ホスピスブーム到来を機に、「受け身」→「提供者」へ
2000年代最初の約10年間で、アメリカの在宅ホスピスの数は1.5倍に跳ね上がりました。
2000年にメディケア(65歳以上を対象とした公的健康保険)を持つ患者さんの23%がホスピスケアを受けて亡くなったのに対し、2010年では44%の人がホスピスで亡くなったそうです。
また、ホスピスケアを受ける期間も平均54日間から86日間に延び、多くの人が以前より適切なタイミングでホスピスケアを受けるようになりました。
それ自体はホスピスナースとして非常に喜ばしい事だと思うのですが、同時に気になる事がありました。
それは、1.5倍に増えたホスピスの多くが営利団体であり、それまであった非営利ホスピスの数は、実は減少していたことです。
つまり、その頃のメディケアのホスピスプログラムの医療報酬システムに、営利目的の経営者たちが目をつけ、見事にマーケティングに成功したわけなのです。
信じ難い事ですが、2012年には、フィラデルフィア郊外の営利ホスピスの経営者が、何億円もの医療報酬詐欺で逮捕された事件もありました。
私の勤務するホスピスは非営利団体ですが、こうした流れに乗り、患者さんの数は増え、チームも大きくなっていきました。
しかし、周囲には雨後の筍のように次から次へと非営利ホスピスがスタートし、競争も激しくなっていったのです。
それにしても、医療報酬は同じはずなのに、営利団体と非営利団体ではなにが違うのでしょうか?
その頃のホスピスプログラムの報酬は一律の日割りでした。
つまり、一日当たりに支払われる金額は決まっているもので、その内訳は各ホスピス次第。
要するに、同じ報酬を少なく使えば残りは増えるということなのです。
そうした裏状況を知ることができたのは、例のHPNA支部局で、営利的ホスピスで働くナース達との交流があったからでした。
そんな中、非営利ホスピスが正攻法で生き残る為には、より質の高いケアを提供し、「あのホスピスは素晴しい」という評判を得ることしかありません。
情報社会とはいえ、まだまだ口コミの根強さは侮れませんでした。
ただし、同時に経営の視点から、最前線にいるナース達は無駄をなくすことに関して気を配る必要が少なからずありました。
その頃から、私は自分がホスピスナースであると同時に、所属するホスピスの一員であり、その運営の一部を担っているのだという自覚を持ち始めました。
つまり、私個人のホスピスナースとしての仕事が、そのままこのホスピスの評価に繋がっているということに責任を感じ始めたのです。
そしてそれは、「自分がチームの成長の為に何かを提供すべき時期にある」という気付きでもありました。
わたし”だから”できることとは?
チームの中で私にできること、私だからできることとは何だろう?
そんな事を意識し始めてから、私は週に一度行われるチームミーティングで、次第に「発言」をするようになっていきました。
疑問や助言、自分の体験例など、失敗も含めてシェアすることで、チーム全体の知識と知恵を深めることに繋がると思えるようになっていったのです。
また、アジア系(中国人、韓国人、ベトナム人、インド人など)のケースがあると、自分のテリトリーでなくても、ときどき受け持ちナースの代わりに訪問するようになりました。
同じ言語を話さなくても、目や髪の色が黒く、玄関で靴を脱ぐ習慣を持ち、お互いに外国語訛りのある英語を話すというだけで、患者さんや家族はアメリカ人のナースとは違った親しみを感じるらしいのです。
言葉では説明しにくい事でもなんとなく通じたりして、受け持ちのナースにそうしたニュアンスを伝えたこともありました。
なお、滅多にありませんでしたが、患者さんが日本人の場合は、テリトリーに関係なく私が受け持ちになりました。
わたしにとっての「新人卒業」
こうしてホスピスナースとしての技量を磨いていくとともに、外国人であるというハンディを逆に強みとすることで、チームの中での自分の存在価値を少しずつですが確立していきました。
とは言え、ホスピス看護というものはやればやるほど奥が深く、知れば知るほど知らない事が増えていくものだということがわかってきたのも、この頃でした。
しかし、それこそが新人ではなくなったことの証だったのかもしれません。
(完)
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