行政の課題
在宅療養支援診療所(在支診)が抱える課題
在支診が抱える課題はいくつかありますが、最も重要かつ難しい課題としては、「在宅医療に特化した人材の育成」が挙げられます。
この点、在宅医療を行う医師である加藤氏は、「在宅医」の望ましい姿について、次のように規定しました。
「患者を自宅で継続的に診療し、かつ、自宅で看取ることが出来る」
→そのためには、「在宅終末期(緩和)ケアができる」ことが重要
→そのためには、「医療連携とチームアプローチができる」ことが重要
このような在宅医を育てるためには、大学教育や研修制度の充実を図ること、在宅緩和ケアの有用性を広く啓蒙することなどが考えられます。
※機能強化型在支診が抱える問題については、「川崎高津診療所HP」を参照のこと
(参考)
・かとう内科並木通り診療所・加藤恒夫「在宅医の育成」(2006年11月、「在宅医療推進フォーラム」シンポジウム資料)
・厚労省資料「これからのホスピス緩和ケアについて」
「地域包括ケアシステム」の今日的課題
ケアタウン小平クリニック院長の山崎章郎氏は、2015年12月8日付の産経新聞の記事で、「在宅緩和ケア」を推す立場から、次のような懸念を示しています。
中長期的フォローを前提にした脳梗塞を疾患モデルとしている地域包括ケアシステムでは、以上のように、その経過の全く違う、24時間、短期間集中的に、より専門性を求められる終末期がん患者の在宅緩和ケアと在宅看取りを適切に行うことは、困難なのではないだろうか。
言い換えると、「地域包括ケアシステムの中の外来診療を主とした開業医を「かかりつけ医」と想定する医療だけでは、
短期間に病状が悪化し、さまざまな苦痛症状の緩和が必要な終末期がん患者に対応できない懸念がある」ということです。
さらに完結に述べるとするなら、
「現状の地域包括ケアシステムでは、本来対応すべき終末期がん患者に対応できない!」
ということになります。
この結論の趣旨・根拠となる事実を以下列挙していきます。
- ・当面、地域包括ケアシステムが目指していることは、脳梗塞などの慢性疾患などに罹患(りかん)している人々を主な対象とした中長期的な取り組みである
- ・一方、年間死亡者が約160万人に増えると予測される2025年の死亡者の半数近くは、がんによる死であると予測されている
→終末期がん患者には、「約2割は急変し死亡する」「専門的緩和ケアが可能であれば、苦痛症状のほとんどは、在宅でも緩和できる」などの疾患特性があることを踏まえるべき
→終末期がん患者を主に診療している「緩和ケア診療所連絡協議会」の調査によれば、在宅緩和ケアを開始してから在宅で死亡するまでの中央値はおよそ32日。つまり、「在宅緩和ケアを開始したがん患者の約半数は約1カ月で死亡して」いる。
→さらには、それら施設の平均がん在宅看取(みと)り率は70%を超えている - ・終末期がん患者の在宅療養には、前述した終末期がん患者の疾患特性を熟知し、その上で、高い在宅看取り率を実現できる、より専門性の高い24時間対応の「在宅緩和ケア支援専門診療所」の制度化は、必須と思われる。
・平成28年度の診療報酬改定にあたり、関係者の皆様には、ぜひ現実を見据えた検討を願いたい。
以上の山崎氏の主張を補足する意見は他にあります。
たとえば、札幌医療生活協同組合の在支診院長を務める前野宏氏はそのうちの一人です。
前野氏は自身のホームページにて、
「多くの末期がん患者さんは、実は亡くなる数日前まである程度ご自身のことができている方が多いのです。つまり、一般的には長い期間大変なケアが継続するということは多くはありません」
と述べています。
その上で、「多くのケアをしているご家族がおっしゃることは肉体的にも自宅で看ている方が意外と楽」であり、在宅緩和ケアを推進すべきとの趣旨を述べています。
このように、地域包括ケアシステムの実際の運用シーンにおいても課題が見え隠れしています。
実際に在宅医療・ホスピスに関わっている方は、是非地域包括ケアシステムの問題点について考えてみてはいかがでしょうか?
まとめ ~自分が出来るところから始めましょう~
今回は、在宅医療・ホスピス業界に関する様々な課題を挙げました。
そして、一部ですが解決策についても言及しました。
この中で重要なことは、ある課題に対して「誰がどのように」という点を考えることかと思います。
つまり、どんな大きな課題であっても、自分に出来ることは必ず存在するはずです。
特に医療従事者の方は、積極的に解決に向けて動いてみるのもいいのではないでしょうか?
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