日本ホスピスホールディングスの高橋 正社長インタビュー・第2回になります。
第1回インタビュー(「家族」のような在宅ホスピスケアを目指して)では、「日本ホスピスホールディングスの歩み」やコンセプトとして掲げる「職業家族」について伺うことができました。
今回は、取材現場となったファミリー・ホスピス鴨宮ハウスが特徴的なデザインをしている点を皮切りに、日本ホスピスホールディングスの人材戦略、今後のビジョンなどについて伺いました。
「年間1万人の看取り支援」というビジョンを掲げる日本ホスピスホールディングスには、どのような工夫があるのでしょうか?
「看取り」を他人事ではなく自分事として取り組むなら、本記事は必読かと思います!
高橋 正社長プロフィール
- ・1962年 神奈川県生まれ
- – 東京工芸大学工学部卒業後、 都内設計事務所にて病院建築や公共施設の設計に携わったの ち、1990 年に株式会社丸山工務所(ユーミーらいふグループ)に入職。湘南エリアにてデ ザイナーズマンション等の開発に携わる。
- ・2001 年 丸山工務所において高齢者事業立上げ
- ・2006年12月 株式会社ユーミーケア副社長就任
- ・2008年7月 同社代表取締役社長就任
- ユーミーケアでは、湘南エリアにてドミナント展開により湘南版CCRC「湘南ケアセンターシステム」を構築。サ高住を中心に介護付き有料老人ホームやグループホームなどの介護施設も取り込んだ、自立期から介護、認知症、そしてターミナルケアに対応する住宅を多様な在宅サービスと組み合わせることで、「途切れない介護・100%の終身ケア」を実現する。湘南で26棟約700室の高齢者住宅を展開。
- ・2012年11月 ユーミーケアが学研ココファングループに編入と共に代表辞任。
- ・2012年12月 カイロス・アンド・カンパニー株式会社を創業。
- ・2013年3月 訪問看護ステーション「訪問看護ファミリー・ホスピス本郷台」開設。
- ・2014年2月 訪問看護ステーション「訪問看護ファミリー・ホスピス小田原」開設。
- ・2014年8月
- – 日本初のシェアハウス型ホスピス住宅「ファミリー・ホスピス鴨宮ハウス」を神奈川県小田原市にて開設
- – 有限会社ナースコール在宅センター訪問サービス代表取締役社長就任
- ・2015年1月
- – 有限会社ナースコール在宅センター訪問サービスからナースコール株式会社に商号変更
- – ナースコール株式会社は、名古屋市において訪問看護ステーション3事業所を中心に在宅サービス事業を展開するとともに、がんと難病に特化した高齢者住宅『ナーシングホームJAPAN&OASIS』の2棟を運営する
- – 今後、カイロス社とナースコール社にて名古屋と首都圏を中心に訪問看護ステーションとホスピス住宅の組み合わせによる在宅ホスピス事業の全国展開を目指す
ファミリーホスピス・鴨宮ハウス(小田原)のデザインについて
――鴨宮ハウスの施設に関してですが、デザイン面でのこだわりが至るところに見受けられます。そこに込められた意図はあるのでしょうか? また、建築設計士のご経験が活かされているのでしょうか?
