「それでも現場で看護がしたい。」アメリカでのホスピス体験 (ベテラン編)

「プチα」の考え方

 

その頃、オルタナティブな療法、特にアロマセラピー、指圧、針などは、アメリカでも一般的に少しずつ受け入れられるようになってきており、医療者の中でも(特にナース)その効果を認める人達は増えてきていました。

REIKIやセラピューティックタッチなども、おそらくアメリカの方が日本よりも早く広まったのではないでしょうか。

緩和ケアやホスピスケアにおいても、それらは急速に注目されていきました。

 

ただし、問題はこれらが保険の対象にはならない為、そうした領域の専門家を雇うのが経済的に難しいということでした。

そうすると、現役のナースが個人的に資格を取り、現職のまま実践に取り入れる、という形をとることが多かったのです。

ただでさえ忙しいナース達にとって、時間的にも経済的にもなかなかできる事ではありません。

 

そこで考えたのが、“プチα”。

つまり、特定の資格を持った人が本格的に行う事が無理であるなら、現場のナースがエッセンスだけを学び、それを少しずつ現場で実践していけば良い。

広く浅くではありますが、それでも何もないよりはいいのではないかと思ったのです。

 

まずはそれぞれの専門家を招待して勉強会を開き、チームのメンバーがその効果を理解し、現場で実際に使えそうな技を会得する事から始めました。

例えば便秘に効く指圧ポイント、せん妄や興奮状態のときに落ち着かせるセラピューティックタッチの手当てのポジション、ラベンダーオイルを使ったハンドマッサージによるリラクゼーション、ペパーミントオイルによる嘔気の軽減など。

それぞれのナースが「これなら私にも、患者さんの家族にもできる」と思えるようなポイントに絞ったのです。

 

「aroma therapy」の画像検索結果

画像出典:c1.staticflickr.com

 

プチαを実践するうえでの私の役割

 

特にアロマセラピーは本院で現場に取り入れるようになったこともあり、ラベンダーとペパーミントの二種類に限り、在宅ホスピスのスタッフにも支給されるようになりました。

そこでの私の役割は、こうしたプチαをいかに継続し、現場に根付かせていくかということでした。

 

在宅の場合、ナースは単独で訪問するので、受け持ちナースによってプラスαに差が出てしまいます。

もちろん基本的なケアに関しては、全てのナースが一定のレベルを維持していますが、それ以外はそれぞれの経験や考え方、性格などによって情報やケアの幅に違いができるのは、仕方の無いことなのです。

私はこれらのプチαの技を、薬と併用、或いは人によっては薬を使う前に試し、その過程と効果を記録に残し、週に一度行なわれるチームミーティングで報告するようにしました。

そうする事で他のナース達も次第に意識するようになり、実践されるようになっていったのです。

 

こうしたプラスαを意識する事は、「他に何ができるか?」という可能性を考えるきっかけになります

そして、それが新たなアイデアに繋がり、看護の幅を広げる。

看護だって進化していかなければいけないのだ、だから看護は『実践の科学』なのだ」と実感したのも、この頃でした。

 

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