本記事の目次
――高橋社長は以前にも介護関連の会社経営をされていたとのことですが、そのことも、この問題意識と繋がっているのでしょうか?
はい。
私はカイロス社を起業する前は、介護保険スタートの頃から十数年間、老人ホームや高齢者住宅を運営する会社経営に携わっていました。
30棟の高齢者住宅を運営し、約700人の従業員が働いてくれていました。
私は最後の3年間に社長を務めましたが、その時に「湘南CCRC構想」というコンセプトを打ち出しました。
「湘南CCRC構想」は、施設ごとに対象者を絞りとケアの特徴を際立たせるためのものです。
元気な高齢者から認知症ケアとターミナルケアまでの入居者像でセグメントされた高齢者住宅を、クラスターのように街に配置したのです。
結果、長年お荷物だった赤字会社は2012年期に黒字化しました。
ところが、親会社の意思によって2012年11月に学研ココファングループへその会社を売却されてしまいました。
その際に私はスピンアウトし、自分で起業する道を選んだのです。
私は起業するにあたって、どのような会社にすべきかを考えしましたが、とにかく私自身が納得できるものを提供したいという気持ちが強くありました。
私は他社の施設や事業内容を見たり聞いたりする機会へは積極的に参加していましたが、知れば知るほど門外漢の私には不思議がいっぱいの世界でした。
実は、私は介護事業者がアピールする「心のこもった行き届いたケア」という言葉を魅力的に受け止めることができませんでした。
むしろ、「そこまでやるの?やり過ぎでは?」と感じましたし、介護事業者の多くがアピールする「至れり尽くせりのサービス」に違和感がありました。
私は自ら望んで介護サービスを受けたいとは思いませんし、できれば他人に身体を触られたくないです。
病院における治療中は仕方ありませんが、暮らしの中で継続的な介護は苦痛です。
――たしかに、私も「望んで受けたいか」というと疑問符がつきます。非常に新鮮な着眼点だと思います。
日本のサービス業の多くは洗練されていて、優しくかゆいところに手が届くホスピタリティに溢れています。
これは日本独特の優位性と言えます。
しかし、介護・福祉分野では必ずしも過剰なサービスを「良し」とすべきでは無いと考えます。
「介護における過剰」は、「本人の能力を奪う」という側面があるということはしっかり理解すべきです。
たとえば、食事を自分で摂ることがたどたどしい方への「口に食べ物を運んであげるサービス」は、「必要な栄養を摂り、死を遠ざける」ことの解決ではありますが、自分で食べるという能力は失われます。
転倒リスクの高い歩行状態の人への「車いすで移動してあげるサービス」は、安全で早く移動できますが、歩行能力を失っていく側面があります。
もう一つの違和感は家族の不在化です。
多くのご家族には「できる限り患者さん本人に寄り添って面倒をみてあげたい」という想いが強くあると思うのですが、それでもやむを得ず施設入居を決断した際に、施設側からの「全て安心してお任せください」は、患者(利用者)さんを家族から剥ぎ取っているように私には見えました。
また、少し視点を変えてみると、病院を代表とする『安心施設』におけるケアの課題にも気付きました。
「安心施設」の多くは包括型報酬で運用されていますので、24時間365日、包括的見守りと連続的ケアが前提となっています。
包括ケアではケアの裁量は施設側が持つことになり、それは施設側の「無限責任」を意味します。
つまり、転倒や誤嚥といった家庭で日常的に起こりうるインシデントでさえも管理することが求められ、すべて施設側の責任になるということです。
これでは踏み込んだサービスを提供したいと思っても、どうしても「リスクある領域には手を出せない」というジレンマに陥ってしまいます。
「職業家族」は、手を出しすぎない、家族から剥ぎ取らない、自己決定を尊重し本人・家族の自己責任の上で踏み込んだケアを実施する、というスタンスを貫きながら、本人・家族と地域包括ケアの繋ぎ役を担います。
これは、従来の「請負型」の施設サービスには無いポジションです。
――一部繰り返しになりますが、それはやはり前職の老人ホームや高齢者住宅の経営経験からそう感じられたのでしょうか?
そうですね。
実際に、当時は一部の施設では包括型報酬サービスで運営していました。
しかし、踏み込んだケアの提供、個別性を重視する、多様性を持たせる、など利用者本位のサービスに向かえば向かうほど包括報酬型サービスの施設では壁にぶつかりました。
施設側がすべてを背負わず、本人と家族の自己責任と役割を尊重するかたちで、家族と同様の覚悟と信頼のもとで踏み込んだケアとして関われるプラットホームを作ることが重要なのではないかと思います。
――「職業家族」という理念は実現できているとの感触でしょうか?
想像以上のレベルです。
うちのスタッフが、私が「ふわっとしたイメージ」で語っていたことを、実にイメージ通りにリアルに実行してくれました。
起業時には全て新しいスタッフを雇用して始めたので、最初からこんなにイメージが一致するとは思っていませんでした。
職業家族の周りには素晴らしいドラマが生まれています。
鴨宮ハウスでは、末期がん、難病などの重度な患者さんばかり入居されていますが、口から食べている方の比率が80~90%ぐらいでずっと推移しています。
そのほとんどの方が、入居される前は食べられていなかった、もしくは食べなかった方ばかりです。
――すごいですね! なぜでしょうか?
口から食べることに一定のリスクがある状態ではあるものの、手間をかけたり工夫をすれば食べられるということです。
たった10人足らずの入居者に専門の調理師。
嚥下の評価をしながらはもちろんですが、本人や家族から好きなものや思い出のメニューを聞き出すことが非常に大事です。
なぜなら、好きなものは飲み込み方を身体が覚えているからです。
他にも、亡くなる前にどうしても会いたい人やどうしても行きたい場所があったりもします。
これらをかなり実現していますが、もちろん簡単ではありません。
――外出に関してはどのようなエピソードがあるのでしょうか。
ある50代の末期がん男性患者さんは、死期を感じ始めた頃に、50km離れた横須賀の特養に入居しているお母さんに会いたいと言い始めました。
日々状態は落ちている状況です。
すぐにミーテイングが開かれ、翌日のシフトを調整して看護師1名が付き添って民間救急車を使って行く事になりました。
行程をシュミレーションし、あらゆる事態を想定しての出発でした。
結果、思いは遂げられるもので、こうしたトライアルは無事帰って来るものだと思い知らされました。
認知症のお母さんも、息子が会いに来た意味がわかったようでした。
そして、兄弟・家族が皆揃って涙の別れをすることが出来ました。
その数日後、ハウスで親族に見守られて亡くなりました。
これは、「職業家族」という理念をこれからも大事にしていきたいと強く思った出来事でした。(第1回・完)
※次回は、建築の工夫、人材面の工夫など、「職業家族」を構築するための工夫についてお話いただきます!
★日本ホスピスホールディングスのご紹介
【高橋 正社長のMEDでのプレゼン動画】
出典:youtube.com
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