そうですね。
わたしは、病院や福祉施設の設計は、100棟ぐらいの設計経験を持っています。
そして、その設計のたびに運営会社の代表者や施設長、事業責任者にヒアリングを行い、打合せによって同意をいただいた通りに設計しますが、完成後には必ずクレームをいただきました。
短期間のうちにリフォームを行う事も珍しくありません。
そうした経験から、「100点の建物は無い」という結論に至っています。
施設の設計というのは、運営する側、介護をする側の意見で作っていくことが多いのですが、何を大事にするかは千差万別。意見がまとまらないことが多いです。
現場職員の意見に委ねる事業者さんも多いのですが、これも100人に聞けば100通りの意見が出てきます。
施設長も管理職員の入れ替わりも多い業界なので、その都度評価が180度変わることも珍しいことではありません。
設計時に時間をかけて検討した項目、そこに込められた思いと、生まれる結果や効果は一致するとは限りませんし、これはプロでも難しいことです。
それを前提として、鴨宮ハウスの最大の特徴は、6人のユニット型配置です。
中心にダイニングスペースがあり、居室はそれを囲むように並んでいますが、この配置は施設のコンセプトベースです。
鴨宮ハウスでは「おうちが病院」というキャッチフレーズを使っており、おうちのように自分のペースでゆったりと過ごせて、病院のような安心感が備わっている場所を目指しましたが、これは狙い通りにできたと思います。
もう一つ職員目線で見てみると、いくら小規模とは言いながらここまで職員のためのバックスぺースが無い施設はありません。(笑)
この6人ユニット型配置は、宮崎のホームホスピス“かあさんの家”を原型としています。
ホームホスピスは、使わなくなった一般民家を活用していますので、バックスペースという考えそのものがありません。
ダイニングテーブルで利用者さんとお話しながら一緒に食事をしたり、記録をつけていたりしていますが、これこそが職員と利用者さんの壁を無くして強い信頼関係を生んでいました。
職員のオン・オフをどう切り替えるかは別に配慮が必要だと思いますが、バックスペースの広さだけで職員の就労環境や離職率改善の議論をしても一向に成果が上がらないことは実証されています。
こうした理由から、ホームホスピスのケアを目指す鴨宮ハウスでは、バックスペースは思い切って割り切りました。
今のハウスの状況を見るとこれは「成果あり」だと考えています。
利用者さんがテレビを見ている傍らで職員は同じテーブルで記録をつけていますし、安心してゆったりとした暮らしをしてくれています。
また、職員は楽しそうに生き生きと働いてくれています。
こうした情景を見て、小さなサイズが生む「アットホーム感」がここにはあると感じています。
――2016年10月にオープンしたマギーズ東京もそうですが、鴨宮ハウスには温かみがありますよね。
ホームホスピス“かあさんの家”が原点の一つであることは申し上げました。
ホームホスピスでは、入居者は1棟に5~6人が基本です。
民家を活用しているので仕方ないのかとも思いましたが、代表の市原さんは「この人数が最適なのよ。疑似家族的な助け合いが入居者間でも生まれる結果自立した生活をするようになる。」と仰いました。
私は新築建物を使いますので、採算性を考慮して6人制×2ユニット=12人としました。
12人は看護師が一人夜勤で見守り可能な人数でもあります。
定員が大きいほど共用部分を充実できますが、それが本当に入居者さんにとって良い環境なのかは疑問です。
様々な視点から施設定員の最適数を検討していますが、まだまだ暗中模索の状況です。
翻って、ホームホスピスかあさんの家は、ご入居者、その家族、スタッフが一緒の時間・空間を共有している感じで過ごしているので、訪問した時に誰が入居者で誰がスタッフかわからないんですよね。(笑)
がん末期など深刻な病気をお持ちの方も居られると聞いても、誰がそうなのか、ケアされているのか、ケアしているのかもわかりません。
みんな和気あいあいと大家族のように暮らしています。
日常の延長上に「死」があることで、「死」が暮らしから切り離されず、日常の一部として受け入れながら過ごされている。
この自然な死のあり方に気づいた時は震えました。
本人・家族にとっては「おうち」以上の場所かもしれないと思ったからです。
「おうち」を「今まで住んで居た家」という固定観念に基づいて考えていることが、本人にとっても家族にとっても幸福な結果を生むとは限らないのは何度も体験してきました。
そうして、「看取り」の勉強のつもりで“かあさんの家”を何度も訪れましたが、看取りのノウハウを「システム(仕組み)」として見いだすことはできませんでした。
しかも、代表の市原さんが言われることは、捉えどころのない話ばかりです。
ただ、いつ行っても、ご本人もご家族もスタッフも「笑顔が絶えない」ということに気づいたんです。
それがすごく魅力的に見えたとき、「あぁ、こういうのやりたいな」と自然に思いました。
これが、ソフト面からアプローチした私のこだわりです。
▶ 次ページへ:ハード面の工夫とは?/ホスピスホールディングスの人材戦略は?
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