私でもできるかもしれない、ある晩のオンコールで
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とあるオンコール当直の晩のことでした。
その晩は、午後5時から翌朝9時までに20件以上の電話を受け、そして、4件の訪問を行う、自分史上最も忙しいオンコールでした。
そのうちの一件が、生後3ヶ月の赤ちゃんでした。
「NGチューブが抜けてしまい、お母さんが試みたけれど再挿入できない」というケースです。
私はまず自分でやってみて、無理だったら師長を呼ぶつもりで訪問を決意。
フィラデルフィア北東部の小さなロウハウス(長屋)には、大人と子供を合わせて10人以上が暮らしており、私が到着すると、すぐに2階に案内してくれました。
4畳半もない薄暗い部屋にはベッドとベビーベッドが置いてあり、その横の大きなクッションの上では2歳くらいの子供が眠っています。
若いお母さんがベッドに腰掛け、弱々しく泣いている赤ちゃんを抱っこしていました。
そして心配そうに見守る、おそらく赤ちゃんのおばあちゃん。
お母さんは私を見るとホッとして、「来てくれてありがとう」と一息つき、「今までは自分で入れられたんだけど、今日はどうしてもうまくいかないの」と、不安そう。
私はとりあえず荷物をおいて平静を装い「わかりました。私がトライしても無理だったら、スーパーバイザーに来てもらうから、安心して」と声をかけました。
そして、生後3ヶ月といってもおそらく新生児と変わらない3000グラムほどの赤ちゃんをベッドに寝かせ、NGチューブの細さと、鼻腔の小ささに慄きながら、なんとか一度で挿入する事ができたのです。
この経験が「私にもできるのかもしれない」いう小さな自信に繋がりました。
そして小児ホスピスチームが発足して半年が過ぎた頃、「小児ホスピスにトライしてみようと思う」と上司に申し出たのでした。
「気づいたら2人しかいませんでした」過酷な小児ホスピス
小児看護を行うためには、まず小児虐待のバックグラウンドチェックが必要です。
FBIの申請書を提出し、承認された後指定の場所で指紋を取られます。それから数か月待ってELNEC (End-of-Life Nursing Education Consortium)の小児プログラムを受講しました。
諸々の手続を終え小児ホスピス開始から約一年、ようやく準備が整い、晴れて小児ホスピスチームに参加。
その半年後に1人新たなナースが加わり、ケース数の増加と共に小児チームも大きくなっていったのです。
また、ホスピス病棟内に小児ホスピス専用病室の開設の計画が立ち上がり、寛大なる寄付金により実現されました。
ところが、初期メンバーだった60代のナースが膝の手術のために休職。
その後、回復に予想以上の時間が掛かり、そのまま退職する事になったのです。
さらに私の後にメンバーに加わったナースも結婚し、ストレスの少ない仕事に転職してしまいました。
小児のケースは、フィラデルフィアにある2つの大きな小児病院から依頼を受けることが多かったのですが、近郊とはいえ地理的にかなりばらつきがありました。
成人の場合、できるだけ移動に時間が掛からないよう受け持つ地域を分けているのですが、小児の場合はそうも行きません。
いくら数は少ないとはいえ、自分の受け持ち地域からかけ離れた所に訪問するのは容易ではありませんでした。
特に、前回アメリカでのホスピス体験ベテラン編で書いたような職場の状況の変化によって、ナース達のストレスは増すばかりでした。
そしていつの間にか残っていたのは、小児ナースと私の二人だけだったのです。
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