本記事の目次
事前指示の手順と内容について
【事前指示の手順①】代理人の決定
最初は急変時にだれを代理人にしてほしいかを患者さんに聞くことから始めます。
「これはすべての患者さんに確認しているのですが、入院治療中に突然あなたの意識が低下して、家族の方にあなたの代わりに意思決定をする人に考慮してほしいことが何かありますか?」などと入院時に質問すると、自然に聞き出すことができます。
また、代理人となった人が代理決定をしやすい状況になります。
代理決定を頼める人がいなくて、自分でできるかぎり意思決定をしておきたいという人にはそのことに答えることも必要です。
【事前指示の手順②】できるだけ早く話しあう機会を設ける
患者さんがいつ意思決定能力を失っても、また死が訪れてもおかしくない状態にある時には早急に話しあう必要があります。
また、「末期」患者さんや状態が刻々と悪化してしまった状態では、冷静に話を聞いたり、判断したりすることが難しくなります。
実は患者さんの方が医師より早い段階から、終末期の様々な治療法の選択について話しあっておきたいという希望を持っているとも言われています。
できるだけ早くに話すのが得策でしょう。
画像出典:forbes.com
【事前指示の手順③】医師だけでなく、看護師や他のスタッフも患者さん・ご家族に意思確認を行う
治療方針の選択については、治療の最終責任をもつ主治医が話すことになります。
しかし、時には看護師などの他のスタッフが、患者さんや家族へ再確認するような作業も意思確認の上には重要な時があります。
患者さん・家族からの質問は医師へ直接するよりも他のスタッフへの方がしやすいことがあるからです。
【事前指示の手順④】患者さんの価値観を知る
まず、患者さんの治療全般に対する価値観や優先順位を話してもらってから、具体的な治療内容の話をしましょう。
その方が選択した患者さんの背景が理解できます。
具体的には、「病状が深刻になった時に一番心配なことは何ですか」「もし厳しい状況になった時、一番大切にしたいことは何ですか」「こういう場合は延命治療をしてほしくない、というようなことを考えたことはありませんか」などという質問は、患者さんの一番大切にしたい価値観を知ることができます。
さらに、入院時診療録のアナムネを記入する際に、患者さんがどのような人生を送り、どのような出来事にどのように対処してきたかなど、患者さんの人生の物語を知っておきましょう。
それを知っていることが患者さんの代わりに判断を迫られたときに判断の基準として大切になります。
【事前指示の手順⑤】具体的な治療内容について話す
現在と将来起こりうる医学的な状況と、そのことへの対応の選択を話すことになります。
ただ、将来起きる可能性のあるすべての問題について話すことは不可能です。
起こりやすい状況と患者さんが知りたいことを中心に患者さんに説明し、その状況ごとに本人が選ぶ治療の選択を明らかにしておくことが必要になります。
【事前指示の手順⑥】事後のフォローアップ
事前指示もインフォームドコンセントのひとつです。
患者さん・ご家族の意思決定はテキスト化し、診療録に残して、それがチーム全員で確認できるようにしておきます。
また一旦選択したことであっても状況に応じていつでも変更ができることを話しておきましょう。
延命治療を拒否していたものの20%は後で気が変わって延命治療を受け入れ、逆に延命治療を受け入れていたものの42%が後で延命処置を拒否するという意思表示をしたという調査があります。
【事前指示の手順⑦】DNARオーダー(蘇生を試みないという指示)
突然患者さんの心臓がとまったり、呼吸が止まったりした場合には、そばにいる医療スタッフはただちに心肺蘇生をするように訓練を受けています。
いかなる治療にも反応のしない不治の進行性病変で死が目前に迫っている患者さんに対しては、患者さんが心停止に陥った時、心肺蘇生を行わないことを前もって指示しておくことができます。
その指示をDNARオーダーと呼んでいます。
このDNARオーダーは、以下のような手順で進めていくと間違いないと思われます。
ステップ1
患者さんから申し出があった場合、あるいは重篤な病気で患者さんに死が迫っていると主治医が判断した場合、CPR(心肺蘇生法)のメリット・デメリットを評価して、主治医がCPRは無益と判断した場合、DNARオーダーの必要性を医療チームで検討します。客観的生確保のため複数の医師による判断が必要です。
ステップ2
医療チームのDNARオーダーに反対がなければ、判断能力があれば患者に、なければ適切な代理者に治療のひとつの選択として突然の心肺停止時のDNARオーダーができることを話しておきます。
ステップ3
患者さんや家族が希望すれば、患者さんの診療録にDNARのオーダーと、その理由を誰でもわかるように書いておきます。
ステップ4
DNARオーダーは定期的に、少なくとも7日ごとに再評価します。病状の変化でCPRのメリット・デメリットの評価が変われば変更します。
【事前指示の手順⑧】意見が異なっても結論を急がない
終末期医療、延命治療については様々な考え方があり、すぐには意見が一致しない場合もあるので、結論を急がないことが大切です。
何回かの話し合いで妥協点が見つかることもあるし、本人の病気の進行に合わせてかかわる人の考え方も変わるからです。
事前指示とは まとめ
事前指示をはっきりさせることは、患者さんとそのご家族のためにも、とても重要なことです。
取り組んでいる間は意見が一致しないといった、うまくいかない状況にもなるでしょう。
それでも根気強く考え、話し合い続けることが一番納得のいく治療をする上では必要不可欠なのではないでしょうか。
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