「チームの成長」でした。

その為には個々のナースの成長が不可欠。

そこで、彼女は私達を育て始めたのです

 

彼女はどんどん勉強会を開き、スケジュールをやりくりして外部のセミナーにも積極的に参加させました。

また、ホスピス緩和ケア認定看護師の取得を奨励し、誰かが認定されるたびにチームでお祝いをしました。

 

自分の家族が第一”というのが彼女の信条で、「自然に、お互いを助け合うのがチーム」という体質ができていきました。

スタッフができるだけ効率よく働けるよう、受け持ち患者のテリトリーを見直したり、仕事とプライベートをできるだけ両立できるようスケジュールを調整し、休みのリクエストはできる限り尊重してくれました。

 

私が1年目、3年目、6年目と、3度の出産をはさみながらも仕事を続けられたのは、この仕事を辞めたくないという強い気持ちはもちろんですが彼女のもとなら両立できるだろうという安心感があったからでした。

 

彼女との出会いによって、私の仕事に対する姿勢は変わっていきました

毎日の仕事をこなすだけではなく、 “プロフェッショナルの仕事とは何か”ということを、少しずつ意識するようになっていったのです。

私がホスピス緩和ケア認定看護師を取得したのは、3年目に次男を出産し、3ヶ月の産休が明けてすぐの事でした

 

関連画像

画像出典:i61.tinypic.com

 

タイミングの壁

 

駆け出しホスピスナースとして何よりも難しかったのは、「タイミングを読む」ということでした。

ホスピスの患者さんや家族に‟必ず”と言っていいほど訊かれるのが、「あとどれくらい?」と言う質問です。

それが、時間単位なのか、日単位なのか、週単位なのか、あるいは月単位なのか。

残された時間を大体でいいから知りたいと言うのは、人間の自然な気持ちです。

しかし、経験の浅い私にとっては、一番訊かれたくない難問でした

 

また、患者さんが亡くなった時にどうしたらいいのかを指導したり、葬儀社は決めてあるのかを訊くタイミングなどは、早すぎて相手を不安にさせたり、遅すぎて困惑させたりという失敗を経験しながら、体得していきました。

 

さらに、「同じ事を説明しても、タイミングが悪いと相手の記憶には残らない」という事を学んだのも、この頃でした。

 

初心者だからできること

 

どんな仕事でも、最初は誰もが初心者です

失敗したり間違えたりしても、それが恥ではないのが初心者の特権です。

もちろん本人にとっては恥ずかしいし、相手には申し訳ないけれど、謝って、後始末をして、フォローして、学んで、そして、前に進むしかありません。

 

新人だった頃の私は、失敗から様々な事を学びました。

わからないことは上司や同僚に電話をして、教えを請いました。

知らない、わからない、という事を隠さず、その場で助けを求めました。

知ったかぶりをして冷や汗をかくよりも、無知をさらして恥をかく方が実はずっと簡単で、安全な事でした

 

そして、そんな頼りない私を、あの頃受け持った患者さんや家族の多くは、優しく受け入れてくれたのです。

多分それは、私が拙いながらも少しでも患者さんが楽になるように、必死で無い知恵を絞っている事を、分かってくれていたからだと思います

 

だからでしょうか。二十年近く経った今でも、あの頃受け持った患者さんたちのことは、それぞれ特別な思い入れを持って思い出す事ができます。

あの人達は、人生の最後に、一人の新人ホスピスナースの礎になってくれました。

新人で、しかもアメリカ全国を探しても滅多にお目にかかれない「日本人ホスピスナース」に受け持たれた患者さんたちは、それを“当たり”と思ったか“ハズレ”と思ったか、、、今となっては知る由もありません。

それでも、私にとってはホスピスケアの基礎を学ばせてもらった恩人達です。

その恩に報いるべく、こうしてホスピスナースのエキスパートを目指して進み続けているのです

 

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